月刊法学教室 2024年 06 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言は法科大学院での教育が、研究にもたらした影響についてのコメントが興味深い。判例の批判的検討も重要なのではないかと感じる。
  • 法学のアントレは在外研究で「図らずも」得られるものの意義が説かれていて、こちらの留学経験から想像するとなるほどと思って納得した。
  • 特集1は基本概念から学ぶ刑法。
    イントロの橋爪先生の文章の後は法益保護主義について。特別法では貫徹されていないという指摘が興味深かった。
    松澤先生の構成要件と犯罪論体系は、勉強を始めたころ疑問に思っていた(その後忘れた)ことのうちのいくつへの答えが書かれていて良かった。
    佐藤先生の行為無価値と結果無価値は、受験勉強の間、深入りしないでおこうと思ってやり過ごした感のある内容についての話で、両者の対立について前ほどは強調されなくなった経緯も感じ取れて、面白く感じた。LECのC-Bookの話が書いてあったのは、懐かしく感じた(書店で見て、驚いた記憶がある)。
    安田先生の責任主義は、分かるようでわからないという感じが残った。
    豊田先生の因果的共犯論は、近時示されている疑問についての解説をなるほどと思いながら読む。
    小林先生の本権説・占有説は講義風の文章が読みやすく感じたが、最後にしっかり自著への誘導がはいっているところがさすがというかなんというか。
    特集は基礎概念から学ぶということで、基礎的なところの理解が不十分ということは感じた。なかなか刑法を学び直すだけの時間がない(業務上の必要性も乏しいので)のが難しい。
  • 特集その2は消えた法律。
    イントロの短い文章の後は衆議院法制局の梶山さんの法律の消え方の総論的な文章。消え方を考えたことはなかったが、複数のパターンがあることが興味深い。
    その次が水林先生の優生保護法等について。そういう法律があって最近の訴訟にも関係していることは知っているけど、どういう経緯があってできた法律なのかは知らなかった。
    3番目が藤田先生の陪審法。効力が停止された原因の一つに予算との関係があるのは、裁判員法についても同様の事態が生じることがあるのかと気になった。いまさら停止された効力を復活させてもね...という指摘には納得。
    最後が斎藤先生の種子法廃止についての話。廃止の後どうなっているかは知らなかった。廃止が妥当だったのかは個人的には疑問。国家として戦略性をもって管理すべきだったのではないかと思った次第。
    法律が「消える」ことは時折目にすることもあるが、「消え方」まで考えたことがなかったので、消え方のパターンや個別事例の紹介というのは面白かった。
  • 時の問題は大麻の濫用防止と法規制。日本での規制薬物立法の変遷の解説や大麻規制の現状などの説明が興味深かった。嗜好用大麻の合法化は大麻が有害であるものの刑事規制が失敗したために苦肉の策で統制下で一定の範囲で流通を認めているだけという指摘は重要と感じた。
  • 講座。
    憲法は興味深いけど、受験とかからは遠い印象。議論が関係してくるのは理解するにしても。
    行政法。素材となった事件での実効的な救済が得られなかったことについての指摘はなるほどと思う。
    民法。複数の判例から監督者責任のあり様を分析するのは、面白く感じた(が、どこまで理解できたのか心もとなく感じた)。
    会社法。取締役の第三者に対する責任。規定の沿革に遡ったうえでの昭和44年最大判の多数意見と松田反対意見の比較検討は読んでいて面白かった。
    刑法。同時傷害の特例は、諸々の整合性とか不合理の解消をどうやっていくかというのがパズルめいていると感じた。
    刑訴。個人的には関連性のところの解説が面白く感じた。英米法では陪審制との関係ではゲートキーパーの役を果たしていたという指摘はなるほどと思った。
  • 演習。
    憲法。公務員の政治的活動の自由のあたり。いかにもな設例とも思うが今どきだとこういうことは起きそうな気もする。
    行政法。手続的瑕疵で不許可処分が取り消されるとしても、再度申請して手続的瑕疵がないときにも実質論で許可が下りないのであれば結局無駄なのではないかという疑問が拭い去れない。もちろん実質論を補強して許可を取る道があればそれでよいのだろうが。
    民法。取消後の第三者の保護は177条で、というのは理解はしているものの、取消後に登記迄求めることを正当化可能なほど、登記の必要性が国民に理解されているのかということには疑問が残る。
    商法。株主総会決議の瑕疵があるときの決議の扱いなど。取締役に欠格事由があるのに選任した決議は無効というのは、意識してなかったが、言われてみればなるほどと思う。
    民訴。既判力の客体的範囲や後訴での作用の仕方とか。まあ、そんな感じだったよねと思いながら読む。普段訴訟に縁がないとそういう感じになる。
    刑法は過失犯と危険の引き受けのあたり。設例は海原雄山を思い出した。
    刑訴。再逮捕・再勾留禁止の原則のあたり。人質司法だよな、これと思いながら読む。
  • 判例セレクト。
    憲法の地方議会の出席処分の件は、他の最判も踏まえた司法審査の範囲の検討が興味深い。
    行政法の委任命令の適用が適法とされた事例は、解説での本判決の内容と意義のまとめが分かりやすく感じた。
    民法公選法違反で遡及して失職した議員の報酬返還の件は、公選法違反が買収であったことも考えると、失職前も報酬自体を受け取る権利がなかったという判断になるのはやむなしなのかなという気もする。
    民訴の一筆の土地の一部の処分禁止の仮処分の件は、分筆登記のプロセスが入ることを前提にすることになるはずだから、その辺りをどう評価するのかと思いながら読んで、引用されている決定要旨を見てなるほどと思う。
    刑法の義務履行の要求と強要罪の成否は、「義務がないこと」の要件に関するの判旨の問題点の指摘になるほどと思う。
    刑訴の控訴審における訴因変更と審判の範囲は、事後審という性質からすれば判旨のような判断になるのも仕方ないのかなという気もするが、解説最後に指摘されているような判断の仕方もありえたのかなという気もした。