月刊法学教室 2024年 02 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 巻頭言については、こちらの家の近くにも書かれているような直売所はあるので、特段珍しい気はしないが、収穫体験付きのところは見たことがない。
  • 法学のアントレは法学×文化芸術のうち、アニメ×刑訴。特定方面の方々からは厳しい目の注がれそうなネタなのだが、こちらがアニメに疎いので何とも言えない。
  • 特集1 研究者という選択肢。橋爪先生のイントロダクションの後に座談会。研究者と言っても色々な人がいるし、ぱっと見に見えるよりは色々なことをしているというのが示されていて、研究者という生き方の鳥瞰のような印象。個人的には神吉先生の文一→医学部健康科学・監護学科→法学部学士入学→研究者養成コース、という進路の取り方に驚く。文一からそっち行けたんだ!、という意味で。また、研究者になるうえでの、ロースクールでの学修のメリット・デメリットの指摘も興味深かった。座談会は大学の外でのフルタイムでの*1執務経験のない先生方の座談会だったが、その後のインタビューの4名の先生方は、大学外での就業経験を経て研究者になられた方々。座談会では多様性が広すぎると話の収拾がつけづらいから、ということであのメンバーになったのだろうか。
    インタビュー一人目はTL上にもおられる大島先生。一連のラノベ風作品について触れられていないのが気になったが(そこじゃない)、研究の為のネットワークの作り方が興味深く感じた。
    2人目の荻野先生は、学部3年で旧司に一発合格とかフランス語を読むのには苦労しないとかさらっと書かれているので、どの分野に進んでも行ける優秀な人なんだな(白目)と驚く。
    3人目の舩津先生は、企業(確かパナ)の法務での経験を経て研究者になられた方。あの会社は知財の奥邨先生も排出されているので、さすがというところ。「社会人」との対比に対する突っ込み方は、納得(苦笑)。実務上の受けた刺激を論文にまとめるというのはすごいなと思う。
    4人目の吉開先生は検事から研究者に。ご自身の経歴をパチンコ玉に例えておられるが、なるほどというところ。
    特集は、研究者という生き方の認知度向上とそれによる研究者人口の拡大に資するのではなかろうか。ただ、研究者は誰でもなれるものではなく、なろうとしてもなかった方というのもいるはずなので、その辺りについてももう少し触れておかないと、誤導になりかねないのではないかという気もした。その辺りにどうやって触れるかは簡単ではないだろうけど。インフォームドコンセントみたなことを考えると、その生き方を選ぶことに内在するリスクについての開示は望ましいのではなかろうか*2*3
  • 特集の二つ目はエネルギー環境法入門。冒頭の島村先生のイントロの後の高村先生の論文はその後の3つの論文のイントロになっているのかと思ったが、3つのうち1つについては言及がないようで、そこが気になった。気候変動でエネルギーに関する法律に色々影響が出ているというのは、そりゃまあそうだろうなという感じ。
    島村先生の論文は電力市場のグリーン化のための法制度について。脚注2で原子力発電については扱わない旨書かれているが、紙幅の制約があるからやむを得ない側面はあるものの、原子力発電が担うとされている役割からすればそれでいいのかというとどうかなという疑問が残った。
    内藤先生の論文は再生可能エネルギーと地域の土地利用。最後の脚注にある、自治体において再エネに係る関係法令・条例の交錯する過程を地域空間管理としてとらえる視点は、興味深く感じるし、この問題では重要なのではないかと感じた。
    高橋先生の論文はエネルギー転換を促進する電力システム改革。電力システムとか考えたことがない話なので、そういうものかと思って読む。
    特集は、法規制の在り方を規制官庁側から概観した感があり、それはそれで意義はあるのだろうが、事業者側からどう見えるかというあたりの原稿があってもよかったのではないか。また、この特集の中で、原子力発電をどう位置付けるのかにも一定の言及があるべきだったのではなかろうかと感じた。
  • 講座。
    憲法は、岩沼市議会事件判決における判例変更についての丁寧な解説。部分社会論が今はこういう形になっているのか、と思いつつ読む。
    行政法。浦安漁港ヨット係留用鉄杭撤去事件が素材。問題の行為があった場所が今どうなっているかの指摘は興味深い。街づくりの視点での議論は新鮮な印象。
    民法。間接被害者。個人的には構成要件構成の方がハードルが高くなりすぎるので、賠償範囲構成の方が良いのではないかという気がした。
    会社法の休載が続くのが残念。)
    民訴は手続き保障の観点からのここまでのまとめ、みたいな感じになっていて良い感じ。連載の書籍化を期待。
    刑法は中立的行為と幇助犯。winny事件が素材。本判例の使い方、として、将来的な事例への適用についての検討をしているのが諸々興味深く感じた。
    刑訴は起訴の基準。2つの議論軸の話や、2016年改正の話(改正については司法試験合格までで勉強した以上のことは知らない。)が興味深く感じた。
  • 演習。
    憲法。設例はいくつかの事件の事案を合体させている感があるが、解説とあまり関係なかった気がした。住民訴訟違憲審査権の関係は考えたことがなかった。言われてみるとなるほどという感じがした。
    行政法。営造物の設置又は管理の瑕疵とか。吹き払い柵って何?という感じだったこともあって、設例の事案が個人的には興味深かった。
    民法。不法原因給付。受領者による所有権取得の対抗の可否、特に第三者との関係については、すっかり忘れていた。
    商法は役員報酬のあたり。株式報酬と主要目的の認定の話が興味深く感じた。
    民訴。控訴の利益。予備的併合請求における控訴審の審判対象の議論とかパズルみたいな感じがした。
    刑法。賄賂罪。模擬裁判の対話に終始しているのがすごいというかなんというか。
    刑訴。328条あたり。純粋補助事実の証明水準についての議論はいずれの立場にもそれなりに理屈が付きそうに見えるが、諸々の整合性をどうとるかという話のような気がした。
  • 判例セレクト。
    憲法民法で性別不合による法的性別変更の生殖腺欠如要件違憲決定が取り上げられている。憲法の方はドイツとの比較が興味深かった。民法の方は、民法から見た時の重要性が分かりづらい気がした。
    行政法の旧優生保護法に基づく強制優生手術に対する国家賠償訴訟は、解説での民法724条後段の解釈についての指摘になるほどと思う。
    民法の第三者による請負代金の債権侵害の有無は、解説での建物の所有権の帰属に関する指摘はなるほどと思うが、Yの悪質性についてどう扱うか、評者の立場がよくわからない気がした。
    商法の株式買い取り請求権の行使における反対通知は、解説の最後の記載(「なお」以下)になるほどと思う。
    民訴の離婚請求に附帯する財産分与の申立てがされた財産の一部につき裁判を先送りすることの可否は、一般論としては判旨のようになるとしても、目の前の事案との関係で妥当な解決かというと微妙な気がした。
    刑法の中止行為の態様と任意性は、任意性の基準の説の対立とかきれいに忘れていた(手元の基本刑法を見たらきちんと書いてあった...)。
    刑訴の破棄判決の拘束力-その範囲は、論理的な順序を厳格に解すればそうなるんだろうなと思う程度。

*1:フルタイムでのとすべき点、ronnor御大からご指摘を受けた。ご指摘に感謝する。

*2:感想を呟いたところ、著者の方からRTとかいただいたり、こちらの発言を踏まえたご発言にも接したけど、学者になれなかったときの道があることを示さないとリスク回避的な人には選択肢として認識されにくいのではないかというのがこちらの疑問。学者の人がそれを示すのは難しいのは指摘のとおりだろう。こちらのコメントはそれを求めているわけではない。学者から「転進」された方々の具体例(抽象論では意味が少ないだろう。)について、そうした方々へのインタビューなどを編集部が記事にすることはできるだろう。極端な例でいえば、編集部にそういう人いないの?という話。司法試験からの「転進」について考えるのと同様の頭で考えるとそういうことが思いつくわけで(汗

*3:反応して呟かれているぱうぜ姐御の漢気はいつもながらに尊敬しております(汗)