会社補償 Q&Aとモデル契約 / 邉 英基 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。会社補償について現行法での解説やモデル契約をまとめたもので、会社補償について考える際には、座右にあると有用な一冊。

 

法務省民事局で会社補償制度の立案に関与された弁護士さんが、その経験を踏まえて書いたもので、一問一答の形で、制度の解説や想定される質問への応答を記すのみならず、会社補償契約の契約書案、しかも、補償などの条項については、複数の条項案も示してくれている。180頁程度の分量なので、通読も容易*1

 

会社補償については、会社法下での制度としては新しく*2、導入事例は出てきているものの*3、実際に補償がなされた事例なども見受けられず*4、まだ実務が不透明ということもあって、導入しづらい側面があるのではないかと思う。そういう状況下で、本書のように、現行法下での制度についての解説に加えて、モデル契約案まであると*5、導入後の実務についての見通しも付きやすくなって、導入に向けた検討もしやすくなるのではないかと感じる。

 

会社補償は、D&O保険と重なる部分もあって、D&O保険だけでも十分ではないかという意見もあるのかもしれないが、保険会社への保険料の金額を考えると、費用対効果の面から、両者の関係を整理したうえで、両者を併用するというのもあり得る発想なのではないかと思う*6。そういうことを考える上での最初の一歩として、会社補償について、現行法下でのあり様を、基本的なところから契約書の文案まできちんと簡潔に説明してくれている本書は、有用なのではないかと感じる次第。そういう意味で、座右にあると有用な一冊と感じる*7

*1:文字もそんなに詰まっていないので、余計に読み易く感じる。

*2:これまでも同様の機能を契約で作ることは一定程度できてはいたので、まったく新しいものとは言い難いが。

*3:一例として、東京ガス招集通知で導入について記載している。

*4:ましてやトラブルになった事例はあるはずもない。

*5:ざっとネット上で探した限りでは、TMIが文案を示してくれているのが見受けられる程度...。

*6:想定される責任が高額に及ぶ場合に、全部D&O保険でカバーしようとしても、費用負担の面で負担しきれない可能性もあって、その場合は、D&Oで賄いきれない範囲を会社補償でカバーするというのもあり得る発想だと思うし、その逆のパターンも想定できるのではないか。

*7:できれば、ある程度事件が出てきたところで、改訂版が出てくれると、良いと思う。