気の迷いのエントリ(汗)。
きっかけはこちらの呟き。
法務部で働くに当たりどんな準備をしたら良いでしょうか?系の質問がよく来るので練習用ファイルを作成しました。これを全部良い感じに直せたらすごく良い感じ。
— かえる™ (@72jailbreak) 2021年1月27日
あなたはイグジビットの法務部員で、先輩部員のドラフトに対しアペンディクスからレビューが返ってきたところ。https://t.co/FtWyOEWf9S
面白そうなので、例によって気づいた点を呟いたので、それを整理して以下メモしてみる。50のオッサンが、パッと見た範囲で気づいたことをメモしただけなので、正確さは不明ということはご留意ください。以下、件の文章を見た人向けの説明なのでその点もご容赦あれ。
- 検討の前提としてこのNDAがなぜ必要なのか、このNDAの後にどういうビジネス展開があり得るのか、当事者との関係、取引規模とかトラブル履歴は要確認かな。契約相手の反社チェックとかも適宜すべきかと。
- 表題は、「覚書」とかにすると、検索しにくいので、原案のままか、「***に関する覚書」に留めるのが無難な気がする。
- 決裁過程の話は、急ぐなら、ノルのもありうるのかもしれないけど、迂闊に乗ると、トラブルになる気もするから、難しい判断かも。相手の法務とかに経緯が発覚した場合に、こいつはいざとなったら、内規違反にも加担すると思われると後々危険かもね、という感覚的な懸念(自分がやられたらそう感じるだろうなということだけど)。
- 秘密情報の定義のところは、開示が想定される情報にどういうものがあるのかを事業部門に聞いて、カバーされているか要確認。文言見ると打ち合わせとかで口頭で開示されるようなものの扱いが抜けてる気がする。そういうものについては、議事録にして一定期間(ここの期間をどうするかは現場の実務次第)内に双方で確認して、確認した旨を書面化する段取りは規定しておいてほしいところ。あと、今回はソフト開発のようだからないかもしれないけれど、現場工場見学とあるときはその場で見聞きしたもの、匂い、音とかまで考えるべきケースがあることは留意しておいても良いかもしれない。
- 秘密である旨の明示は実行可能かどうかは検討の余地があるような気がする。情報量が多いときに明示するのが面倒かもしれない。この点は、平素の管理方法次第だけど。それと、明示方法については、例示してもよいかと。秘密情報であることが理解されないと間抜けなので。
- 例外該当性についても立証可能かは考えてみて良い気が。特許出願する予定の情報は書面があっても外に出せないかもしれないので。
- 情報開示の目的のところは、導入可能性の検討だけでいいのかは、考えても良いかと。検討が終わって、感触が良かったらSLAとかに行くのか、とかそのあたり。フェーズを刻みすぎると手間が増えるという側面にも留意が必要かも。
- 2条1項のところは、ドラフティングとしては双務に戻すのだろうけど、もっと手前の問題として、こういう姑息なことをして、でも、そういうことを意図的にしてきていることがバレてしまうような相手とNDAを取り交わして秘密情報をやりとりして大丈夫なのか、情報管理体制とか笊じゃないのかとか、確認した方が良いと思われる。
- 2条の取扱責任者の定めは、人事異動とかで変更が生じるといちいち手続きを取ることになるので、その手間暇に見合うかという観点から検討の余地があるような。過去の勤務先でこの種の条項入れてたらそういうクレームがあったこともあったので。
- 情報の複製の話は、電子情報の場合、複製が容易な分、管理が徹底しづらい気がする。どこまで管理できるかは考えておいても良いかも。
- 第三者への開示については、関係会社とか下請とかをつかって検討する際には、ここまで厳格にすると手間なので、自社で責任を持つ前提で、例外にすることを考えても良いのかもしれない。それとは別に承諾については、合理的な理由なしに留保しないという英語的な発想の表現を入れておくのも良いかもしれない。さらにそれとは別に士業のように職業上守秘義務違反への制裁がある場合には、除外してもよいのかもしれない(この件では関係ないだろうけど)。
- 2条3項の話は、秘密保持義務が解除される旨明記した方が良い気がする。例外の対象は法令だけでよいかというと、裁判所の命令・判決の類はいれるべきだし、事案によっては、証券取引所(私企業)も入れるべき時があると思われる(M&A系の話の時は入っているのを見る。)。あと、dawn raidのような場合には、要請があったことそれ自体を開示できなくなる可能性があるので注意が必要かと。
- 関連して残留情報の扱いも考える必要がある。場合によってはコンタミ防止のための措置がいるのかもしれない。
詳細はこちらを参照(汗)。 - 損害賠償については、損害賠償を受ける可能性を考えると上限や範囲限定(直接かつ現実の損害に限る*1とか)も考えておくと良いと思われる。損害が生じたときに相手方の求める措置をするというのは、要求される措置が法外になるかもしれないので、商業的に合理的な、とか要れなくていいのかも検討の余地あり。
- 挿入のリクエストのあったものは、まあ、英米法的な議論との関係ではいれておいて損はないのだろう。海外の支店で検討するとかがあるならば特に。
- 契約書の有効期間は初回だけ10年を3年にしてるけど、その後も10年にするのかどうかも含め、期間がどれくらいが良いのか要検討。検討に要する時間や開示する用法の陳腐化のスピードとかを考えて決めるのだろう。当初期間経過後の措置も自動継続が良いのか、期間が長くなると、誰も内容を知らない契約だけが残ってしまうことも考えられるので、検討の進行見込みとかを考える必要があるだろう。
- 契約上の義務の存続期間の決め方としては、開示期間を定め、義務期間を開示後*年、という形を取ることもあり得るか。開示の時期によって、秘密保持義務の期間が異なるのは妥当ではないと考えるとそういう話もあり得るかも。
- 準拠法がないのは一応手当てをしておくべき。裁判管轄は、簡裁地裁両方書いてあるけど、簡裁でこの種の契約の争いをするのが妥当かというと疑問。あとは、那覇でいいのかは、物理的な秘密情報所在、検討の実施場所との変えあいで考えることになろうかと。
- あと、ありそうな条項で書いてないもので言うと、NDAによって開示を義務付けられないという規定や、開示により何らかの知的財産権を付与するものではない旨の確認とか、開示する情報はas isで内容の正確性は保証しないとか、さらには、逆の方向で、開示する情報については、開示する権限があるとかの表明保証とかをいれることも考えてよいのだろう。
- 検討過程で知財権が生じたら、どうするという規定もよく見るけど、今回の目的との関係では、不要ではないかという気もするところ。迂闊に出願とかされて、こちらの開示した情報が明細書とかに書かれても困るので、その辺は別途協議位にするのか無難ではなかろうか。
- 解除条項系は、一応何があるかわからないので、一定日数前に通知して理由なしに解除可能とするのが良いような気がする。
- 時折問題となる反社条項は、相手に向かって使うのが難しいし、その時点では自社の情報を持たれていることが想定されるところで、迂闊に発動して、変なこと(こちらが開示した秘密情報が他所に流される等)をされると困るし、反社だと思ったけど、違ったみたいなケースを考えると使いづらいので個人的には不要という気がする。そういうことを何も言わずに、情報については、爾後の開示を中止し、契約については、解除できる方がいい*2。
追記)ご本人が解説を挙げられているので併せてご覧ください。
よく見ると見落としていた点もあった…(汗)。