ハラスメント防止の基本と実務 /石嵜 信憲 (著, 編集), 豊岡 啓人 (著), 松井 健祐 (著), 藤森 貴大 (著), 山崎 佑輔 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。ハラスメント対策を考える上では手元にあると有用な一冊と感じた。

 

会社側の労務系弁護士の重鎮が、お弟子さんたちと書かれたハラスメント防止についての本。総論の後に、ハラスメント防止のための社内規程、ガイドライン及びそれの解説、労災時の考え方、並びに、研修の実例として話す内容と別添資料、が付されている。巻末資料の厚労省の指針類を除けば200頁ちょっとなので、通読も容易。

 

編著者が重鎮だけあって、総論でのそれぞれのハラスメントの本質はどこにあるのか、という分析が秀逸なうえ、ハラスメントに当たる行為・当たらない行為についての分析、等の整理が分かりやすくなされていて、これらだけでも、ハラスメント防止研修とかを行う際には参考になるところが多いものと考える。個人的には、ハラスメント問題について、まずは労働生産性の問題とみるべきで、ハラスメント問題発生の結果として生じるに過ぎないレピュテーションリスクへの対応だけを目的として捉えるべきではないという指摘には、納得するところ。目立ちやすい問題にばかり目を取られてはいけないというのはその通りと感じた。

 

他方で、気になった点もいくつかある。

  • セクハラの本質は女性差別で、被害者は主に女性であって、男性へのセクハラはパワハラなどで処理できる、というような指摘は、理解できない指摘ではない反面、そこまで断言できるのか、疑問が残った。
  • ハラスメント防止策については、昨今流行りのSDGsとの関係でも、その必要性を理解可能だと思うし、その点は強調されても良いのではないかと感じるが、その点についての言及がないのは、疑問に感じた。セクハラ対策は目標5や8に関係するだろうし、その他のハラスメント対策も目標8と関係すると思うので。
  • ハラスメント研修で説く内容の中で、セクハラ行為があったという通報があった場合で、行為の有無が判断できないときには、(自称)被害者に対して、刑事告発などをしてもかまわない、会社の名前が出ても構わない、といい、加害者(とされる者)に対しては、自分で身を守れ、といい、両者に対し、嘘をついていると判明した方は処分する、というのは、発想は理解できるものの、企業内法務の立場では、直ちに取りにくいし、対応についてサポートなどをお願いした弁護士さんがこういうアプローチを取ると言い出したら困るだろうな、と感じた。

…いくつか個人的な感覚と合わない部分もあるものの、有用な部分を多々含んでいるのは間違いないから、手元において、「使える」と考えたところだけ使うという活用の仕方もあり得ると考える。そうした意味で手元にあると有用と感じる一冊だった。