ジュリスト 2023年 07 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

 

  • 書評については、藤野先生のセオリー本の書評は藤野先生でないと書けない書評と感じた。一部であった批判的なコメントへの「返し」が実に藤野先生らしい。もう一冊の書評については、内容についてはよくわからないが、読みどころの紹介として優れているのではないかと感じた。
  • 海外法律情報
    ドイツの選挙制度の大改正については、制度の仕組みがよくわからないものの、何だかすごく面倒そうな感じがした。
    アメリカの学校教育における親の権利法制化の動き、は、学校教育における親の権利を法制化しようとしている事自体に面食らう。内容もここまで規定するのかと驚く。
  • 判例速報。
    会社法有価証券報告書等の虚偽記載に基づく発行者の責任は、解説で、同じ問題に対する同種の訴訟の判決との比較をしているのが興味深い。
    労働判例速報のアイドルグループメンバーの労基法上の労働者性と労基法16条は、判旨で紹介されている内容からすれば、労働者性は否定できないような感じがした。
    独禁法事例速報の、電力カルテル事件(詳細略)は、過去最大の課徴金の額に驚く。課徴金減免制度における失格自由該当性の欧米で比較した解説が興味深かった。
    知財判例速報のオリンピック関連標章と商標法4条1項6号は、取消決定と知財高判とで類似性について結論が相反しているように見えるのが興味深い。
    租税判例速報の居住用賃貸建物の取得に係る課税仕入れの区分は、正直よくわからなかった(汗)。単にこちらの勉強不足が理由なのだが。
  • 人権尊重ガイドラインの件は、東ソーでの実例紹介。会社側がCSRと法務しか出てきておらず、意識高い発言に終始している感があるように見えるが、この2つ以外の事業部門担当者の生の声を別途聞いてみたい気がする。それと一体NAにいくらフィーが払われたのかというあたりも気になった。施策を講じる際にどのくらい費用がかかるかは重要なはずなので、下世話な興味以外の面からも、NAにいくら払ったのかは興味がある。対外的な「脅迫」にさらされているとしても、施策の直接の積極的な効果が必ずしも見えやすいとはいいがたいところで、費用感も分からない施策に対して消極的なのはやむを得ないのではないかと感じる。
  • 海外進出する企業のための法務はEコマースの海外展開における留意点。商流のあり方ごとに解説があるのが良い。現勤務先はB2Bとはいえ、今後このあたりをやり始める可能性もゼロではなく、気をつける必要があることはよくわかった気がする。
  • 実践知財法務はデータのライセンス提供と知的財産法。実例にあたったことがないこともあって、著作物や営業秘密に該当しない情報の利用が不法行為を構成しないという点は明確に認識していなかった。
  • 新法の要点は民法の親子法制の見直し。興味関心の外の分野なので、へーっと思いながら読む(が、きっと頭に残らない)。
  • 判例研究。
    経済法の食べログ事件についてのものは、判旨に反対する評釈だけど、声高なトーンもあって、そうかなあ?と思う内容が多かったような気がした。
    商事判例研究の、自動車の「運行に起因する」事故への該当性の件は、そもそも何が論点なのか、理解するのに時間がかかったけど、個人的にはなるほどと思う内容だった。
    商事の株主総会時に非適格者の認定基準が防衛策の差し止め(三ツ星の件保全抗告事件)。決定で相当性を否定しているのに対し、必要性を否定すべきでは、という評釈での批判には、一理あると感じる反面で、批判内容は、対象会社側で実行可能だったのか、という点で疑問なしとはいえないと感じた。
    商事判例研究の民事信託組成に係る専門家の責任範囲の件は、専門家の債務不履行責任は否定したものの説明義務違反による不法行為責任を認定した判旨に対し、評釈で債務不履行責任を否定した点についての批判があるが、個人的には納得できるものを感じた。
    労働判例研究の不当労働行為における親会社の使用者性と義務的団交事項該当性の件は、双方の論点について、議論に接したことがなかったので、なるほどと思いながら読む。
    労働判例研究の法律婚配偶者と婚外子との間の遺族厚生年金の調整は、判旨での厚年法66条2項の解釈の結果に対し評釈で疑義を述べている点には賛成。
    租税判例研究の未使用ポイントに対する債務確定要件の適用は、ポイントの扱いの面倒さが印象に残った。
    渉外判例研究の外国の債務者の預金口座からの引落しによる支払約定があった場合の債務履行地管轄については、口座振替の仕組みに基づく議論が興味深かった。口座振替の仕組みとか考えたこともなかったので。
    刑事判例研究の控訴審による自判と事実の取調べの要否及びその内容、程度は、判例の分析が興味深かった。

  • 時の判例
    離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務が履行遅滞になる時期、については、不法行為時でないのが気になったが、考えてみると、仮に損害賠償債務自体は発生しても、それが離婚慰謝料として請求可能になるのはやはり離婚時なのだろう。
    件名が長い最判R4.7.14(民集76.5.1205)については、自賠責の仕組みが面倒くさいという印象しかなかった。交通事故事件やったことないし、そもそも車に乗らないから余計にそう思うのだろう。
    刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律98条の定める作業報奨金の支給を受ける権利に対する強制執行の可否、については、作業報奨金の位置づけからすればそうなるだろうなという感じ。
    刑事の、最決R3.8.20(刑集75.8.1049。件名は長いので略)は、医療観察法の仕組みのややこしさが印象に残った。アルコール依存症とか同法による医療の対象となると思ってたのだけど、そうとは限らないとは知らなかった。
  • 時論。
    内田貴先生のものは、口コミの性質を踏まえての議論が面白いのだけど、何故このネタに着目したのか、何か裏があるのではないかと気になってしまった。
    寺田先生のものは、制度としてはそうなのかなあという程度。目の前で起きているあれこれの失態を見ると、あの体たらくでまともに運用できるとは思えないから、そうはいってもねえ...と思わざるを得ない。
  • 判例詳解は改正法令の時間的適用範囲について、同じ規定についての裁判例の分析が興味深かった。
  • 最後に特集。
    労働市場の変容と労働者のキャリアデザイン。冒頭の有田先生の原稿は労働市場についての法規制について。転職サービスなどの利用経験からすれば、そうなるんだろうなという感じがした。
    河野先生の原稿は、副業・兼業の扱いの難しさの一端が垣間見えた気がした。それにしてもエンプロイアビリティって言いにくい。就労可能性とかじゃダメなのかと思う。
    矢野先生の原稿は、キャリア形成とか教育訓練とかのあたり。自分で勝手に何とかした(と思うことにする)口としては、まあ、そんなものなのかと思う程度。
    桑村先生の原稿は、ジョブ型雇用・メンバーシップ型雇用とキャリア。非正規の方々への対応は相対的には改善されたのだろうけど、正社員の方々については今後どうなるか、というところが気になった。
    石﨑先生の原稿は、ライフイベントとキャリア継続。ライフイベントは人それぞれに色々有るが、勤務先側がどう対応するかも難しいところがあると感じた。
    特集は、直近の状況のスナップショットという感じがするが、研究者の方々の分析ばかりで、それが直ちによくないというものではないが、実務家視点での分析も見たいと感じた。