ジュリスト 2023年 04 月号

例によって目を通した感想を、呟いた内容を基に箇条書きでメモ。

 

  • 海外法律情報のドイツにおける公益通報者の保護については、費用対効果や企業への義務付けにより生じる競争上の不利益の議論がなされている模様なのが重要と感じた。
    アメリカの婚姻尊重法が連邦法として成立は、ロー対ウェイドを覆した判決への対応として本法律制定がなされたという経緯が興味深い。
  • 「死刑制度と刑罰理論」の書評については、最後の段落での指摘が興味深く感じた。
    「ある知財法学者の軌跡」の書評については、テイクノートするという表現に苦笑。
  • 会社法判例速報の手続規制の対象たる利益相反取引に関する取締役の責任、については、解説における、取引価格の設定につき取締役等に広い裁量を認めている判旨への批判に納得。
    労働判例速報の大学専任講師への無期転換申込権10年特例への適用の有無については、その特例自体知らなかった。特例(解説での説明もわかりやすかった。)の趣旨からすれば判旨自体は納得しやすいものと感じた。
    知財判例速報の特許法102条2項の推定覆滅部分に対する3項の実施料相当額の重畳適用については、解説における、裁判例上の解釈論と立法での対応の変遷が興味深かった。
    租税判例速報の残余利益分割法で無形資産以外の要因を考慮できるとした事例は、話についていけなかったが、事前の設備投資が奏功したのであればそれなりに考慮するのは当然なのだろうと感じた(汗
  • 特集。
    棚村先生の原稿を読む限り、中間試案から先もまとまるまでの道は長いのではないかと感じたのだけどどうなのだろう。
    池田先生の原稿は離婚後共同親権の是非として注目が集まっている論点についての日弁連意見書の解説。高葛藤とかの事例を考えると、個人的には共同作業事態が不可能な場合を前提に考える(共同作業可能なら任意に実行可能?)べきなのではないかと感じるのだが、日弁内でも意見に幅があるのが興味深い。
    大石先生の原稿は、ひとり親世帯の貧困と養育費について経済学の見地からのコメント。養育費不払いへの制裁を重くするとかしてもよいのではという議論が出てこなかったようにも見え、そこが興味深い。
    菅原先生の原稿は、発達心理学の観点からのもので、そのあたりは全く存じ上げないので、なるほどと思いつつ読む。
    家族法周りは普段接点がないので、議論の現状のスナップショットだけ観ても、軽々にものがいいづらいが、まとまるまでにはまだ時間がかかるんだろうなとは感じた。
  • 人権尊重ガイドラインの記事は、意識高い系が一生懸命考えて、結果的にそれ系のコンサルとかにお金が落ちるだけで終わりそうな予感しかない。
  • 買収防衛策の効果に関する実証研究からの示唆は、そういう実証研究があるというのはさておき、そこからどこまでのことが言えるのだろうというのはよくわからない気がした。松中先生の実証研究の読み方についてのコメントは興味深かった。
  • 実践知財法務の知財訴訟における証拠収集手続は、小林先生が書き手なのも納得。査証制度については、制度紹介に終わっている感じなのは、運用開始からの経過時間が少ないからやむなしなのだろう。
  • 210回国会の概観は、国会の中の人から観た振り返りというところか。旧統一教会問題への対応法案の概要は、やはり非力な印象が残る。
  • 新法の要点は賃金のデジタル払いについてのもの。解説を見る限り、労働者保護は一定程度図られているものの、実態がどうなっていくかは、今後に注目というところだろうか(個人的には使う気にはなっていないが)。
  • 時の判例
    最判R3.6.24,民集75.7.3214については、話についていけた気はしないが、取消判決の拘束力と有する法令上の権限についての議論は、なるほどと思いつつ読んだ。
    最判R4.6.17,民集76.5.955は、国賠法上は、そういう話になるのは理解できなくはないけど、誰も責任を取らない結果になるのが妥当と言えるのかは疑義があるように思われた。
    最判R4.5.20刑集76.4.452は、外国公務員贈賄の件で最高裁に上告されて、公訴棄却という結論になったことしか認識しておらず、最高裁での争点までフォローできていなかった。共同共謀正犯の認定は、被告人の社内での立ち位置からすればそういう認定になるのは仕方ないのかもしれない。
  • 判例研究。
    経済法の価格カルテルの課徴金と取締役の会社に対する責任の件は、評釈で紹介されている、代取については監視義務違反が問われたのでは、という得津先生のご指摘に納得。課徴金を会社の損害としてその責任を取締役に負担させる点についての議論の紹介も興味深かった。
    商事判例研究の株券によらない株式譲渡と取締役解任の正当事由の件は、譲渡人が譲受人に株券交付が不要であることを誤信させるような帰責事由がああれば株券発行請求がなくても信義則違反にあたり、株式譲渡の効力を認めるべきとの評釈コメントに同意。特に小規模閉鎖会社ではそう考えるべきではないか。
    非公開会社における株主総会の特別決議を欠く募集株式の発行と新株発行無効は、先行する関連事件の判旨なども踏まえた評釈での判旨Iの分析は興味深かった。評釈後半の総会決議を要する組織再編無効の訴えと総会決議取消しの訴えの関係についての吸収説批判は、なるほどと思いつつ読む。
    有価証券報告書に記載すべき役員報酬の件は、金額がや大きいなと思って事件当事者表示を見て納得。「支払われた」の文言につき評釈での批判に賛成。引用された判旨での事実からすれば、組織的・意図的に報酬の一部が不開示とされたようで、評者の指摘する「会社のガバナンスの歪み」の大きさを感じさせる。
    労働判例研究の規制権限不行使の違法性と一人親方等に対する国の責任の件は、判決を受けての行政の対応と今後の課題についての評釈での解説が興味深かった。
    懲戒解雇による退職金不支給の件は、労働者の非違行為がいかなるマイナスの意味を持つかについての立証責任の所在についての評釈での批判に賛成。労働者側に立証責任を課すとなると、労働者は自衛のために手元に資料を置くことを想定する必要が出て、情報管理の面でのマイナスが大きくなりかねないと懸念する*1
    租税判例研究の外国子会社合算税制の非関連者基準の適用について争われた例は、税金と保険という両方とも苦手な分野の話で、話についていけない感じだった(汗)。
    渉外判例研究の管轄違いの抗弁撤回後の本案主張に基づき国際裁判管轄を認めた事例は、応訴管轄に補充性があるわけではないという批判に納得。被告の一人が管轄違いの抗弁を撤回した経緯が気になった。
    刑事判例研究は(件名は長いので略)、評者の明白性判断の仕方の分析が読んでいて興味深かった。再審のハードルはやはり高いと改めて思う。

*1:なんとなく、文体に森戸先生っぽさを感じた。判例研究で評者の個性を感じることがあまりないので、新鮮な気がした。