スキルアップのための企業法務のセオリー 実務の基礎とルールを学ぶ 第2版 / 瀧川 英雄 (著)

定評ある入門書が改訂されたので入手して目を通したので、感想をメモ。

 

初版に目を通したのが約10年前で、その時はレクシスネクシスから出ていたのだが、同社が出版事業から撤退したことを受け、第一法規から出るようになった*1。最近の状況も踏まえた形で改訂がなされており、(比較的)時宜にかなったものとなっている*2

 

全体で250頁余とコンパクトにまとまっているのと、図表の適切な利用も相まって読み易いので、企業内法務の新入社員に渡しても、何とか読み切れるような気がする。語られているのは、初歩のうちに理解しておくべきものといえ、実践については、環境上の制約条件からできないこともあるし、それがなくてもそう簡単な話ではないが、最初のうちに一読しておくことは、有用なことといえる。

 

単著ということもあり、どうして著者の経験企業に由来する部分の影響があるのではないかと感じるが*3、そう感じたのは、リソースなどについては、潤沢にある(例えば調査のためのデータベースとか)ことが無意識の前提となっている点だろうか*4

 

また、初版についての感想で書いたような、社内の関係部署との連携についての言及はまだない。これらについては、そもそも企業内法務の社内での分掌がさまざまなので書きにくいからかもしれないが、言うほど簡単な話でもないので、早いうちから理解しておくべきと思うので、次回改訂時に加筆を期待したいところ。

 

上記の点以外に望む点を挙げるのであれば、この手の入門書は、「最初の一歩」である以上、文献案内は欲しかったところ。実践あるのみ、というものではあるまい。この点リサーチに使う基本文献が古かったところを考えると*5、著者も最近の書籍には疎くなっているようにも見えるので、他の方の支援を得るのも一案なのかもしれない。

 

ともあれ、こちらが挙げた点は全体から見れば些細なものであり、企業内法務に初めて関与する方々に、まず渡す一冊としては、良い本だろうと考える*6

*1:この点について奥付でも言及がある。取ってつけたようにではあるが、後述の読み易さは同社編集によるものと思うので、そうであればなおのこと言及があるべきだろう。

*2:過去の記載の全面書き換えになっていないので、会議のマネジメントのところなどは今どきのペーパーレスでの会議には対応しきれていないように見えた...。

*3:その意味では経営法友会の本の方が無難ではないかと思うが、最近の事情を踏まえた改訂がないので、現時点では使いにくいかもしれない。

*4:これはこちらの現勤務先が必ずしもそういう状況にあるとはいえないから、そう感じるのかもしれない。

*5:会社法で前田庸教授(故人)の本とか不競法で田村教授の本(第3版が出るという噂があったが…)をあげているが、後者についてはそもそも入手が難しいし、いずれのものも最新のものではないので、無留保で挙げるのは誤解を招くだろう。

*6:ただし、僕がそういう用途で使うのであれば、セオリーはセオリーでしかなく、常に妥当するものではなく、時としてそれに反する対応をすることが必要となること、書かれているものですべてではないこと、は注意喚起をして渡すだろう。