ジュリスト 2023年 12 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    英国の権利章典法案の廃案は、法案の紆余曲折ぶりが凄い。
    フランスの公務員上級職の女性比率の向上は、数値目標を明記して達成を促し、不達成には制裁金を科すというのが凄い。
  • 書評。
    監査役の誕生は、評者の要約を読んでも面白そうと感じる。もともと近代の法制史は面白そうに感じてはいるのだが。
    賃金の不利益変更は、何故日韓比較?と思ったが、日本法から分岐した形(というと語弊があるかもしれないが)なので比較しやすいのかもしれない。評者による韓国の議論の紹介も興味深かった。
  • 特集はパンデミック対応の法・制度の構築。
    最初はパンデミックに対する国の意思決定組織の改革。中央官庁の迷宮のような組織の中で、内閣感染症危機管理統括庁なるものがきちんと機能するかどうか、疑問が残った。日本版CDCの米国のそれとの違いが興味深い。
    パンデミック地方自治は、保健所の立ち位置の変化についての解説が面白く感じた。保健所って何をするところか、ってそもそも考えたことがなかったので。
    パンデミック下における感染症医療の確保・分配と法は、医療資源が限られるところでは分配の仕組化は重要となるはずで、その辺りが明確になったのは良かったのだろう。
    パンデミックにおける活動規律の法的課題は、「最低7割、極力8割」というのは後者しか覚えてなかったが、ともあれ、規律のありようを振り返るのは重要と感じた。批判的検証が重要と考える。
    パンデミックにおける人権保障は、検疫の場面での問題点はよくわかっていなかった。フランスとの比較が興味深い。かの国ではきちんと争われている点が重要と感じる。
    パンデミックにおける財政措置と財源は財政規律をどうするかが重要だが、どうやってそれを回復するかは難しい問題という気がする。最後の指摘には納得。
    パンデミックから見た情報システム/サービスの課題はなるほどというところ。縦割り行政の弊害も大きいと感じた。「さいごに」での指摘は重要と感じる。
    特集は、個人的には既に忘れかけていたこの手の事態への対応の現状と課題を理解する意味では良い特集だったのではないかと感じた。同様の事態はまた生じる可能性はあるだろうし、その時は対応するリソースはさらに貼っているとみるべきだろうから...。
  • 海外進出する企業のための法務は、危機時に現地国にいる社員に対する企業の義務と対応。日本企業の現地法人現地採用された日本人とかが検討に入っていないのは、仕方がないのだろう。総じて日本法が適用になってくれた方が日本企業側としては楽なのだろう。
  • 知財法務は知財経営。著者の某書籍を途中まで目を通したことがあるが、そこに書いてあったことから大きく変わっていないという印象。最後に2つ現下の状況での課題が書いてあったが、暫定的なものでもよいので、著者の分析が読みたかったような気がする。
  • 判例速報。
    会社法退職慰労金の支給時期・減額の決定に係る取締役会の裁量の範囲については、裁量論で検討しているが、裁量範囲の逸脱濫用があった場合の法的構成が明らかになっていないという解説での指摘に納得。
    労働判例速報の解雇無効判決確定後の遠隔地への配転命令の権利濫用性については、解説で指摘があるように今後の配転命令に関する事件への影響がありそうな気は確かにした。
    独禁法事例速報の押し紙の件(詳細略)は、こういう話がまだ裁判で争われているのに驚く。
    知財判例速報の応用美術(布団記事の絵柄)の著作物性の件は、実用目的による制約、というものの取り扱い方が難しいと感じた。
    租税判例速報の課税資産と非課税資産の一括譲渡における各資産価額への按分法は、固定資産税評価額比率による按分法がデフォルトルールで、別途適正な不動産鑑定がある時で一定の場合は、それに基づく鑑定評価額比率按分が上書き可能という感じということのようだが、いつ上書き可能かがまだ不明確かも。
  • 時論は入管法改正と日本の難民認定制度の現在。死亡事件で明らかになったような実態を改正法でどう改善できるか、というのはこれからなのだろう。手続きの明確化がなされれば改善には資するだろうけど。
  • 判例詳解。
    相続分指定・包括遺贈と遺言執行者の職務権限は、触れられていなかった。遺言執行者に遺産分割前の妨害状況の排除のための手続資格が部分的に認められないことの整合性の問題の方が気になった。
    流動性ディスカウントの件(詳細略)は、非流動性ディスカウントの内容を考えたことがなかったので、何と何を比べるかで3種類のものに分けられるという話からして初耳で驚いた。
    経産省のトランス女性の件(詳細略)は、最後に指摘されている性的志向性自認による差別への対処の仕方についての指摘が興味深かった。
  • 時の判例
    宮古島市水道事業給水条例16条3項の趣旨の件は、水道法と条例との関係が興味深く感じられた。
    プロバイダ責任制限法の件(詳細略)は経過規程の取り扱いの仕方というか書き方に問題があったのではないかという気がした。
    破産管財人の債務承認の件(詳細略)は、解説は、こちらの不勉強ゆえかご説ごもっともに見えるのだけど、そうだとすると、何故本件と本件の関連事件で高裁レベルで判断が割れたのかがよくわからない気がした。
    金沢市庁舎前広場の件(詳細略)は、泉佐野市H7最判との違いの説明が、結論から逆算しているような印象を覚えて、あまり説得的に感じなかった。
    弁済受領文書の提出による弁済受領文書の提出の件(詳細略)は、執行法周りの不勉強ゆえに正直よくわからなかった(汗
  • 判例研究。
    商事の色彩のみからなる商標の使用による識別力の件は、識別力獲得のハードルを上げたことと色彩のみからなる商標の制度を設けた趣旨との整合性に疑問を投げかける評釈に納得。
    破綻会社から弁済を受領した会社経営者の対第三者責任の件は、会社法429条1項を会社債権者代表者に適用して同人の責任を認めた点への批判に納得。
    グループ会社における取締役解任の正当な理由の件は、評釈での判旨批判に納得。
    任期付きの私立大学専任講師の雇止めと大学教員任期法の適用の件は、評釈で指摘のあるように所属コースの廃止があるので、整理解雇の議論ができたはずなのにそれが主張されなかった理由が気になった。
    兼業による連続長時間労働と各使用者の法的責任の件は、兼業先が労働時間を把握しなかった点につき安全配慮義務違反を認めなかった点への評釈への批判に賛成。
    利子受領者確認書の件(詳細略)は、制度の仕組が複雑でどこまで理解できたか不明だが、制度趣旨からすれば判旨はおそらく妥当なのだろうと感じた。