製造 (【Q&Aでわかる業種別法務】) / 日本組織内弁護士協会 (監修), 髙橋直子 (編集), 春山俊英 (編集),

先日取り上げたこちらの本と似ているように見える本が出たので、取り急ぎ目を通してみた感想を箇条書きでメモ*1*2

メーカー法務の「中の人」のインハウス(”元”も含む)の方々が書かれていて、「中の人」ならではという記載もあるので、先の本とともに、メーカー法務担当者としては手元に置くべき一冊ではないかという気がした。

  • 先行した上記の書籍よりも薄いものの、扱っている範囲は、開発やコンプライアンス系に及んでいるので広い。 そのため、同じ内容を扱っていても、突っ込んだ記載は先の本の方があることが多い。また、このシリーズ自体がこれからその業種の法務に飛び込む人の入門的位置づけでもあるので、2冊のうち、まずはこちらを先に読む方が良いのではないかと感じた。もっとも、入門的な書籍という位置づけであれば、個々の記載について、突っ込んだ記載になっていないところが多いことも相まって、個々の分野で紐解くべき書籍の紹介がもっとあっても良かったのではないか*3
  • 序章の製造業の法務の特色、のところは「中の人」ならではの記載といえるのだろうけど、海外展開が別項目となっているのはサプライチェーングローバル化の中で適切なのか、疑問。調達のところで、海外からの調達(輸出入規制の問題とかもある。製品の輸出規制についての言及は別途あるのだが…)についても意識をした方が良いのではなかろうかという気がした。
  • 第1章。Q3の「2」については、違和感があった。契約の適用範囲を特定の事業部門のみに限定するのであれば、適用範囲を限定する旨規定を置く方が無難で、契約当事者のレベルで絞るのは、僕はすべきではないという指導を受けたからだが。企業の一部を契約当事者とみるというのは、疑義が生じる恐れがあるので問題なしとはいえないので(力関係上、受け入れないといけないケースがあるのは事実。P社とかがその例だろう。少なくとも今のところは、かの会社については、そのことが問題になることはないのだろうが…)。
  • Q4のところで、自社における4M変更や特採*4についての言及があるのは、先に挙げた本では確か言及がなかったはずなので、この本の優位点ではなかろうか。
  • Q5については、損害賠償額の上限の設定に際し、どういう上限額の考え方があり得るかの言及があっても良かったのではなかろうかと感じる。あまり上限額が低すぎると、いざ訴訟になった時に、実質的にゼロとして効力を否定される可能性も考えられなくはないので。
  • 知財周りも先に挙げた本より言及が多いのはこの本の利点。営業秘密についての記載が厚いのは実にメーカーらしいと感じた。Q6については、知財の非侵害保証が困難な理由として、権利取得のための出願を要するものについては、公開までの間のタイムラグの問題についても指摘があってもよいのかも。
  • Q9のOEM契約のところでは、何らかの契約違反の可能性が生じた場合に、委託側に監査する権限を残すことについての言及があってもよいのではないかと感じる。それがないと結局情報が取れないという事態も生じうるので。
  • 開発の章のうち、共同開発契約のところの記載については、いきなり共同開発契約締結の話になっているが、NDAの下で情報交換をして、双方がFeasibility Studyをするようなケースがあることについても言及があってもよいのではないかと思う。相手の能力の見極めなしに共同開発に入ること自体にリスクがある以上その種の段階を経るのはあり得る話だと思うので。
  • 調達・製造の章では、製造現場での事故やリコール事案が生じたときの対外的対応についての記載があってもよかったのではないか。先に挙げた書籍は、「取引」と題名にあるように契約関係に基づく議論に焦点を当てていたからなかったのかもしれないが…。また、継続的取引回りの解説が、判例なども引かれて詳細になされているのは、先に挙げた書籍にはないところ。企業内でこの手の話が問題となることが多いことの現れなのだろう。
  • 製品表示について、消安法に関するコラムがあるけど、景表法とかの話(懸賞の話や不実証広告に関する話とか…)がないのは、問題のような気がする。最終製品を作るメーカーでは問題となり得る話のはずだから。
  • 調達に関する部分で、自社のサプライヤーの倒産時または危機時期における対応についての言及もあってしかるべきかも。ここは、先に挙げた書籍では言及があったところ。
  • 販売のところでは、反社チェックや、事後的に取引相手がその種の相手と判明した場合の対応についての言及があっても良かったのではないか。ここも先に挙げた書籍では言及のあったところ。
  • コンプライアンス・ガバナンスのところでは、先に挙げた書籍では言及がなかったと思うが、dawn raid対応のところは、「中の人」で経験していないと書けないと思われ、有益。外国人労働者に関する記載も確かにこのご時世では必要なのだろう。USの訴訟対応のところは、被告になったら、まずは、現地弁護士を早急に選任して、社内にlitigation holdをかけるべきだと思うし、その点は、その理由も含めて、明確に書いておくべきではないかと感じた。
  • 最後にM&AのPMIについてのコラムもあるが、M&Aについての一定の解説も欲しかったところ。このご時世、避けて通れない話だろうから。ただ、シリーズもので紙幅の制限もあったのだろうから、ないのはやむを得ないところか。

 

追記)本書については、次のエントリも併せてご覧あれ。

bateau-ivre.doorblog.jp

chikuwa-houmu.hatenablog.com

 

*1:現役のメーカー法務の方が比較して読む、などのコメントをされていたので、そちらに期待もしていて、その旨TL上でコメントしたが、他人に期待ばかりするのもどうかと思ったので、取り急ぎTL上にメモを取りつつ読んでみた。

*2:あくまでもこちらの個人的な感想なので、事実誤認などあるかもしれないが、見つけた場合には適宜の手段でご教示いただければ幸甚です。

*3:記事によっては、参照文献が載っているが、寧ろ記事を書いた人間が参照した文献であって、further readingという意味のものとは異なると思われる。

*4:特採については、別途奥邨先生がコメントされていたように、品質問題が生じる可能性のところでどこまでそれを認めるかは、慎重な検討が必要と感じるところ。