研究者への道 / 中田 裕康 (著)

一通り目を通したので、雑駁な感想をメモ。個人的には面白かった。

 

千葉、一橋、東大、早稲田などで教鞭を取られた民法の中田先生が、教員退職後に、これまでに記された論文以外の文章等をまとめられたもので、講演録や書評、国会の参考人意見等が含まれれている。全体は「研究室までの紆余曲折」「研究室の日々」「研究室からの発信ー書評など」「研究室外の発言」「研究室を離れて」の5部構成でまとめられている。もともと学術論文ではないこともあり、文章自体は固くなく読みやすいものが多く、専門的部分についてどこまで理解できたかはさておき、読むのにもそれほど手間はかからなかった。

 

個人的にこの手の本に興味がないわけではなく、特に、一旦弁護士になってからあえて研究者の道を選ばれたという中田先生の進路選択の経緯については興味があった。しかしながら、いちいち買っていると主にこちらの家の収納スペースの問題で大変そうなので、とりあえず近所の図書館で借りてみることにした。

 

「研究者への道」という割に、研究者に転身するまでの経緯について述べられたものの分量は少なく、むしろ研究者になってからの文章などが大半を占めるので、この表題で良かったのかはやや疑問が残った。研究者の道を選ばれた経緯については、本書で初めて知ったが、弁護士と研究の両立ぶりは見るからにシンドイ感じがしたし、両立が難しいと判断されたあたりの描写も、実務家としての誠実さゆえの悩みであり決断を感じた。

 

文章には昔のものも多く*1NBLに関しての話の中で、ゼネラル石油法務部の岩城謙二さんというような名前が出てきて、こちらが初職で法務を始めたころに古いNBLを紐解いたときに見かけた名前(経営法友会の発起人の一人らしい)なので、時代を感じた。他方で、最近のものとしては、早稲田の退職時の挨拶や、退職後の状況についての文章もあった。退職後にご自宅近所のトランクルームに本棚を設置して、ご自宅と併せて、研究室の書籍を移動するあたりは興味深く、かつ、大変そうに見えた。全部を拝見すると研究者としての活動の全貌の一部が垣間見えるような気がした。ある種の回顧録的なものとしてはそうあるべきなのだろう。

 

個人的に一番興味深く感じたのは、「ビジネスに生きる民法」と題した司法研修所での2006年の講演録。ビジネスの複雑化などによる「民法の後景への移動」(ある意味での地位低下)の中で、民法学がいかなる寄与ができるのかという点について、契約の自由とその限界という切り口から説かれている。個人的には納得できる内容だった。

*1:学者の方々の論文の書籍化等については一定の追記がなされている。