ジュリスト 2024年 05 月号

例によって、呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 海外法律情報。
    韓国の犬食禁止法の制定は、こういう法律が必要な状況なのか、ということにまず驚く。
    ロシアの戦時下における学校教育をめぐる動向は、如何にもな事態の推移と見えるが、対岸の火事と見ている場合ではないような気もしている。
  • HOT Issueはカメラ画像の利活用。板倉先生たちの議論は、個人情報やプライバシー、肖像権等の複数の方分野にまたがるところで議論が十分なところ、そうでないところの仕分けが興味深いが、情報量が多く、こちらの不勉強もあいまって消化不良気味になっている。板倉先生の仕切りも貫禄を感じた。技術とかの進展でできることが増えているのに、法律側の検討が追い付かないという側面があるのだろうけど、法律の規律の負の効果を考えるとそういうことが生じるのもやむを得ない側面があるのだろうとも感じた。
  • 特集は成年後見制度改革。
    座談会は、民法学、法律実務、社会福祉、福祉行政の各分野の専門家が、制度改革について、現状を踏まえて議論をしている。かなり大胆な(それでいてしっかりと理由のある)改革提案が出ている。従事する専門家への報酬のあり方についても論じられているのは良いと感じた。業務とそれに見合う報酬のあり方をきちんと議論していかないと制度が持続可能なものにならないと思うので。
    青木先生の原稿は法定後見制度の見直し案の骨格を論じるもの。きめ細やかな対応ができることになるとは思う内容だけど、手間が増えることになる制度の担い手がいるのか、制度が持続的に維持できるのかというところで疑問。家事審判手続のオンライン化・IT化での合理化等で対応しきれるのか。
    青木先生の原稿が公益社団法人商事法務研究会の報告書の内容に基づくものだったのに対し、上山先生の原稿は、法定後見制度の見直しについての私見を述べられているもの。二制度化論は、本人同意の有無で2つのパターンに分けるという発想はわかりやすいと感じた。
    山下先生の原稿は行為能力制度の見直しの方向について。後見人の法定代理権と保佐人・補助人の法定代理権の間の隔たりの指摘にはなるほどと思う。そこまでの隔たりが必要なのかという議論の余地はあるのだろう。
    川島先生の原稿は、そもそもの条約がどういう経緯で出てきたものなのかとか、そういうあたりの解説がないので唐突感が残った。条約の内容は、従来の考え方からの転換を求めるものではあるけれど、そんなのホントにできるの?という疑問は残った。また、脚注23の指摘は重要と感じた。
    特集の内容は、普段接点のない分野の話で話についていけたかわからないが、条約締結で国内法の変容が求められるというのは、よくある話のようにも感じた。
  • 書評。
    複合契約の法理は、評者による対象書籍の問題点の分析が(その当否はわからないが)興味深い。
    経済法総論については、もともと気になっていた本なのだが、書評を読む限りはこちらには求められる知的体力が足りてない気がした(汗)。
  • 判例速報。
    会社法権利能力なき社団の構成員による決議の効力の件は、判旨の理由付けは、形式主義すぎるだろうと感じたこともあり、評者の批判に賛成。
    労働判例速報の京王プラザホテル札幌事件は、評者の時季変更権行使時期の適切性についての指摘に賛成。状況に鑑みても遅すぎるだろう。
    独禁法事例速報の学習塾フランチャイジーによる独禁法24条差止等仮処分認容事例は、仮処分認容事例が2例目らしいというのに驚く。各要件充足性の分析と今後への影響の展望が興味深く感じた。
    知財判例速報の芸能プロダクションのホームページへのタレントの写真等の掲載とパブリシティ権は、まあそうなるよね、という感じがする判旨。
    租税判例速報の不相当に高額な役員給与の件は話についていけなかった気がした。
  • SDGsと経済法は、こちらの興味があまりないので、読んでいても頭に入ってこない感じだった。
  • 海外進出する企業のための法務は海外における腐敗防止で、やはりUKBAおそるべしという印象を新たにした。
  • 時論。近時の「生活保護基準引下げ訴訟」の論点と動向。名古屋高判R5.11.30についての老齢加算最判との整合性の分析は興味深く感じた。「おわりに」でのコメントが付された意味合いが気になった。
  • 第212国会の概観。個別の法令以前の概況の部分が、そんなことあったな、と思い出されて良かった。
  • 時の判例
    租税特別措置法の件(詳細略)は、前半の委任命令が法律の委任の範囲を逸脱しているかどうかの議論は面白く感じた。
    第1審に差し戻した控訴審判決の拘束力の範囲の話(詳細略)は、個人的には縁のない刑事の話ということもあり考えたことはなかったものの、言われてみるとそうなるかも、という感じの判旨だった。
  • 判例研究。
    経済法のカルテルの件(詳細略)は評釈での「一定の取引分野」についての問題提起は納得するところ。なんか変じゃない?と、司法試験の選択科目の答案を書いていて思ったことがあるのを思い出した。
    商事の創業者契約の件(詳細略)は、企業法務実務経験者の評者が結果の妥当性を睨みつつ、問題とすべきだった点の指摘をしているのが印象深い。
    商事の車両共済金免責事由該当性の件(詳細略)は、そもそも車に乗らないので、車周りの保険の話はよく分からないことが多いが、評者の判旨IIの批判には賛成。
    商事のデッドロックの件(詳細略)は、高裁判決が出てたのに気づく。地裁の判決の問題点と高裁判決における問題点の是正の分析が興味深い。
    労働判例の情報持ち出しの件(詳細略)は、まあそういう感じなのか、という程度。
    労働判例の会社分割における労働契約の不承継と法人格否認は、法人格の濫用の判断枠組みについて、これまでの判断枠組みとの関係の検討が興味深く感じた。
    租税判例の海外のスポーツ試合結果を対象とした賭けの払戻金の所得分類の件は、これまでの判例との違いについての指摘になるほどと思った。
    渉外判例の国際捜査共助によらないデータ差押えの件(詳細略)は、共助によらないのが常道化してしまうと問題があるのではないかと素朴に疑問。時間的に間に合わないなら共助の迅速化を考えなくてよいのかという気がした。
    刑事判例の押収処分の件(詳細略)は、原審との比較で最高裁が何を言わなかったのか、それが何を意味するのかの評者の読み解きになるほどと思いながら読んだ。