新版 負けない英文契約書 不利な条項への対応術 / 熊木 明 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。

英文契約に関する業務をするならば必携の一冊。

クロスオーバーM&Aなどで有名な事務所*1の経験豊富な弁護士さんの手による英文契約書の実務書で、旧版を入手しそびれてしまい、悔しい思いをしつつ、長らく改訂版が出るのを待っていたもの。

 

全体の校正としては、冒頭にサンプル英文契約があり、英文契約の構成などについての総論的記載の後で、まずは重点的に法務(外部弁護士も同様だろう)が見るべき箇所について、着眼点と修正すべき時の修正の仕方について解説し、その後その他の部分についての解説があり、最後にドラフトするうえでの注意点について解説している。構成もそうだし、個々の叙述もそうだが、リスクベースでのメリハリがはっきりとついている。補償条項や表明補償条項のように重要と思われるところは、基礎から細部*2にわたり丁寧に、さらに踏み込んだところまで解説しているのに対し、著者の経験上問題の少ないところは、問題が少ないと考える理由も示したうえでばっさり切り捨てる感じなのが印象深い。メリハリがついているからこそ、300頁余というコンパクトで通読可能な分量に収めることができたのだろう。

 

割り切ったうえで、類書よりも一歩先を行くようなところまで解説している本であり、英文契約に関する業務をするのであれば、必携だろう。ただし、使う上では若干の留意すべき点があるように思う。

  • そもそも英文契約について一定の知識があることが、著者が意識しているかどうかはさておき、本書を座右において活用する前提として求められているように思われる。その意味では本書を英文契約の「最初の一冊」とするのは難しいだろう。基礎的な内容は別の書籍(一例をあげれば「はじめてでも読みこなせる英文契約書 / 本郷 貴裕 (著)」あたりか。)で予習をしておく方が、本書の内容をよりよく理解できるのではなかろうか。
  • 巻末に索引がなく、代わりに冒頭にある程度詳細な目次があるので、特定の内容にアクセスするには目次からたどるしかない。最初に一度通読しておくほうが良いのではなかろうか。上記の通り、それが可能な分量ではあると思うので。
  • 個別の解説については、背後に判例があるものと思われるが、判例などは示されていないので、個々の記載の「裏取り」はできない。実際にそこまでする必要性が生じることは少ないだろうから、そういうことができないことが本書の価値を減ずるとは考えにくい。

 

*1:英文契約のドラフティングについて書かれた英文の書籍として有名な"Working With Contracts"(邦訳もある)も同じ事務所出身の弁護士さんの手によるものだが...単なる偶然なのだろうか。

*2:補償条項のところで、defend, indemnify, hold harmlessの相違点の説明は、何となく感覚的に感じていたことが明快に解説されていて、なるほどと思いながら目を通した。