ジュリスト 2022年 04 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 判例速報。
    会社法の取締役の内部統制体制構築義務の件は、監督義務違反に基づく責任追及場面での経営判決原則の適用範囲が気になるが、弥永先生のこの点に関する指摘には納得。
    労働判例速報の私傷病休職からの復職のために求められる職務遂行能力の件は、理屈はそうなるのだろうけど、この事件の解決としてそれが良いのかは疑義が残る気がした。水町先生の解説でも「理論的に適切な解釈」としているのは、その点の反映だろうか。
    独禁法事例速報の正当化事由があるとして共同取引拒絶の成立が否定された事例については、確かにこれはそうなるよなという事案だった。正当化事由についての判断についての解説も分かりやすく感じた。
    知財判例速報。応用美術の著作物性で分離可能性説の中でもバリエーションがあるという指摘だけど、あてはめレベルでは分かりづらく、予測可能性がたちづらい気がする。裁判例の蓄積を待つしかないのだろうか。
    税務判例速報の源泉所得税納税告知処分に係る理由提示の程度の件は、以前は国税に関する法律に基づく処分に行政手続法第3章の適用対象から除外されていたというのに驚く。こちらが受験勉強を開始する前の話でもあり、知らなかった。
  • 海外法律情報。
    ドイツのBI的な生活保障施策については、施策の背景にある行政コスト削減の要請が興味深い。また、薬物政策については、オランダとの対比がこれも興味深い。オランダで大麻が「合法化」されているのは単に少量の所持取引について起訴されないだけというのは知らなかった。
    米NY州の外国人に地方参政権を付与する市条例については、制度の詳細よりも、どういう理屈で導入に至ったか及び既に提起されてている州憲法違反訴訟での違憲主張の内容とかの方が個人的には興味を覚える。
  • サステナビリティの杜。意識高すぎて、いうことが思いつかない。ただ、昨今の情勢をみると、こういう意識高いことを言うより先にすることがあるのではなかろうかという気がしてしまう。
  • 判例研究。
    経済法の同意を伴う再販売価格維持行為の事例については、再販売価格の拘束が取引段階を異にする事業者間での共同行為として行われた場合に不当な取引制限又は私的独占に該当しないかという検討が個人的には興味深かった。
    会計帳簿閲覧当社請求の拒絶事由における競業者の認定の件は、解説で、会計帳簿閲覧請求制度の見直しを示唆している部分は、なるほどと思った。
    増資インサイダー取引における「重要事実の伝達」の有無については、評釈で批判されている事実認定の問題点については納得。微妙な表現でやり取りすることは当然ありうるので、そこについて規制を及ぼして摘発できるようになっていないと規制の意味がないだろうし。
    有価証券報告書に記載された連結経常利益の虚偽性と重要性については、重要性についての解説が興味深かった。粉飾金額だけの問題ではないというのは個人的には理解できる気がした。
    性自認に基づくトイレ利用の制限とその違法性(経産省事件)は、評釈での、具体的判断に対する批判は、特に、公的機関は、民間の範となるべきで、現状追認的な判示に疑義を呈する部分は、確かにそういう見方をすべきだよなと思った。
    バックグラウンド調査の結果に基づく内定取消しと就労石野存否の件は、評釈の判旨への批判に納得。個人的には、他企業での就労、試用期間の終了をもって復職しての就労意思の否定とみる判旨には違和感が強かった
    法人税法における訴訟上の和解に基づく解決金の損害賠償金該当性の件は、和解条項の解釈論なので、租税法に疎くても問題なく読めて安心。評釈で指摘されている金商法の規制との整合性は、怖いなと単純に思った。和解条項を纏めるときに、この辺りまでチェックするのは結構大変なのではないか。
    カジノでの遊興を目的とする資金貸付を巡る香港高等法院での欠席判決と民訴法118条の公序の件は、IR整備法の制定に関する議論から公序の変容を検討しているあたりは個人的には興味深いと感じた。
  • 時の判例
    担保不動産競売の債権者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合における当該債務者の相続人の民事執行法188条において準用する同法68条にいう「債務者」該当性、については、前記法の趣旨からすれば、確かに解説のようになると納得。
    もう一件の方(長いので略)については、何が問題なのかを理解するのが手間だったけど、こちらもなるほどというところ。こちらの能力不足ゆえか、文章だけで読むと分かりづらかった。
  • 時論。
    一つ目のテキサス州上院法案8の件は、法案8の内容にも驚いたが、当該法案の執行停止の申し立てが連邦裁判所に持ち込まれる点や、連邦裁判所の対応が、アメリカだなと、勝手に思う。
    もう一つの方は、領海警備の法整備についてで、法制度の不備の指摘は、昨今の情勢を踏まえると、いいのかよという気もしたが、不備とされる状況が何故生じたのか、知らないので、直ちに論理に賛成して良いのか、判断できない気がした。
  • 知財法務の連載はスポーツについてのもの。戦士さんが既に熱いエントリ*1を書いているが、例の五輪以来スポーツ全体に対して、さらに距離を取るようになった当方としては、あのエントリにあるような思いは抱きようがない。とはいえ、法律上権利が不明確なものをどう扱うかという観点から見ると、今回の記事でかかれていることは、納得できるところ。疑義が避けるように現状を十全に把握し、将来も予想したうえで、契約書に落とし込むこと、落とし込むだけではなくその後の運用にもしっかり関与するというのは汎用的な法務の「あるべき」対応というべきだろう。「あるべき」というのは、現実にそこまでできるかどうかはまた別の話がありうるから、なのだが。
  • 新技術と法の未来の連載は、何だか高尚にみえる議論がされているが、不可能ということを除けば完璧というフレーズが脳裏をよぎるくらいに、議論されている内容がうまくいく気がしない。アジャイル開発の手法は、効果が測定されて、不具合が見つかれば軌道修正するのが前提だろうと思うが、行政の資料の隠蔽とか統計不正とかがあるところでは、そもそも「不具合」が適時に認知されるのかということから疑義がある。そんな状況下でやったら、単にやった者勝ちで不利益を受ける側を無視して進むだけになるのではなかろうかと懸念する。政府自体に信頼がおける状況にあるとは思っていないので、個人としては可能な限り消極的不服従で臨むしかないと思っている。それがたとえ蟷螂の斧であったとしても。
  • 特集へ。宗教的理由(謎)により距離をおいていた電子契約などについて。
    小塚先生の冒頭の原稿はこの後に続く原稿への橋渡しというところなのだろうか。
    西内先生の原稿は、電子契約とかスマートコントラクトとかについて契約法との関係での問題点の整理というところ。ふーん、という程度。自動化になじむ契約がどういうものか、肚落ちしていないので、だから何?という感じが強い。
    小塚先生の原稿は、なんでCISGなのか、が見えてこないので、これまた良くわからないという感じが強い。こちらが見聞している範囲ではCISGはopt outされている方が多く、意図的に適用を求めているわけでない事例が大半なので、何故この文脈で??という印象が拭い去れない。
    森田弁護士の原稿は、書かれている内容自体は、流行りものにのって騒ぐ方々の言説を煎じ詰めるとこうなるだろうなという感じで特に目新しいものは感じなかった。紙ベースの記録では承認日時が残らないという記載については、承認時に日付入りの回転印を使うようなケースとか把握していないのかと疑問。どこまで何を理解しての言説なのか、こういう細部で、疑いを持ってしまう。議論が全体的に上滑りに見えるのも「その程度の理解」でモノを言っているから、という見立てをしたくなる(真偽は知らないが)。
    小出先生の原稿は、電子認証に関するUNCITRALでの検討の紹介、というところか。こういうことができるはず、という意味では意味があるのだろうけど、一般ユーザーが「使える」レベルにまで落とし込むのにはまだ時間がかかるのかもしれないと思ったりした。
    杉山先生の原稿は、訴訟法の観点からの電子契約や電子署名についての現状、という感じだろうか。なるほどと思いつつ読む。
    特集は、既に呟いたように、学者の方々が色々考えるという意味では意義があるのだろうけど、現時点でこの内容をジュリストに掲載する意味がどこまであったのか、よくわからなかった。こちらがこの分野を敬遠してきているが故のことであれば良いのだが。
  • 最後は新・改正会社法セミナー。
    最初は、社外監査役への「業務執行」の委託について。委託した業務が監査対象になるあたりとか、他の取締役と一緒に委託されたときには監査役としてその取締役の業務の監視が必要になるはずとか、委託対象業務に関する責任の追及はどうやるのか、というあたりとかは、整合性の検討が面白い。とはいえ、委託者が何かあるたびにこの辺の仕切りを意識しないといけないとなると、業務に当たる際に萎縮的な効果が生じないか懸念する。
    業務執行への対価と役員報酬規制との関係は、業務執行外ということと、報酬規制の趣旨から規制を及ぼすかどうかというところのバランスのとり方が面白い。藤田先生が指摘するように会社との関係で行う行為から一定以上の利益を得ていれば開示させる一般条項があるのが望ましいと感じる。
    責任免除のところは、条文の文言との関係はさておき、趣旨からすればそうなるんだろうなという気がする。
    次いで、株式等売渡請求の話題へ。なぜこの話題?と思ったのだけど、藤田先生の問題点の説明で納得。藤田先生と田中先生のやり取りが、裁判例を踏まえたもので、どこまでついていけたかは心もとないが、読んでいて、そういう見方をするのか、という感じで面白かった。

*1:戦士さんは、好みの記事に対して熱いエントリを書くのに長けていると感服する。