ジュリスト 2022年 01 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    ドイツのロビイスト登録制度創設は、ロビイストが法制上明確に位置づけられているとは言い難い本邦との彼我の差を感じる。そのうちに日本も何らかの制度が導入されるだろうか。
    アメリカのオピオイド蔓延対策立法については、オピオイドとの意味も良くわかってなかった。それなりに手を打っているようだけど、一定の効用が認められる分、完全禁止が出来ず、対応が難しいのではないかと感じる。
  • 判例速報。会社法のものは、東京機械の件の東京高裁決定。MoM要件って何?という不勉強ぶりなのだが、とりあえず概要がつかめた感じがする。
    *1
    労働判例速報は、労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき労働契約の成立を認めた裁判例。労働契約の成立を認めた事例はそれ自体意義あるもので、立てられた基準についての解説には納得だけど、基準が特段の事情により結論が変わる部分を含んでいるので、その点の詳細は、更なる裁判例の蓄積を待たないといけないのだろう。
    独禁法事例速報は、アプリ提供者に対する拘束条件付取引の件。アメリカのエピック訴訟判決との関係でIAP使用の義務付けを問題視しなかった理由を読み解く部分は特に興味深かった。
    知財判例速報は、人の使命と商標法4条1項8号の件。原告の著名さゆえの判断というべきだろうし、その点を指摘する評者の指摘には納得。判旨の示す基準で判旨と同じ結論が得られる限界がどの程度のところにあるのかは今後に期待、なのは確かだろう。
    租税判例速報は私的整理での債務免許に基因して第二次納税義務が課された事例。経営困難となった会社の私的整理による再建を図ろうとするときに会社が経営者に対して負う債務の債務免除を図ろうとするのはよくあることではないかと思うけど、そこで二次納税義務を課すのがそもそも妥当か疑問が残った。
  • 読む前からうんざりしているSDGs特集。げんなりしつつ目を通す。
    総論の記事は、これまでの経緯のまとめとしては有用なのだろう。個人的には、国連決議という形でその内容の実効性がどこまで担保されるのか、特に米国と中国に対してどこまでの効力を持たせられるのか、という疑問が残ったが。
    ビジネスと人権。「と」で引っ掛かる。結局のところビジネス対人権なのではないのか。そのあたりを意図的に曖昧にしている印象もあり、その時点で胡散臭いと感じる。アクターとかコミットとかなぜ片仮名なのか正直よくわからないとか、違和感を覚えるところが多い。擁護派の戦略性には感心する部分もないわけではないが、胡散臭いという印象は消えない。
    貧困と教育の論文は、SDGs云々はさておき、憲法26条についての議論として読むと興味深く感じた。同条の実践的意義のうち、高校及び大学教育についても無償化が要請されるという点については賛成するところ(教育を受けるのであれば無償、という限度で)。
    人権+平和(以下略)の論文は、意識高い系だなあと思いつつ読むが、検討のところで示されている現状に対する疑問点の提示には納得するところが多かった。
    国際社会におけるSDGsの系譜と将来展望は、国際環境法の分野でのこれまでの議論の概観と今後の展望というところか。想像していたよりもずっと前から議論がなされていたことに気づく。
    SDGsと気候訴訟は、全世界で見るとこれだけその手の訴訟が起きているのか、とやや驚く。訴訟で何とかできる話なのかというとどうなんだろう、単なる司法資源の無駄遣いではないかという疑義は、特に本邦においては、禁じ得ないものがあるが。
    法律問題としてのプラスチックは、プラスチックをめぐる法律問題の概観として有用、というところか。法律が色々あって統一的な理解がしづらそうな気がした。
    地域循環共生圏の記事は、書いているのが環境省という段階で、眉唾感が無きにしも非ず。上手く行っている事例の紹介はあるけど、それがどこまで一般化できる話なのか、という疑念も消えず。
    コーポレート・ガバナンスとSDGsの記事は、EUでの状況についての記載を見るとGDPRみたいに本邦にも影響(被害というべきか)が及びそうな予感というか、結局飯のタネにする連中に食い物にされそうな予感がして、げんなりする。
    ESG投資と企業行動は、読んだ限りでは、ESG投資が企業行動にどう影響するのかは十分明らかとは言えないように感じた。
    ビジネスと人権をめぐる(以下略)、要するにRBCの話。外務省の人が書いているので、名目はさておき、ある種のポジショントークなんだろうけど、表向きはそうかもしれないけど、正味どうなのという疑問が残った。
    SDGsと新たな労働法政策。フワフワしていて良くわからないという感じ。
    SDGsと企業・労働関係実務。サプライチェーンに責任を持てと言われて責任を持てる企業ばかりではない点はどう考えているのか、正味分らない気がした。
    総じて、既に仕事上でうんざりしているというところから、相当偏見に満ちた目で読む羽目になった特集だが、うんざりしたという以上の感想はあまりなかった*2。こういう感想があることもしっかり呟いて残しておくべきだろうと思うので*3
  • サステナビリティ(って結局何?)の杜。SDGs系の連載。何だかフワフワしている感じ。意識高すぎてついていけない気しかしない。
  • 実践知財法務は著作権法における利用権の当然対抗。利用権の対抗に伴う契約の承継についての検討が興味深かった。個人的には、著作権の譲渡に伴い利用許諾契約が承継されるかという点については、著者の推す非当然承継説に賛成したい。賃貸借契約における議論と同様の議論をするのは無理があると思うので。
  • 時論は、図書館における貸出記録・履歴の保存とプライバシー。著者指摘の今後の課題には納得。データの保管には責任と責任を果たすだけの資源があることが必要という点が、意識されなさすぎではないかという気がする。安易に保管すればいいというものではない*4
  • 時の判例
    最一判R3.3.18の薬機法36条の6第1項、3項についての件は、薬事法判決の読み方についての解説や立法事実の最高裁における審査の在り方についての指摘が興味深い。
    最一判R2.10.1の科刑上一罪となる数個の罪があるときの判断の仕方についてのものは、あまり考えたことのない話ではあるが、「刑の具体的量定よりも刑種の選択が先行する」という指摘からして、なるほどというところだった。
  • 判例研究。
    経済法のFitbitの件。指摘されている審査内容からすれば、大要審査の踏み込みが甘いという評釈の批判は納得するところ。
    商事の社員二名からなる合同会社における除名事由の解釈については、合同会社という仕組みからすれば、判旨の判断枠組みも理解できるかなというところ。事案それ自体も興味深い。商事部は家事部という指摘を裏付ける感じか。
    会社法319条1項の同意と総会決議不存在の確認の利益の件は、事実を見るとこれまた商事部は家事部という感じの事件。319条1項の意義については、まあ、そうだろうなあという程度の薄い印象しか受けなかった。
    暗号資産流出事件の場合に交換業者が送信指示に応じる義務の件は、そもそも暗号資産とかからっきしわからないし、正直興味もないので、評釈の内容は良くわからなかった。暗号資産には手を出さないでおこうと思った(小並)程度。
    プロジェクト途上の雇止めの適否と無期労働契約の成否については、プロジェクトに紐づいた雇用であることを考えると、評者の批判は納得するところ。
    中退共退職金とDB・厚生年金基金の遺族給付における配偶者概念の件は、給付事務処理の事務の手間や他の死亡退職金制度への適用可能性も視野に入れた形での判決の射程分析が良いと感じた。
    不相当に高額な役員給与の判定に最高額を用いた裁判例は、評者の9項目にわたる批判が凄い。批判については、素人目には、納得してしまうのだけど、玄人眼にはどうなんだろうか。
    外国の損害賠償判決が理由を伴う懲罰的賠償を含み、同国内で一部が弁済された場合の執行判決。海外での議論も踏まえた批判は興味深いけど、最高裁がそういう議論を踏まえた検討をしないといけないという話になるのか疑問が残った。
  • 最後に新・改正会社法セミナー。
    会社補償のIXは賠償金・和解金の額の限定。実務的にはそれなりの会社であれば、補償契約で手当てをするということで終わりそう。寧ろそういう手当てが何らかの理由で抜けた時が問題になり得るのだろう。その際には、田中先生ご指摘の、和解の名の下に第三者の利益を図るかのような極端な場合には、補償契約の定める「和解」とは認めない、という「和解」という文言を制限的に解する解釈論は効くのだろうなと思う。
    Xは見出しがややわかりづらいが、内容は、補償契約で裁量が認められるときの補償支払について、重要な業務執行としての取締役会決議の要否、というあたりと理解した。利益相反性との切り分けの検討は興味深いが、最後に田中先生と澤口先生からある種のちゃぶ台返しが繰り出されて、面食らいつつも指摘には納得。
    XIは取締役以外の者との補償契約締結の可否と、XIIは保証契約に基づかない補償は補償契約に関する開示の対象外か、とは、実務上のニーズは高くないと澤口先生に切られて終わり、だったけど、両方ともいったいなぜ設問に上がったのかよくわからない気がした。
    次いでD&O保険の話に。
    IはD&O保険締結の利益相反該当性。旧法下での検討を踏まえての検討は田中先生がさらっと、コンメンタールには書かなかったのですが、と前置きして話す内容も含め、興味深い。
    IIは取締役全員が被保険者となる場合の369条2項の適用の有無で、ここはさらっと終わるのは当然かもしれない。
    IIIは、子会社取締役を被保険者とするD&O保険についての子会社取締役会での承認の要否。会社サイドのコスト面からの正当化を前提にした議論に対して、投資家サイドから、そもそも個別に付保すべきではという疑義が出るのが興味深い。
    IVは「職務の執行の適正性が損なわれないようにするための具体例」について。措置の内容と開示のあり様についての検討だけど、投資家サイドからの一言に苦笑。
    VはD&O保険締結について利益相反取引規制を適用しない実質的な意義。結局何が当たるのか、よくわからない感じがした。
    VIはその他。D&O保険の決議追認は、社外取締役が多くてタイムリーに取締役会が開催できない可能性を考えるとできないと困ると思う。契約内容の概要の開示がない場合にD&O保険が締結できるかという点については、虚偽開示になるような場合ではなく、方針変更の結果とあれば、できるとしておくべきなのだろう。そういう方針変更が生じることそれ自体への評価は別途考えるべきとして。
    VIIでは補償契約を認めた法制下でのD&O保険と補償契約それぞれの存在意義。両者並列でかけることを積極的に評価する論調で、先般の某実務家の先生方の某セミナーでの論調とはやや異なる印象を受けた。感じ方の問題というところなのだろう。

*1:どうでもいいけど、弥永先生が明治に移られていたのに今更気づいた。

*2:持続可能性との関係では、先陣を切っている欧米が、そもそも持続可能性を減じる主たる原因を作ったようにも見えかねないところで、何をいまさら掌を返したように言うのか、偉そうなことを言えるほど、あなたたちの手はきれいなのか、という疑義を禁じ得ず、その点への反省が見られない(彼らが反省するのかという疑義はさておき)時点で、言説を聴く気が失せるというのが正直なところ。

*3:この種の理想の気高さ自体は認めるべきという言説にも接したし、その点までは否定する気はないが、現実が既にここまで「汚れている」ところで、理想の気高さを唱道することに何の意味があるのか、個人的には疑問を禁じ得ない。

*4:昨今問題となっている学習履歴の件も似たようなことが当てはまるように思う。