Q&A株式実務ガイドブック / 東京証券代行株式会社 (編集)

一通り目を通したので感想をメモ。最新の状況を踏まえたもので、上場企業の株式周りの業務に限らず、機関法務に関与するなら手元にあって損のない一冊という印象。そのあたりの入門書としても良いのではないかと感じた。

 

株式周りの実務は、現職でも過去においても、所属部署が担当だったことはない。とはいえ、気になる分野ではあるので、どこかである程度まとまったインプットをしないとな、と思いつつタイミングを逸し続けていた。令和元年会社法改正等を踏まえたこの辺りについての書籍が出たら見ようと思っていたところに、出たのが本書。東京証券代行*1の、経験を積まれた方々の手によるもの。

 

題名だけ見て買ったものの、中を見ると、株式実務だけに特化した本というよりは、その辺りを中心にした機関法務全般について、QA形式で広範に解説がなされているのに気づく。実務についての解説は、定評ある書籍等に基づき*2、タイムラインのあるものはスケジュール例を示し、実施状況については統計等も示されており、これらからある種の「相場観」のようなものを掴むこともできるだろう。株式実務プロパーの細かい話にいきなり接するよりも、こういう本で基礎的なところをまず抑えるのも悪い話ではない。全体が300頁余なので、通読もそれほど困難ではない。個別の話については、より詳しい本に当たることも出来るだろうが、こういう形で、ある種の全体像を鳥瞰することが出来る本はあまりないのではないか。機関法務周りの業務に就くにあたり、手に取る「最初の一冊」としても適していると感じる。

 

他方で、気になった点もある。前記のとおり、「最初の一冊」として使おうとした場合、個別の分野において、紐解くべき専門書についての紹介がない点は、どの本を見るべきかについて調べないといけないので、やや手間がかかる。もちろん、本書で語られる実務の対象である上場企業であれば、証券代行がついているだろうから、当該業者に問い合わせるなどしても良いのだろう。とはいえ、まず自分・自社側で確認したいということもあるだろう。そうなった場合の調べ物の手掛かりに乏しいのは、やや残念な気がした*3。ともあれ、前記の意味で類書のない有用性のある本なので、今後も適宜のタイミングで改訂を重ねてもらえればと思う。

*1:どうでもよいことだが、今回編者紹介を見て、同社が某重電メーカーから独立してできた企業であることを知った。どういう経緯で独立に至ったのかが気になるところ。

*2:そのあたりの依拠する文献などの紹介はやや少なめにも感じたが、全体の分量を抑える意味では、やむを得なかったのかもしれない。

*3:最近であれば文献のサブスクリプション系が使えるのであれば、検索をかければ足りるのかもしれないが...