契約解消の法律実務 / 松田 世理奈 (著), 辛川 力太 (著), 柴山 吉報 (著), 高岸 亘 (著)

目を通したので感想をメモ。契約解消に絞った本というのは、あまり見ないこともあり、手元にあると有用な一冊というのがこちらの印象。

 

契約書の雛型集として評判の高い「契約書作成の実務と書式」を出した阿部井窪片山の先生方の手による契約解消に関する本ということもあり、出たところで書店で購入してみた。

 

同事務所の比較的若い世代の先生方の手によるためか、文章は、各章の冒頭の会話*1も相まって、読みやすく、この種の話題に最初に接する時でも手に取りやすいだろうと感じた。分量も230頁弱とコンパクトで通読も容易。

 

表題には「契約解消」とあり、契約関係の全面的終了だけではなく、一時的中断も含めて検討対象に含まれているのが、まず興味深い。全面的に関係を終了させたあとで、何らかの事情により、関係復活を求めたくなることも想像できなくはないので、そうした発想は理解できるところである。もっとも、総論部分で出てくるだけで、その後の各論部分では明示的には触れられていなかったようだが。

 

総論的な部分の後で語られる各論は、ケーススタディ形式であり、売買契約(単発のもの)、継続的契約、販売提携契約、ライセンス契約、共同研究開発契約、システム開発契約、AI開発契約、のそれぞれについて、締結した契約の解消をしようとする際に留意すべき点や、契約の解消から考えて、締結すべき契約の内容はどうあるべきかについての解説などがなされている。全部のケーススタディで貫徹しきれているわけではないとしても、契約の解消を容易にするためにどういう契約内容が望ましいかという視点があるのは、有用と感じる。

 

個別のケーススタディについて言えば、個人的には継続的契約の解消の部分があっさりしすぎていて、金銭解決というある意味でわかりやすく、穿った見方をすれば一番安直な解決策で終わらせた点は、正直物足りなかった。金銭の支払い(要するに手切れ金)をせずに、代わりに、時間をかけて解消するというパターンの解決策においてどの程度の期間、契約関係から生じる利益を相手に享受させれば、継続的契約であっても解消できるのか、というあたりの解説を期待していたので*2。また、契約解消にどうこぎつけるかというところに重点があり、それ自体は重要としても、それに伴う付随処理(販売提携契約であれば在庫の処理とか)についても記載があっさりしていると感じられた。冒頭に記載した書式集と異なり、依頼者企業の法務担当者からのインプットはないと思われること、及び、上記の様に幅広い契約類型について触れようとしたこと、からすればやむを得ないことかもしれない*3

 

ともあれ、今後こうした点については、何らかの補充がなされる可能性もあると思うので、そこに期待したい。いずれにしても、類書のない本であり、手元にあれば有用なのではないかと感じた。

*1:登場人物のうち依頼者役には同情を禁じえない。

*2:個人的には1年あれば良いのではないかと感じているが、どうだろうか。

*3:もう一点コメントするとすれば、共同研究開発契約における残留情報の扱いについて、解消された共同研究開発契約に従事した人員について、疑義が生じるような研究開発に一定期間従事させないのがよい、というが、自社の研究開発の陣容に照らして、そのような対応がどこまで可能なのかは疑義が残った。