株主総会資料電子提供の法務と実務 / 塚本 英巨 (著), 中川 雅博 (著)

遅まきながら(?)、一通り目を通したので感想をメモ。この分野の実務をするなら必携という気がする一冊。

 

企業内法務でも機関法務(片仮名でいうとコーポレート法務というところか)は、正直あまり好きになれない分野で、とはいえ避けて通れないので、ぶつくさ言いながらやっている。年が明けて、次回の総会のことが気になりはじめた。次の総会では、総会資料の電子提供が必須となることを踏まえて、定款変更の総会決議を取らないといけないという程度までしか認識していなかった。とはいえ、定款変更をした後、実際に電子提供を始めるとなるとどうするのか?というあたりが、気になってきた。そこで、積読山にあった本書を紐解くことにした。

 

会社法周りの専門家の弁護士さんと信託銀行の方の共著で書かれた本書は、電子提供に絞って解説をされていて、お二方のバックグラウンドを活かして、実務の細かいところまで視野に入れて、適宜文例なども示しつつ、丁寧に解説がなされていると感じた。定款変更は確かに必須だけど、定款変更のやり方にも、実際にはいくつかバリエーションが考えられたりする点や、変更後の実務、特に、電子提供にかかる会社法施行後6カ月を経過して最初に行われる総会に際しての実務(例えば当該総会招集にかかる取締役会で何を承認すべきか、とか、電子提供をしても必要となる通知(アクセス通知)に何を書くか)、それから、株主の書面交付請求権に関する様々な実務等々について、なるほどと思いながら拝読した。正味は200頁なのだけど、中身が濃く感じて、目を通すだけでも、思ったよりも時間がかかってしまった。

 

一通り目を通して見ると、こちらの勉強不足ゆえのことでもあるのだけど、思った以上に総会周りの実務のあちこちに変化をもたらすことになる改正ということを感じた*1。また、2023年総会では、改正の効果が生じて最初の総会になることが多いと思われるが、そのときには、色々と従前の実務に変更が生じるので、必要な変更に抜け漏れが生じることのないようにする意味でも、本書に一度目を通したうえで、都度確認しながら進めることが重要なのではないかと感じる*2。そうした意味で、本書は必携の一冊という気がしている。

 

 

 

*1:さらに、今後の進展として基準日の柔軟化等に期待を寄せておられるが、書かれているように、会社の中での総会対応業務の負荷の年度内での分散を考えると、寧ろ総会周りはさっさと終わってほしいという面もあるので、制度上可能となっても、実際に柔軟化等が生じるかどうかは別問題というか、個人的には、柔軟化等は広がらないのではないかという気がしている。

*2:もちろんそれなりの企業であれば、総会については、証券代行、印刷業者、それから顧問弁護士のチェックも入って、どこかで抜け漏れは検知されるだろうとは思うが、それでも第一義的には企業内法務の担当者が気づくことが望ましいと思うので、確認できることの重要性は変わらないだろう。