企業内法務の交渉術 / 北島敬之 (著)

 

出たとき*1に買って、積読の山にあったのだが*2、今回目を通したので感想をメモ。企業内法務の担当者であれば(おそらくは、企業外の弁護士であっても)、手元にあると良いと感じる一冊。

 

商社の法務から、転職を経て、外資系メーカーの法務責任者兼代表取締役*3という、法務の大ベテランの著者が、交渉術、に絞って、ご自身がこれまでに培ったものを、初心者にもわかりやすい形で提示してくれているもの。ベテランが語り掛けるような文体で読みやすく一気に読める(こちらも一気に読んでしまった。)。執筆中には、巷に出回っているこの手の本は読まない、として、ひたすらにご自身の蓄積を見せてくれているのは、壮観という気がする。自分の中にあるもの、を書き出してみるということは、こちらも、つたないながらも、本blog上でやってみることはあって(例えばこちら)、それはそれで面白いと感じる反面、やってみることで足らない部分にも直面するので、ここまで整理された形で提示できる点で、著者の経験の豊富さに驚かされる。

 

本書は総論的な心構え編と、各論的な実践編があり、後者では、いくつかの場面における交渉術が語られており、その内容からすれば、著者と同様に企業内法務の方々が主な読者なのは理解しやすい。もっとも、企業外で企業法務に関与する弁護士さんなどにも有用だろう。

 

こちらの見る限りの、本書の要諦は、可能な限りの情報を集めてそれを基に可能な限りの分析とシュミレーションを行ってみること、場面場面での行動について何のためにしているのか把握すること、都度相手の立場を想像して考えること、というあたりになってくるのではないかと感じた。場面ごとの解説については、分析やシュミレーション、相手の立場を想像するうえで有用な記載があるから、類似の場面に立ち至りそうなときは、都度本書を紐解くことで得られるものがあるのではないかと感じる。そういう意味で、手元においておくのが良いと感じる一冊。

 

個別の法律論に立ち入るような内容ではないから、刊行から5年たっても古びているとは感じるところはあまりない。しかしながら、リモート下での交渉とかになってくると、対面原則の時とは取れる手段が異なってくる部分もあると思うので、できれば著者には、そのあたりについての知見も含めて改訂をしていただければと思う。

*1:今見ると2016/12/18付の本屋のレシートが挟まっていた。奥付からすれば2017/1/5付で出ているのだが...

*2:司法試験の勉強の佳境の時期だったから、将来読めるように、と買うだけ買ったのだった。そういうことをしておかないと、読みたいときに読めなくなるので。それをしそびれて後悔している本が数冊ある。

*3:以前聴いたところは社長ではないらしいし、そういうとご本人が不機嫌になるという話である。真偽は不明だが。