メンタルヘルスの諸問題と企業実務 / 横山 直樹 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。この分野に関わりがあるのであれば、手元においておいて損のない一冊と感じた。

 

メンタルヘルスに関する労務問題というのは、一定以上の規模の企業であれば、不可避的に直面することになるのではないかと思われる。こちらの現在及び過去の勤務先でも、遺憾ながらその種の問題とは無縁とはいえない状況にある。幸いなことに、僕自身がその種の事態に遭遇する頻度は多くない(その結果として、こちらの経験値は上がらないのだが)。そういうこともあって、本書が出た直後に購入して、目を通してみた。

 

本書は、経営者・会社側で労務問題に関わり、この分野に強い事務所の弁護士である著者が、私見も交えつつ、裁判例等に基づき、実務上の考え方、企業側で通常何をすべきかについて、論じている*1。裁判例についても、参照すべきものとそうでない(むしろ例外としてみるべきもの)との仕分けがなされている。情報過多で消化不良に陥るのを防ぐ意味では、ありがたいと感じる*2。200頁に満たない本ではあるが、かなり読み応えがあるというのがこちらの印象*3

 

特徴的と感じたのは、参照すべき裁判例・通達などから読み取れることから更に踏み込んで、著者がご自身の肌感覚から言えることも含めて解説がなされている点。単著であるからできるという側面があると思うし、記載の裏に、相応の経験があることが感じ取られた。もっとも、御本人のみの見解という部分もあり、そうした記載にどこまで依拠できるのかという点では、少なくとも現時点では疑義が残るような気がする。この点は本書の評価が高まれば、今後変化するのかもしれない。

 

本書は、通読可能な分量で、それぞれの論点について、一定の見通しと対応のための段取りを示してくれているので、通読したうえで、手元においておいて、必要になったら紐解くというのが、良い使い方なのではないかと考える。いずれにしても、手元において損のない一冊ではないかと思う。願わくは適宜のタイミングで改訂を重ねて、読み継がれるようになってほしいと思う。

*1:本書全体の構成については「はしがき」に要領よくまとめられている。

*2:この仕分け自体についても、どこまで依拠できるのかは、少なくとも現時点では疑義が残るように思われる点は留意が必要だろう。また、経営者側視点での仕分けなので、労働者視点では意見を異にする場合もあるかもしれない。

*3:単にこちらの経験値不足がそう思わせただけの可能性もあるが…。