ジュリスト 2024年 06 月号

例によって目を通した記事について、呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

 

  • 判例速報
    会社法の技術的基準に適合しない(以下略)の件は、挙げられている事実からすればそういう判断になるよなと納得しながら読む。
    労働判例時季変更権行使の件(詳細略)は、解説最後での指摘に納得。あまり覚悟したくはないが覚悟すべきなのだろう。
    独禁法事例速報は、解説で、公取の回答の不明確な点につき、その理由を推測しつつ批判をしている点が興味深い。最後のコメントには同意。
    知財判例速報の商品画像の盗用の件(詳細略)は、表明保証の重みを改めて感じた。
    租税判例速報(詳細略)は、話についていけなかった気がした。
  • 特集は企業の開示をめぐる問題。
    まずは松井先生の原稿。これまでの議論の展開の整理がこちらのようにこれまでの議論を追いかけていなかった人間にとっては助かる。
    座談会。労働系の木下先生が加わっていて、なぜ?と思ったが説明があって納得。投資家サイドの方のコメントのうち、彼らの重視している企業の範囲についての言及があり、裏返すとそれ以外はそこまでしなくても、ということなのかなと思う。費用対効果を考えなくていいとは思えない話なので。
    松元先生の原稿は金商法開示の現状。いろいろ議論があるんだなという程度の感想しか抱かなかった。
    小畑先生の原稿は労働法の視点からのもの。いわゆるソフトローの典型的な使われ方という印象。
    勢一先生の原稿は環境法の視点からのもの。意識高いなとだけ。
    特集は開示を求める立場の方々からの負荷を増やす方向の話ばかりという印象で、実際開示をする側からの反応がなく、何だか微妙な気がした。
  • 特集2は官報電子化法・法制事務のデジタル化。
    内閣府の田中さんの原稿は法律の概説。官報による法令の公布が慣習法となっているという指摘はやや驚く(明文の定めがあるものと思っていた)。
    原田教授の原稿は、官報電子化法の理論的意義。電子化されたもののフォーマットが可読状態を保つことが中長期的には技術的に困難である可能性とそれゆえの紙の形での保管についての指摘があるのは重要と感じる。100年とかの時の試練に耐えられるのは寧ろ紙だろうと思うので。
    米田教授の原稿は法制事務のデジタル化の到達点と展望。ある意味でこうした動きの当事者でもある先生のコメントは興味深い。
    特集は、デジタル化は、目先の効率化という意味では良いのだろうが、50年後100年後を考えてデータ類が十全に保管できるのかという点が気になった。紙媒体での保管との併用を義務付けるべきではないかと感じた。
  • SDGsと経済法は、適用除外のうち単独行為について。具体的な適用場面でどうなるのかイメージがしづらく感じた。
  • 時論の司法文書管理の現状と課題は、第三者の関与の必要性の指摘に納得。そうしないと何をするかわからない気がする。
  • 書評。
    江頭「続・会社法の基本問題」については、著者の近年のコーポレートガバナンス改革への懐疑的な見方が興味深く感じられた。
    もう一冊の「社会保障制度における社会手当の成立・展開過程」については、不勉強で社会保障法周りがわからず、よくわからなかった。
  • 海外法律情報。
    フランスの人工妊娠中絶の自由を明記する憲法改正は、アメリカでの動きへの反応というところが興味深く感じられた。
    英国の国王演説とスナク政権の行方は、スナク政権発足までの動きについて「そんなこともあったな」と感じてしまったのに驚く。
  • 時論の大学改革と大学の自治は、大学のガバナンス改革などの動きは学問の自由を危うくするのではないかという気がしたが、著者の議論には何となく他人事感があるようなした。
  • 新法の要点は金商法改正。四半期報告書見直しより先に顧客本位の業務運営の話が出ていて、ちょっと驚いたが内容からすればそういうものかもしれないと思った。
  • 時論のニュースプラットフォームと競争政策は、そういうところに競争法の問題があるのか、と不明を恥じつつ読む。
  • 時の判例
    憲法53条後段の件は、判旨に説得力を感じず宇賀反対意見に説得力を感じた。解説のところで反対意見に言及がなかったと思うが、何らかの意図があってのことなのかが気になった。
    刑事の方は、横領罪についての論点の分析が興味深かった。
  • 判例研究。
    経済法のマイクロソフトアクティビジョン統合事案は、評釈での、より詳細な検討をすべきとの意見になるほどと思う。
    商事の設立時発行株式の帰属先が争われた事例は、評釈末尾での新株発行不存在確認訴訟の訴えの利益についての指摘になるほどと思う。
    商事の事業協同組合における理事の任務懈怠責任は、評釈での株式会社以外への経営判断原則の適用についての説明は、そういう適用について考えたことがなかった。また、本判決の判断の背後にある考え方の分析も興味深かった。株式会社以外の組織についても会社法の考え方を借用するというのは、状況によっては確かにあり得るな、と感じた。
    株主意思確認総会の判断を経た買収防衛策の差止めの可否は、「基準日の存在による株主の意思決定の歪み」という表現について、制度上必然的に生じるものを「歪み」と表現するのが適切かが気になった。
    労働判例研究のJR東海(年休)事件は、包括的な判断の仕方に対する評者の批判に賛成。判断が雑になっていないかということが気になった。
    租税判例研究の「立替金精算払」の件(詳細略)は課税の沿革の説明が興味深く感じた。
    渉外判例研究のハーグ条約実施法に基づく子の返還の間接強制申立てを不適法とした事例は、補足意見の位置づけが興味深かった。