ジュリスト2021年7月号

例によって呟いたことを基に感想をメモ。

  •  新・改正会社法セミナー。
    「企業集団 親会社による子会社株式の譲渡」は、Iについては、藤田先生の問題意識がつかみづらかった。問いに具体例を付してほしかった気がする。IIはそうだろうなという程度で、IIIは、どういう観点で検討をするのかが難しいな、という印象。
    「企業集団 多重代表訴訟」は訴訟になっているのはすくないのは、要件が厳しいからだろうけど、利用されていないとしても牽制効果は生じているという指摘には同意。
    株主総会 株主総会資料の電子提供」については、このあたりの実務をしたことがない(汗)ので、なるほど、こういう点が問題になるのか、と思いながら読む。電子化によって、エラーが生じた際の対応とかが面倒になりそうだなと感じる。
  • 海外法律情報。
    ドイツの方は、COVID19対応での補償について、こういう対応がまっとうな国の対応じゃないのかと思わずにはいられない。
    アメリカのギグワーカーへの連邦規則の撤回については、ギガワーカーの保護のは書かれ方が誤分類の修正、というところが興味深く感じた。
  • 時論。
    引受証券会社のゲートキーパー責任については、ゲートキーパー責任自体意識したことがなかったので、なるほどと思って読んだ。FOI事件については、そもそも事案が特殊すぎるので、あの事件から一般的な何かを言うのは難しいのではなかろうかと思う。
    経済的自由に関する憲法判断、については、規制目的二分論や違憲審査基準についての解説、小売市場判決・薬事法違憲判決の再検討が興味深かった。2021年判決で「真の」目的を探るのに裁判所が及び腰と思われる理由についての指摘は、それでいいのかと思いつつも、ありうるかもしれないと感じた。
  • 特集。
    冒頭の横溝先生の原稿は特集の全体像の鳥瞰。
    加藤先生の原稿の、独禁法適用を回避する管轄合意の適用を否定する基準が、概略制度上強行的適用法規が法廷地国における私的執行に強い関心を有する場合、というのは、内容的には理解可能であるものの、抽象度が高く、当事者の予測可能性の観点で、これでいいのだろうかという疑問が残った。
    中西先生の原稿は、民事上の損害賠償背急における日本の独禁法の適用について、日本の市場が影響を受ける場合でも日本の独禁法の市場ルールの適用が必ずしも確保されているわけではないという指摘には、個人的にはやや驚いた。適用を確保する方向で立法した方が、基準が明快になるのではないかと思うが。
    嶋先生の原稿では、不競法が改正などを経る中で司法的政策から、国家政策的利害を体現した規制法としての性格を帯びるようになったという指摘が印象的だった。また、クラウド上のデータの漏洩などについては、連結点などをどう考えるかということについて難しいところがあると感じた。
    中村先生の原稿では、家族の国際的移動と不貞行為に基づく損害賠償請求についての順を追った検討、特に「結果」をどう認識するかで準拠法認定も変わりうるところは、興味深かった。
    横溝先生の「ビジネスと人権に関する指導原則」と抵触法は、国連などの議論が興味深いものの、仮に日本でその種の規定を入れたとして、その規定に基づき日本で訴訟をできるのは誰なんだろうという疑問が残った。
    特集は、国境を超える不法行為についての問題の最新の状況の一端を垣間見る感じで興味深かった。
  • 大法廷判決の時の判例孔子廟の事件。空知太神社事件の位置づけと本件との関係についての解説が興味深かったけど、「総合判断の枠組み」自身は、どの事情をどう評価するか次第にも見えてしまい、当事者にとっての予測可能性という意味では、難しい気がしたけど、どうなんだろう。
  • 小法廷の時の判例
    交通事故の件。交通事故の被害者の行為障害による逸失利益は定期金賠償の対象になるし、その終期は被害者の実際の死期にあわせる必要は原則としてない等の点は、定期金賠償についてあまり考えたことがなかったけど、解説を読んで納得。そうしないと一時金払いとの不均衡が生じるというところまで考えてなかったのはこちらの不勉強にすぎる(汗)。
    先取特権を有する債権者の配当要求と時効中断の事件は、配当要求の効果を、類似している部分のある行為の効力と比較して、検討する過程が面白い。
    刑事の2件は、いずれも特殊詐欺の受け子の故意と共謀の認定についてのもの。被告人の非通常的な行動から主観面を認定していくというのは、そうでもしないと認定しずらいとしても、そのような手法をどこまで認めてよいのか、何だか微妙なものを感じた。
  • 判例速報。
    会社法のものは、招集通知発送後の株式譲受人に対する招集通知の要否について、通知不要という学説がないという指摘にやや驚いた。誰か一人くらい不要と言ってるんだろうと思ったので(謎)。
    建設アスベスト訴訟の安衛法に関する件は、安衛法57条の保護対象を労基法上の労働者とした原審の論理は、ちょっと無理がないかと思ったので、最高裁の判示は妥当に見える。また、この判決で示されたアプローチの仕方への評者の評価にも納得。
    独禁法の事例速報は、判旨の問題点についての評者の指摘が興味深い。多くの問題行為について、広く網をかけた事案のようなので、限界事例のようなものについて疑義がでるのはやむを得ないのかもしれないが、課徴金が課される話である以上は精度がもっと必要だったのではないか。
    知財判例速報のJASRAC音楽教室の高裁判決は、あてはめ部分の判旨はそんなものかなと思って読んだけど、解説でのレッスンの態様次第では話が変わるのではないかという指摘には納得。
    租税判例速報。一定の前提を置いた試算のようなものに基づく措置は、前提が妥当する範囲においてのみ有効でその限りで当該措置は、法の委任の範囲内にあるといえるという理解なのだろうか。前提の範囲外と思われる事態に対する措置が何故法の委任の範囲外なのか、よくわからなかった。
  • 判例研究。
    経済法のアップル対島野の高裁判決。本件がCAで裁判となったらどうなりそうかの分析は、気になっていたところだったので興味深く読んだ。指摘にある通り、絶対的強行法規の特別連結は、こういうときにこそ認められるべきものなのではないかという気がしてならなかった。
    経済法分野の、意思決定権のない者による情報交換と事業者の「意思の連絡」が問題となった事例は、結論は理解可能だけど、「意思の連絡」を認める際の推論を認める必要十分条件が不明確との指摘には納得。推論するしかないのは理解脳だが、推論が認められる要件は明確にすべきと思う。
    自動車保険契約中の「酒気帯び免責条項」による免責の可否についての事件は、判旨の理由付けについての評者の批判に賛成。約款の規定を殊更に公序に沿う方向で解釈する必然性はないと思うので。
    完全合意条項のる株式譲渡契約書における契約の解釈手法については、完全合意条項の解釈については、英米法のそれから乖離する解釈への評者の警戒感に賛成。特に「プロ」同士の取引が想定されるこの種の契約類型については、英米法のそれと同様の方が当事者の予測可能性に資すると思うので。
    配置転換の内示の法的性質及び不法行為の成否、については、事実関係が特殊にみえるので、射程は狭いという指摘や、理由付けに疑義があるという点には賛成。撤回されるからと言っても一旦内示が出れば、心理的に動揺することは確かなのでその辺の判断はもっと慎重でないといけないのではないだろうか。
    即戦力となる管理職採用における試用期間満了時の本採用拒否、の件は、挙げられている事実関係からすれば判旨は妥当だろう。評釈の最後にある、ジョブ型採用とメンバーシップ型では留保解約権の行使の有効性の判断が、異なる可能性との指摘は興味深かった。
    社会福祉法人が営む有料老人ホーム事業の集積事象該当性については、解釈論としては判旨は妥当かもしれないけれど、結果的に妥当な気がしないので、評釈の最後で触れられているように立法的解決が良いのではないかと感じた。
    不法行為に基づく損害賠償債務の不存在確認訴訟における国際裁判管轄と国際訴訟競合の件は、判旨で引かれている米国訴訟の状況からすれば、原告の主張自体無理目なので、評者が指摘するように3条の3第3号での却下の方が妥当な気がした。