ジュリスト2021年12月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 判例速報。
    会社法の件は、被告会社の旧称とか書かれていたのは、分かりやすかった反面で、必要だったのかという気もした。解説でのこの判決の射程の広さの指摘はなるほどというところ。
    労働法の件は評釈で指摘されているように、諾否の自由を過大評価している気がした。労働者性が否定されるというのが妥当かどうかも疑義が残った。
    独禁法の件は、先行事例を踏まえた判旨の解説はいいのだけど、評者自身はこの判決をどう考えているのかわからず、なんとなく消化不良感を覚えた。
    知財の件は、twitterプロフィール画像著作者人格権の成否だけど、個人的には肚落ちしない感があった。
    租税の遺産分割成立後の更生の請求の件は、形式的に見える結論で、評釈で指摘されているように実質的な理由が示されていないので、問題ありと感じた。
  • 海外法律情報。
    フランスの気候変動対策関連のものは、改定CGコードにも出てくる問題意識と共通するものを感じるが何だか世知辛いという印象が残る。
    イギリスのテロ対策法の記事は一部の法令について欧州人権条約違反と貴族院上訴委員会が判断したというのが印象的。きちんと裁判所が機能していると感じた。
  • 時の判例
    違法行為の転換の認められた件は、事案が無意味に複雑な補助金スキームが謎すぎるのはさておき、違法行為の転換を説明するために、受験勉強の時の基本書でに引き合いに出されていた事件が昭和20年代のもので古すぎてもはや認められないのではないかと思っていたのだけど、この令和でも認められているのを見て、やや驚いた。
    懲罰的損害賠償の支払命令を含む外国判決の件は、弁済の充当関係の検討が興味深い。また、事実のところをみるとこの判決が第2次上告審とかなので、相当手間暇のかかっている話のはずで、こういう事件の当事者にはなりたくないなと感じた。
    刑事の上告裁判所が原判決を破棄にするにあたり口頭弁論を経ることを要しないとされた件は、事実からすればそうなるだろうけど、理屈としては、やや苦しい気がした。
  • 判例研究。
    商事の株式譲渡契約の件は、メインの話は正直ややこしい事実関係もあって興味が持てなかったけど、錯誤無効の主張に対する判断の仕方が興味深かった。この種の議論が横行すると契約書でConsultation with an Attorney clauseを設ける実務が広まるのかもしれないと感じた。
    人傷一括払いの件は、損害保険系の実務をしたことがないので、争点の所在は理解できてもその実務での意味合いが肚落ちしない感じがした。
    墓地売買契約等業務委託契約における宗教法人の債務不履行責任についての件は、信義則違反による債務不履行責任を否定した判旨を批判した評釈に同意。他の手段(ここでは利益相反取引)で取引の効力を否定できるならその方が良いと思う。
    組合の要求を自力執行の形で実現する目的に出た指名ストの正当性の件は、指名ストの態様や労組側の応対の態様として示されている内容からすれば、判旨の通りになるのも仕方ない気がした。労組側の戦い方については、もっと工夫できなかったのだろうかという気がした。
    被虐待高齢者の短期入所措置および事実上の面会制限の違法性の件は、高齢化社会をここでも実感しつつ読む。短期入所のときに高齢者虐待防止法に面会制限の根拠規定がないというのは立法上の手当てが要るのではないかという気がした。ともあれ虐待が認められる以上、施設側の対応は妥当だったのだろう。
    労働契約に黙示の準拠法選択を認め通則法12条2項の推定を覆した事例、は、判旨の理由付けに対し、もっと他の要素を見てもいいはずという評釈の批判に納得。
  • 時論は、夫婦同氏制合憲決定について、憲法の視点からの論評と民法の視点からの論評。
    憲法の駒村先生の文章では、法廷意見、補足意見及び反対意見について思考様式を分析していて、興味深い。最後の「洋楽紳士・淑女」の到来を待つという点には遺憾ながら納得というところ*1
    他方民法の窪田先生の文章では論点となっている問題をめぐる状況についての論評。「本来、選択的夫婦別姓をめぐって議論されるべきであるのは、こうした許容性・寛容性をめぐる問題なのであり、それは保守かリベラルかといった以上に、社会の在り方を深刻に問う問題なのだ」という最後の指摘に納得。
  • 知財法務の連載は著作権登録制度。実例を見たことがないし使う機会にも接したことがないので制度説明は興味深いけど、これでは使いやすくないから、使われないのも当然と感じた。
  • 新・改正会社法セミナー。会社補償(1)。
    会社補償自体が新しいものなので、学者の先生たちの抽象度高めの議論が続くのはやむを得ないのだろう。
    Iでは令和元年改正で設けられた会社補償の制度の枠外での会社補償が可能かという検討。改正前について、補償することで実質上任務懈怠責任を免除した結果になる場合は、改正前においては認められないのではないかという田中教授の指摘は興味深い。それにしても経産省の解釈指針は位置づけが不明確と感じた。
    IIは429条責任と会社補償との関係の解釈論が興味深い。立案時の議論が錯綜していたようでもあるのだけど何があったのだろうか。
    IIIは補償制度の時間的な適用範囲についての検討。時間軸についての話は相対的にはとっつきやすかった。
    IVは補償契約で定められる事項。考え始めると色々出てくるなあと感心するばかり。
    Vは会社補償契約と特別利害関係人の扱い。全員一律適用なら特別利害関係人にならないという整理は原則論としてはそうなのだろうけど、出てきているような極端な事例においても妥当させて良いのかは確かに疑義があると感じるところ。ただ、どこで線を引くかは、裁判例の蓄積を待つ必要がありそう。
    VIは会社補償契約締結について利益相反取引規制を適用しない実質的意義の有無。なくはないのだろうけどどこまであるかはよくわからない気がした。
    VIIは430条の2第3項の目的の解釈。特別背任罪の文言と同じだけど意味が同じかというあたり。刑事法の規定との兼ね合いについての松井教授の指摘が興味深かった。VIIIは430条の2第2項1号の「通常...」と852条1項の「相当と...」の異同。立案担当者は同じものを指すというが、それならなぜ文言を同じにしないのかというところは疑問。異なる用語を用いているところからどういう解釈になるかという検討が興味深い。
  • hot issueはLINE問題から考えるグローバルデータガバナンスということで、安全保障とかの議論を企業法務の中で出てくる事例に接するのは初めてなので、やや面食らった。データ保護に対する基本権的な位置づけが必要という指摘は、最初疑問に思ったが読んでいくうちに納得という感じ。個人情報保護法制への対応のややこしさの一端が示されている感じで、そこに面白さを感じる人がいるだろうなと思う反面で、個人的にはうんざりするものを感じた。
  • 最後に著作権法改正と改正動向の特集。
    冒頭の小泉教授の趣旨説明と鳥瞰の記事の後は、放送番組のインターネット同時配信等について権利制限規定拡充と許諾推定規定創設についての論文。利用者側としては接することのできる番組が増えることにつながるから歓迎すべきだろう。「放送の承諾をしつつ放送同時配信等について許諾をしないというケースは、インターネットが普及した現在では通常想定難く」というけど、そこまで言っていいのかという点は疑問。個人の選好のあり様は色々あると思うので、どこまでの調査をしてこういう話になったのかというところは気になった。
    次の論文ではレコード・レコード実演及び映像実演の利用円滑化等について。初回の放送許諾を得たら、その後も実演家の許諾なしにリピート放送ができるというのも、利用円滑化としてはいいけど、許諾を取る時点で説明を十分しないと揉めるのではないかと感じた。
    図書館等のデジタル・ネットワーク対応は、利用者としてはありがたい制度と感じた。絶版等資料についての更なる活用についても今後に期待。
    独占的ライセンスの対抗の論文は、制度の必要性はなんとなく理解できたけど、どういう制度設計になるのか、特に公示性をどういう形で確保するのか、というところが気になった。今後の議論に期待。
    独占的ライセンスと差止請求権の論文は差し止め請求権を債権的構成で構成するか、物権的構成で検討するかの検討が興味深かった。こちらも今後の議論がどうなるかに期待。
    特集は、まったくフォローしていなかった改正と今後の動向についてのもので、不勉強故に議論についていききれなかったけど、改正法の運用とさらなる改正についての議論を見てみたいと感じた。

     

*1:ハーバード・ローを引き合いに出すのは違うのではないかという気がしたが。