ジュリスト 2024年 01 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 書評。
    藤野先生による柴田先生たちの本の書評は、企業法務目線での読みどころが分かり易く示されていて、なるほどと思いました。かの本が読めていないので、どこかで読まないと(汗
    勢一先生による書評は環境憲法学への熱い思いを感じさせるのだけど、こちらがそのあたりに疎いので、正直よくわからなかった。
  • 海外法律情報。
    アメリカの同性婚に関するウェブサイトの件(詳細略)は、連邦最高裁の保守化との関係が気になった。
    ブラジルの帰化による国籍喪失の件(詳細略)は、何よりも憲法改正の回数の多さに驚くが、憲法に細かい事柄まで書いたためのことのようなので、良し悪しのある話と感じた。
  • 判例速報。
    会社法の株式買取請求に係る反対通知と会社に対する委任状の返送の件は、本決定の射程の分析を興味深く感じた。
    労働判例速報の件(詳細略)は、解説の最後のところでの批判になるほどと思いながら読む。
    独禁法事例速報の件(詳細略)は、確かに市場シェアの高さの割に問題解消措置なしにクリアランスが出たとあるが、市場自体がどうなっていくのかというあたりはどう理解されたのだろうか、と疑問に思った。
    知財判例速報のパテントリンケージと後発医薬品の件は、確かに原告の請求の立て方に無理があるような気がするし、判旨で示されている方法で救済を求めるのが筋なんだろうとは思う。指摘されているようにハードルは高そうだけど。
    租税判例速報の山門一体型建物下にある参道の非課税境内地該当性の件は、解説の最後に出てくる別の計算方法2つが興味深く感じた。
  • (特集は後回しにして)判例研究へ。経済法の民間調達をめぐる競争と受注調整の関係の件は、評釈で2条4項の位置づけについて疑問を呈しているが、その点がどこにどう影響するのかわからず、疑問の実益が見えなかった。
    商事判例研究の他人の名義による会社設立時発行株式の引受けは、他人名義を利用した者に株式の引受人の地位を与えるための法律構成の検討が興味深かった。
    商事判例研究の株式会社の解散請求の件は、会社法833条1項柱書の「やむを得ない事由」該当性についての判旨の批判をなるほどと思いながら読む。
    商事の募集株式発行差止に関する個別株主通知と不公正発行は、学者の方々にはこう見えるのかと、思いながら読む。
    労働判例の職場でのヘイトスピーチと人格的利益に基づく差止請求は、評釈中の環境型レイシャル・ハラスメント、という表現に接してやや驚く。何とかハラスメントというのが流行りすぎて希薄化しないかという気もする。
    試用期間の延長の可否と解雇の有効性の件は、中途半端に試用期間を延長するのがまず悪いし、予備的な普通解雇の主張もしておくべきだったのだろうという感想しか持てなかった。試用期間の延長と就業規則の最低基準効との関係は考えたことがなかった(汗
    租税判例研究の件(詳細略)は実質論はなるほどと思うものの、条文の文言からその実質論をどうやって導くかがよくわからないと感じた。
    渉外判例研究の件(詳細略)は、「駄目を詰める」という表現に初めて接した。検索すると囲碁の用語の模様。法益侵害の「直接の」結果、の「直接」の意義の検討と議論の射程についての分析はなるほどと思って読む。
    刑事判例研究(詳細略)は、「善意の例外」をどの捜査官について考えるべきかという点への指摘と令状審査の失敗への証拠排除法則の適用についての指摘に納得。
  • 海外進出する企業のための法務は気候変動と企業の訴訟リスク。こう言うと語弊があるだろうが、被告企業の行為との因果関係がどこまであるのか疑義を覚えるような訴訟もあり、言葉は悪いが新手のみかじめ料要求と大差ないのではないかという気がする。
  • 実践知財法務は知財デューデリジェンス。法務DDと違いを踏まえた段取の説明が分かり易い。知財といっても色々あり、3つのビジネス類型ごとの固有論点の解説も面白い。特許中心、著作権中心、商標・ブランド中心かで、考えないといけないことがここまで違うというのもすごいというかなんというか。
  • 時論はアファーマティブ・アクション論争の来し方行く末。判例の展開が分かり易い。直近の米国判例の判断枠組みからすれば確かにアファーマティブ・アクションの維持は難しいのではないかと思う。その下で指摘されている別の方途も既に疑義を呈する地裁判断がある以上いつまで使えるかわからなさそう。
  • 判例詳解の正社員と定年後再雇用有期嘱託職員との基本給格差の不合理性は、諸々のバランスのとり方が難しいと感じる。自分が50代なのでどうしても定年後の方々の方に「寄り」がちな見方をしているとも思いつつ。
  • 時の判例
    消費税法の件(詳細略)は、問題の所在の説明が分かり易かった。
    マイナンバーの件(詳細略)は、人為的ミスなどによる漏洩があるからといって直ちに法制度上またはシステム技術上の不備があるとは認められないとするが、件数が積み重なるとそのうちに認めるようになるのだろうか。
    刑事のもの(詳細略)は、限定的再評価説からすればそうなるのかもしれないけど、再審へのハードルが高すぎないかという気がした。
  • 特別企画 行政法のエンフォースメント。
    今回の企画の趣旨とその背景を示す斎藤先生の原稿に続き、濱西先生の原稿が「要綱案」の説明。研究者パブコメとか行政へのアンケート迄やっているのが凄い。司法と政治の協力が必要という指摘が問題の難しさの一端を示している気がした。
    板垣先生の原稿は自治体レベルの実効性確保の現状とその打開策の提案は納得できる部分が多かった。小規模町村に関する指摘はそうなるだろうなと感じた。
    安永先生の原稿は、適格消費者団体に記載されているような役割が担えるのか、担わせるべきなのか、疑問の余地があるように感じた。
    米谷先生の原稿は、WTOに関してはそもそも何も知らないので、そういうことなのか、と思いながら読む。アメリカに振り回される部分があるのは、現状ではやむを得ないのかもしれない。
    討議のまとめの質疑応答は、阿部先生(弁護士扱いされているが、ご本人のご意向だろうか)からの質問とそれへの応対はなるほどと思うところが多かった。
    行政法のエンフォースメント(この言い方もどうなんだという気はするけど)について、あまり知らなかったので、なるほどと思いつつ拝読した。
  • 最後に特集*1
    藤田先生の原稿は、これまでの文脈に指針を位置づけるとともに総論的な解説。第1原則と第2原則の関係についてのご指摘は一旦ことが起きた時には悩むだろうな、と思う。
    白井先生の原稿は指針第3章・第4章当たりの理論的検討。まあ、そうなるのかなと思う程度(汗
    松中先生の原稿は買収防衛策あたりの検討。論旨は明快。個人的には脚注21の最後の指摘に苦笑。防衛策で時間・情報を確保することの意味が株主側と取締役側とで異なるという指摘は、なるほどと思う。
    三苫先生の原稿は実務面からの検討。「真摯な」のわかりづらさの指摘は納得するところだし、この指針での「取締役会が買収に応じる方針を決定する場合」の米国でのレブロン義務との違いも分かり易く感じた。また、株主意思確認の対象によって区別して考えるべきという指摘もなるほどと思った。
    野村証券の角田氏*2の原稿は株屋さんの立場からの買収実務についてのコメント。開示のありようへの提言はなるほどと思う。
    三瓶氏の原稿は機関投資家の立場からのコメント。そういう立場からはそう見えるのかと思いつつ読む。
    特集は、指針についてあまりきちんと理解していなかったので、その内容の理解を深める上では有用だったと思う。

*1:事実上の影響力が大きそうなのに、いわゆるソフトローの形というのがまず違和感がある。国会審議を後回しにして、既成事実化したうえで立法に繋げる手法は、立法府の議論を形骸化させないかという懸念をいだく。こういう手法がさらに蔓延するのもどうなのかという気がする。それと、今まで過度に強調されてきたきらいのある定性的なものを(その弊害への対処の必要性があるのは事実だろう)、無視するかのような物言いも、やはり違和感が残る。なんでもかんでも定量的なものに反映しきれるとは思えない。

*2:経営役とあるが、初めて接する肩書なのだが、どういうお立場なのだろうか。