論点解説 クロスボーダーM&Aの法実務 / 関口 尊成 (著), 井上 俊介 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。合う人と合わない人といるかもしれないが、企業内でこの手の業務に関与するなら手元に置いておいて損のなさそうな一冊と感じた。

 

クロスボーダーM&Aという面倒で語るべき内容の多そうな分野の法実務の本なのに、本屋で見ると本文が約150頁とやけに薄い。どうなっているのか、と訝しく思いつつも購入してみた。クロスボーダーM&A(JVも含む)について、よく出てきそうな50の論点について、著者たちが経験に基づき概説するというもの。内容も「濃いめ」に感じられ*1、見かけよりも読むのに時間がかかった。

 

企業内の担当者向けの概説に徹しているため、詳細な解説や関係する判例などのサイテーションとかもあまりないし*2判例索引もない。個々の論点について、問題の所在と対応の方向性を理解してもらえばよく、詳細は目の前の案件を担当弁護士に都度確認すべきで*3、それで足りるから、突っ込んだ解説までは不要という著者たちの割り切りを感じる。この割り切りに対しては、好みが分かれるところかもしれない*4。ただ、そのおかげで、全体の分量はコンパクトに収まり、通読も可能な範囲に収まっているのは確かで、通読することで一連のプロセスを鳥瞰することができるようになっていて、その点は本書の特色の一つであろう。

 

TL上におられるような、グローバル企業勤務の歴戦の猛者の方々からすれば、本書のような本は不要なのかもしれないが*5、クロスボーダーM&Aに接する機会が少ない(だけど、機会はゼロではない)という方々にとっては、本書は、手元においておいて、担当弁護士さんやFAの方々と協議をしながら案件対応を進めるうえでのガイドブックとして使うのに適していると感じた。願わくは適宜のタイミングで、前記の特色を残す形で更新を続けて、読み継がれるようになってほしい。

*1:こちらの経験値不足ゆえのことかもしれないが...。

*2:反面で、随処に出てくる著者たちの経験談には、臨場感ある内容が盛り込まれている。文献とかから語れることではなく、自分たちの肌感覚から語ろうという姿勢のようなものが感じられたのは良かった。

*3:クロスボーダーM&Aについては、その性質上、どんな大きな企業であっても、外部の弁護士の助けなしにやることは考えにくいのではないかと思われる。

*4:個人的には嫌いな割り切り方ではないが、せめて、もう一歩先に進むための読書案内のようなものはほしかったと感じる。

*5:そういう企業においても、若手の人に渡して入門書代わりに使ってもらうという使い方は可能かもしれない。