ジュリスト 2024年 03 月号

例によって読みながら呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 海外法律情報
    中国の愛国主義教育法の制定は、かの国との距離を感じずにはいられない。
    イタリアの多数派プレミアム制を伴う首相公選制の導入をめぐる議論は、改革案の内容は興味深いが、これで安定政権ができるのかはよくわからない気がした。
  • 書評。
    環境政策と環境法学」の書評では、著者がパンデミック発生に伴うリスクを2008年に指摘していたという記載がどうしても目を引く。
    会社法実務問答集Ⅴ」の書評では、評者が指摘する「不思議な魅力」の指摘が、この本への興味を掻き立てる。
  • 特集は芸能活動と法。
    まずは豪華なメンバーでの座談会。Iで現状の整理。福井先生が3つのキーワードで整理されているのはなるほどと思う。
    IIで課題と背景の検討として4つのトピックを取り上げている。
    1つ目はビジネスモデル・マネジメントの問題。芸能事務所にも健全なところとそうでないところがあり分けて考えるべきという指摘に、プロダクションサイドの方と実演者サイドの弁護士の方とで見解が一致するのが印象的。育成への投下資本回収の問題が論じられているのも重要と感じる。また、差別についての議論も興味深く、全体を通じてこの辺りまで視野に入れた議論ができているのは価値が高いのではないかと感じた。
    2つ目は契約・ハラスメント問題。実演者サイドの弁護士の方が指摘する多様な問題点から対応の難しさが窺われる。芸能産業自身が自己規定をしていないという指摘はなるほどと思う。
    3つ目はデジタルと拡張する芸能人の人格。実演者サイドの弁護士の方がハードローで権利を認めるべきという指摘は、同様に指摘のある裁判所の態度からすれば納得するところ。裁判所の態度との関係では、エンタメ産業の自己規定とか対外説明の問題に帰着するとの指摘も興味深く感じた。
    4つ目は地雷原としてのSNS・プラットフォーム。プロ責法についての論者ごとの評価の仕方が立ち位置との関係で興味深い。
    III 解決・改善に向けて。今後の展望というところ。3つの視点で語られている。最初の産業のエコシステム把握の必要性は、自己規定と対外説明の不足という指摘も含め納得するところ。2つ目の文化政策とアームレングスについては、実演者サイドの弁護士の方からの省庁を作るべきという指摘には納得。ただ、伴走型の支援との相性があうのかは気になった。3つ目のマルチメニュー・マルチステークホルダーでのガバナンスは、文化を享受する消費者というステークホルダーの指摘は、なるほどと思った。
    座談会は、芸能活動の現状の問題点と今後の展望を要領よく鳥瞰できているように感じた。メンバーの選定とか仕切りが良かったからなのだろう。
    小林先生の原稿では、パブリシティ権について制定法で整理しておく方が今後も諸々のトラブルを減らす結果につながり、簡便なのではないかと感じた。
    石井先生の原稿では、芸能人のアバターに関する人格権や人格的利益に関する議論の現状が興味深く、特にAIアバターパブリシティ権に関する整理(もとは松尾剛行先生が整理されたもののようだが)が興味深く感じられた。
    石田先生の原稿は、駆け出しの芸能活動者とそれ以外の芸能活動者を区別して論じているところが興味深いけど、両者を分けて論じる理由は理解できるけれど、その両者の区別はどこにあるのか、両者間に明確に線が引けるのかが気になった。
    伊永先生の原稿は、独禁法からの検討で、スポーツ分野での蓄積も踏まえて検討しているのがなるほどと思った。参考にするならそこだよなというところ。
    寺内先生の原稿は、舞台・映像分野でのハラスメント防止の現状について、ハラスメントを引き起こす特有の原因についての指摘には、なるほどと思う。一定程度対策が講じられているのが興味深い。
    水谷先生の原稿は、2つの萎縮を指摘しているが、それぞれの現象への問題意識は持っていなかったわけではないものの、この両者をともに萎縮効果の表れとして指摘している点についてなるほどと思った。
    志田先生の原稿は、表現の「封印」の現状についての慎重な分析。「封印」への批判は納得できるところ。
    海老澤先生の原稿は、インフルエンサーにとってのステマ規制という感じの内容で個人的にはわかりやすく感じた。肩書が弁護士・ファッションエディターとなっているのもカッコよい。
    特集は、既にやや古くなってるというか、より最近の事案が生じている部分もあるものの、現状の概観という点では良い特集だったのではなかろうか。業界内でも一定の改善に向けた試みがなされていることも分かったので、個人的には良い特集だったと感じた。
  • 判例速報。
    会社法の競業避止義務違反に基づく事業譲渡会社の事業の差止めは解説での判旨への批判に賛成。
    労働判例速報の、長時間労働後、賃金減額を伴う配置転換をされた労働者がり患したうつ病の業務起因性は、こういう事実関係が心理的負荷として勘案されるのかという点が興味深く感じた。
    独禁法事例速報の、物流2024年問題の解消に向けた小売業者間の共同宣言と独占禁止法上の問題は、諸々のリソースが減る中での種々の問題への対応にこうした形で取り組む事例が今後増えるのではないかと感じた。
    知財判例速報の、商品の販売実績に関する品質誤認惹起表示は、販売実績が品質誤認惹起表示になるという考え方が最初分からなかったが解説を読んで納得。
    租税判例速報の、タックスヘイブン対策税制における委任命令の適用が肯定された判例は、話について行けた気がしないものの、規制が精緻化しすぎて訳が分からなくなっているのではないかという疑問が残った。
  • SDGsと経済法は、SDGs自体への興味があまり高くないものの、競争法の「剣と盾」の役割の指摘は興味深く感じた。
  • 海外進出する企業のための法務は、海外進出時の競争法上の留意点。新規国への進出とかはかかわったことはないが、まあ、そうなんだろうなと思いながら読む。
  • 時論は金融商品の販売・勧誘に対する法的規律。仕組債のように一定以上の複雑な金融商品は、一定の金融リテラシーのない人間には販売禁止とかしないと駄目なのではないかという気がしてきた。要するに業者側に販売禁止を命じる形というべきか。
  • 時の判例
    債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件の方は、問題の所在が分かりづらかったが、諸々のバランスを考えるとこういう判断になるのもあり得るのかなという印象だった。
    もう片方の懲戒免職処分取消、退職手当支給制限処分取消請求事件は、調査官が判決の射程を限定しようとしているように感じられ、その点が気になった。
  • 判例研究。
    経済法の景表法上の不実証広告規制の合憲性の件は、広告規制について、表現の自由に対する規制という見方と経済的自由に対する規制という見方があるのは初めて知った。確かにどっちの見方もあり得るのかもしれない。
    商事判例研究の事業者団体への加入拒否による事業者の数の制限の件は、評釈での批判になるほどと思う。そもそも8条のあたりって事例が多くないようなので、書籍を読んでいてもスルーしがちな気がした。
    商事判例研究の先行の株主総会決議の瑕疵と事後的な治癒の可否は、瑕疵連鎖の治癒に裁判所の許可を得て株主総会の開催をする事例があるという指摘が興味深い。
    商事判例研究の特許権侵害と取締役の対第三者責任は、評釈での批判に納得。悪意迄認定するのは酷に過ぎると感じた。
    労働判例研究の固定残業代制度の労基法37条違反該当性は、草野補足意見の位置づけについての指摘が興味深く感じた。
    労働判例の有期労働契約での契約更新を理由とした旧時給表に基づく賃金請求の可否は、雇用継続への合理的期待についての判旨への批判に賛成。
    租税判例研究の会社分割(詳細略)の件は、判旨に反対、という評釈の指摘に納得。
    渉外判例研究の外国で発生した交通事故の使用者責任と通則法20条は、自賠法3条の議論が興味深く感じた。
    刑事判例研究のキャッシュカードすり替え型の窃盗罪の件(詳細略)は、詐欺のH30年判決との比較が興味深かった。詐欺と窃盗の境界近辺の事例ということなのだろう。