ジュリスト2021年10月号

例によって感想を呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    ドイツの被世話人の件は、被世話人という表現が興味深い。日本法の被成年後見人等の表現に引きずられないようにしようとしたものだろうか。俎上に上がっている事件については事案からすればそうなるだろうなと思う。
    アメリカの新型コロナワクチン接種義務化についての件は、州立大の接種義務付けの差止請求の訴えが連保伊最高裁まで既に上がって判断が出ているのに驚く。判断の論理については、個人的には納得できるところ。個人の自己決定権への配慮も見えるので。
  • 特集。CGコード改訂。
    藤田先生の冒頭の文章は特集の趣旨と後続の論文がどういう点に焦点を当てているかの解説。
    濱田=水口論文はコード改訂の概要や経緯などを解説するもの。通り一遍という感じもしたが、この位置の記事であればそれもやむなしというところだろうか。
    飯田先生の論文は市場区分とコーポレートガバナンスの在り方の関係。スタンダード市場とプライム市場の区別についての記載は何だか歯切れが悪い気がした。東証がスタンダードを二軍扱いされるのを嫌がっているらしいのに配慮しているからだろうか。実際の企業の挙動がまだ読みづらいからと思うことにする。
    松中先生の論文は役員レベルで多様性を向上させる意義について。実証研究からは何かをいうのは難しいようだということしか、僕にはわからなかった。企業のパフォーマンス向上のために従業員レベルの多様性向上をはかる手段として、取締役会の多様性を追求することは正当化され得るのだろう。
    久保田先生の論文は、コーポレートガバナンスサステナビリティという題だけど、そもそもサステナビリティなるものが何かよくわからないので、議論が雲をつかむような感じがして、よくわからなかった(駄目)。
    高橋先生の論文は企業グループとコーポレートガバナンス利益相反リスクとかエージェンシー問題とか、あちらを立てればこちらが立たずという感じではあるが、アメリカ式の取締役会を志向するなら、その当否はさておくとしても、支配株主の信任義務を認める方が素直な気がした。他国の制度を入れるなら、ある程度の単位でセットで入れないと機能しない気がするから、そうするのが自然な気がするので。
    特集については、そもそもCGコードなるものが何なのか、立ち位置が半端じゃないかとずっと思っていることもあり、釈然としない感じが残った*1

  • 第204回国会の概観。
    こんな法律ができたのか、という目で眺めるが、記憶に残りそうにない。地味に今後も含めたジュリスト・論究ジュリストでの取り上げ方への言及があるのは便利かもしれない。冒頭の概況は、こういうことあったなあと、つい遠い目をしてしまったが、今年の前半の話なんだよな(溜息)。
  • 判例速報。
    会社法は、会計限定監査役の任務懈怠の件。監査役の任務について平成17年改正前商法の片仮名の法文が出てきて読むのに手間取ってしまった。会計監査人設置会社以外の会社の監査役の任務の範囲を条文から検討しているところは素直に勉強になった(汗
    労働判例速報は、コース別人事制度の性差別。書かれている事案からすれば性差別は認められるだろうと思うと、何について違法を認めるかについての判断に違和感。と思ったら解説で批判されていて、解説の批判に納得。
    独禁法事例速報は、非純正品に対する仕様変更と抱き合わせ・と取引妨害の成否、で2つの取り組み事例についての相談で、回答も納得しやすい気がした。解説で示されているように結論に至るロジックが分かりやすいので、経済法受験生にはいい教材なのかもしれない。
    知財判例速報はタコの滑り台事件。応用美術の著作物性は、TRIPTRAP事件の峻別不要説なのか、分離可能説なのか、よくわからないけどどうなるんだろうか。
    租税判例速報は定期傭船契約付き船舶の評価方法についてのもの。評価方法の判断過程についての評者の批判に賛成。
  • 時の判例
    死体解剖の写真データの民訴法220条3号該当性が問題になった件は、遺族の、死体を解剖されない自由が出てきて何でそんな議論になるのかと思ったら、3号の条文にあわせるとそういう議論にならざるを得ないということに条文を見て気づく。正直条文の方をいじるべき話じゃないのかと感じた。事案からすれば、文書提出命令が認められるべき事案ではないかと思うので、このような議論をしないと出ないのは結果の妥当性を欠く気がした。
    少年保護事件の担当調査官が少年について論文にして公表した件については、利益衡量の結果なんだけど、利益衡量で考慮要素が示されているだけだと、結局よくわからないという印象は残る気がした。考慮要素だけだと、その要素の重みとかわからないので。
    複数債務が同一当事者間にあるときに充当していなく一部弁済に全債務の債務承認を認めた件は、借主は、自らが契約当事者となっている数個の金消契約に基づく元本債務の存在を認識しているのが通常というのが前提になっているけど、この前提がどこまで妥当するのか疑問。債務整理を行うに至るような多重債務者にこの種の前提がどの程度成り立つのか、成り立たない人が相当程度いるのではなかろうかと感じるのだが。
    児童ポルノの意義などについてのものは、保護法益とか「児童ポルノ」の意義とかからすればそうなるのか、という感じ。そもそも土地勘のない分野なので。
  • 判例研究。
    経済法の小売業の納入業者に対する優越的地位の濫用の件は、複数の納入業者に対する行為が1個の違反行為と評価できる場合は、すべての納入業者について同一の期間で購入額を計算し、それを基礎に課徴金を計算しているのだけど、何故そうなるのかはよく分からない気がした。
    成年後見人が未成年者を代理して締結した生命保険契約の件は、何よりも、保険外交員の未成年後見人が未成年者を使って自分の売り上げをあげた点が判旨で問題視されていないのはまずくないかと思ったら、評釈でそこが指摘されていて、自分のその点の読み方が大外ししていなかったようでちょっと安心した。
    株主による臨時株主総会監査役の開催禁止の申し立ての件は、株主招集の総会について決議取消の訴えと取締役等の職務執行停止の仮処分とで救済手段に欠けることはないというのには個人的には疑問。その種の手続きには時間がかかるから、その間に会社財産が毀損されるケースとかに対応しきれるか疑問に感じた。裁判所により招集が認められたからと言って何をしていいという意味ではないはずだから、実際の招集過程に問題があれば、株主招集であっても差止とか認めないとおかしくないのかという気がするのだけど。
    利益保険における利得禁止原則と請求権代位の件は、利得禁止原則の適用の仕方が良くわからなかった(汗)。
    学部廃止に伴う人員整理および雇止めの有効性、の件は、大学の学部廃止のプロセスが何だか生々しく感じた。あと整理解雇については、四要素説が通説ということでいいのだろうか。個人的にはその方が妥当な気がしている。一つでもパスしないものがあるとだめ、という四要件説は硬直的すぎる気がしていたので。状況に応じてある程度の柔軟性はあるべきという気もするわけで。
    (自分が会社側だからそう思うのかもしれないが)
    出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇の効力などが問題になった件については、均等法9条4項ただし書の意義についての検討部分が読んでいてよくわからなかった。
    販売用居住マンションの購入代金と仕入税額控除の件は、判旨における消費税法30条2項1号の文言解釈の方法についての議論が興味深かった。確かに税法の文言について個別事情を踏まえて解釈するというのは、疑義があって然るべきかもしれない。
    英国籍を有する被相続人の本国法及び遺言・相続準拠法については、対象資産の性質によって準拠法決定原則が異なるというのには驚く。ややこしすぎる。
  • 時論は「孔子廟訴訟」大法廷判決について。PhilosophyとReligionの間にあるcivil religionという考え方を事案の分析の参考にするという視点が興味深かった。ゼロイチで考えないのは重要なんだろう。
  • 最後に新・改正会社法セミナー。
    株主提案権(2)。提案個数についての様々な論点だけで1回使うというのが凄いというか、それだけ論点があるというのが分かってなかったのをまず反省した。これは、こちらが株主提案の取り扱いに事務方として悩んだ経験が少ないからなのだろう。
    (1)は10個の特定に関する問題。
    1の適法な提案から10個選ぶ必要があるかという問題は、田中先生の、法制審事務局の解釈の暗黙前提の指摘や、藤田先生の個数制限の基本的な発想から振り返る議論の整理が秀逸と感じた。
    2は株主名簿上の株主が相違すれば実質株主が同一でも議案数は制限されないか、のところでは、研究者の方々の検討に対して実務側、特に投資サイドの方から株主側からの見え方・見せ方についてのコメントが出て議論がまとまっていく過程が面白かった。
    3の共同提案に関する問題点では、共同提案の扱いとかに直面したことがないので、そういう問題が生じうるのかと感心しつつも、実務家の方々の実務的な割り切りが興味深かった。
    (2)の数のカウントに関する問題
    1 定款変更議案の個数に関する事例、については、会社側で議案を分割できないかという研究者の方々の議論も面白いけど、実務サイドからの突っ込みというか、提案理由と整合しなくなるから実際には分割は困難ではないかという指摘には納得。
    2の判断に際しての提案理由の考慮は、提案理由に記載ある目的を阻害する分割は不可という程度は考慮して良いのではないかと感じた。その他のところはどこまで考慮して良いのかわからないうえに、考慮しすぎると問題は確かにありそうが印象はあるだろうけど。
    3の定款変更議案の判断基準の形式適用の問題、は具体的な議案例を使った検討で、議論が面白いと言えなくもない。米国のように1個としていた方がこういう面倒な議論が生じなくてよかったのではないかという気はするけれども*2
    4「2以上の議案」の解釈は、審議過程の資料から暗黙の前提を指摘する田中先生のコメントが興味深かった。
    5 定款変更議案以外の議案の個数の数え方、では、問題がありそうな事例に対して提案理由を勘案した対応が提示されているのには納得。提案理由の書き方も重要ということと改めて感じる。
    (3)その他
    1 株主がまとめて1議案として扱うことを要求できるか、は10個制限の適用外の前提での検討。議案のパッケージ化、特に役員選任議案でのそれについて、投資家サイドの投票行動の実例も交えた議論が面白かった。
    2 採決の方法、は実務の解説が、まあ、そうだろうなと肚落ちする内容と感じた。情勢を見て、決議取消のリスクと手間のバランスを踏まえて、議場での実際の行動は決まるだろうと思うので。

 

*1:この特集については、こちらのぐだぐだの感想よりも戦士さんのコメントを参照される方が良いいと考える次第(汗)。

*2:その場合には、1個の範囲についての議論が生じることはあるだろうけど...。