爪の研ぎ方について

相変わらず何だか良くわからないですが、雑駁なメモ。

 

何故か恒例化している萌渋スペース企画( #萌渋スペース)の一環です。今回はくまった先生*1からのお題で、法務部員(一応無資格*2を前提)の自己研鑽について。かつてそうであった身として、自分の経験は棚に上げて、または、脇において*3、いくつかのことを述べてみようかと思う。大半のことはかつてネタにしていると思うが、改めて考えてみたということで、ご容赦願いたい。

 

通常業務の中で*4

そもそも目の前にある業務に対応するだけで手いっぱいというのはあると思う。特に一番下の立場だと。しかしながら、そういうことに追われている状態を抜けるためには、何らかの手を考えた方が良いのではないか。目の前の資料を読むときに、さらに、問題となる事項について、もう少し広めに専門書*5を紐解くことで、理解や知識を蓄えるというのが、できると望ましいと思われる。手元に書籍がなければ購入するのも一案だろう。部署で購入するのが難しいようであれば、自分で購入するのも一案だろう*6。ここでいう専門書については、司法試験で言うところの基本書であることもあろうが、もう少し手前のものであることもあれば、コンメンタールの類までおいかけることもあるだろう。そのあたりは目の前の業務の中身次第になろう。もっとも、当該分野の全体像をつかむ意味では、ある程度骨のある本、会社法で言えばリークエ、労働法で言えば、水町先生の薄い方(有斐閣)くらいは通読してみるのが良いと考える(こちらも、司法試験とか考える以前に、実際に通読したことがあった)。

 

また、企業内法務でもいつ何時新しい案件の相談が来るかわからない。そのための情報収集も、「備え」という意味では重要だろう。「備え」があることで、安心して対応できるという面もあるわけだし。その手段として、法律雑誌を読む、というのもあるだろうし、最近では大手事務所がニュースレターを出したり、webinarを無料でやっていたりするので、そういうところを通じて情報収集をするというのもあり得るだろう。会社で経営法友会に入っていれば、そこの月例会のwebinarを視聴するのもアリだろう。

その延長線上?で、SNSとかで、情報を集めるのも、内容次第ではアリだろう。ただ、ネット上の情報は、正直玉石混交なので、発信元の素性と根拠については確認しておいたほうがいい(それと発信年月日も。)。先に挙げた弁護士事務所などについては、特に五大クラスはないように一定の信頼がおけることが多いが、それ以外については、どこまでの信頼がおけるか、注意が必要であることも、認識しておくべきと考える。

 

もう一つ、ある種の「荒業」として、未知の分野であっても、その分野の経験を積みたいときには、そういう業務の案件が出てきたときに、思い切って手をあげてみるというのはある。もちろん、未経験で飛び込む以上は大変だが、業務時間内で強制的に勉強をするという事態が現出されるので、考慮に値する手段ではあるのだろう*7

 

 

通常業務の外で

通常の業務とは離れたところで、転職も含め自分の将来のために*8、勉強をするというのもあり得るだろう。目の前にあることに対応しているだけでは、頭打ちになるのではないかという危機感(その当否はさておき)に起因するものがあるだろう。汎用性のありそうな話をいくつかにわけて考えてみる。

(1)法律系

有資格者であれば、一定程度の素養は確保されているはずだが*9、それ以外の場合は、そうとは限らないので*10、何かすることは想定可能だろう。

まず最初に思いつくのは、司法試験・予備試験ルート。自分が結果的に合格したからといって、このルートを安易には唱道しない。現状どちらのルートも、フルタイムで働きながらたどるには負荷が高すぎると感じるからである。ついでに言うと、仮に最終合格までたどり着いたとしても、その後の費用対効果についても、正直疑義がある*11。修習で一年現場から遠ざかることには、収入面以外でもリスクになる。なので、安易には勧めるものではない。ただ、仮にやろうというのであれば、だらだらやらないで、期間を区切ってやった方がいいと思う*12。そうすることで、直前期にまとまった休みを取るとかの無理も言いやすくなるだろうから。

それ以外の、負荷レベルのお手頃なものとしては、法律系であれば、ビジネス実務法務(2級でもよいが、1級まで行きたいところ)検定が想定されるし、士業資格という意味では行政書士宅建あたりがあるだろうか*13。企業内であれば士業資格よりもビジネス実務法務検定の方が良いのではなかろうか。これらについては、いずれも、かなり前のことではあるが、いずれも一応クリアした。いずれについても短期集中で行けるものと思われる。

この辺りは、企業によっては、昇格などのための条件となっているところもあるので、そういう場合は否が応でも頑張ることになる。関連資格があると、その分野の仕事が回ってきやすくなり、社内での認知度などが上がるというメリットもあるかもしれない*14

 

(2)外国語

次に外国語が想起される。英語以外はわからないが、英語についてはいくつかのことをメモしておきたい。

TOEIC,TOEFL,英検などの資格試験で学ぶものが、実務で直ちに役に立つことは期待してはいけない。ああいうのは、むしろ、留学の社内選考や、ロースクールでの選考とか、転職の際の書類審査の役にたつのと、学習のモチベーションの維持のためのものと理解すべきだろう。

法務系の英語は、そもそも語彙や用法において、世間一般の英語と乖離があることと、背後にある英米法の考え方の理解が要る部分があるというのが、その主な原因と考える。また、口頭での英語については、資格試験などで耳にするようなきれいな英語を話す人間に、実務で接する機会が少ない(仮に英米人でいるとしたら、陪審などに話しかけるためにそれ用の訓練をしているlitigatorくらいだろうか。)ということもある。そういうことを考えると、資格試験の勉強で学んだことは、もちろん有用だけど、それだけでは足りないということは心する必要がある。文法などの力は有用なのは間違いない。

こういう点をクリアするために、LLMなどへの留学というのも選択肢たりうる。ただ、就職してから英語を学んでもnativeレベルになれるわけではないから、その点も踏まえた方がいいだろう。企業派遣を考えると、企業内での競争がある場合もあり、そこを勝ち抜くのは必ずしも容易ではないし、自費で行くのは費用対効果に疑義がないわけではない。なので、どこに*15、何を学びに、どの程度行くのか、というところは慎重に考えた方がいいと思われる*16。そのあたりの戦略性は、留学時のパーソナルステートメント作成にも資するはずなので、どのみち検討することになるだろうが*17

 

(3)会計・ファイナンス

法律・外国語以外のところは、法務業務からすれば周辺領域で、この辺りに強いことは、法務部門内での差別化につながる可能性があるが、片手間で出来るほど簡単な分野ではないので、深みにはまって本業?たる法律系の研鑽がおろそかになる危険があることも注意が必要だろう。

ともあれ、最初に思いつくのは会計・ファイナンス系の話だろう。機関法務系の話をする上では、理解が求められることが多いように思われる分野でもあるし、契約審査などをしている際に、ビジネス上の影響度合いを考えるうえで、これらの知見が有用なこともあるだろう。

個人的には会計系では、日商簿記2級の資格を取ったことが、ファイナンス系は、留学時にLLMでコーポレートファイナンスの授業を履修したことが、それぞれ役に立っている気がしている。前者に付いては、メーカー法務であれば、原価計算とかの考え方(細かい計算は正直どうでもよいが)は、自分たちのコストがどういう風に製品の価格に乗るのかということを掴むうえで有用だろう。また、メーカーに限らず、訴訟とかの費用(弁護士費用も含む(汗))がPLのどこに影響して、逆にその分を埋め合わせるにはどの程度売り上げが要るのか、ということを考えるには、個人商店レベルの3級の簿記レベルでは把握しにくいように感じる。

 

…会計・ファイナンスと共に税務も理解しておくべきとは思うが、不勉強なので何も言うことが出来ないので、省略する。

 

(4)IT

会計・ファイナンス系の次に思いつくのはIT系だろう。最近のDXとかの流れでその重要性は増しているだろう。M$Word, Excel, Powerpointの使い方を超えた話としてどこまで理解すべきかは不明だが*18、最低線としてITパスポートレベルというのはそれほど悪い選択肢ではない気がしている。もっと先に行くべきなのだろうが、こちらもその辺りより先は未知の領域なので何とも言い難い。

 

追記)経文先輩のエントリはこちら。

tokyo.way-nifty.com

 

追記2 ちくわ先生の反応エントリに接したのでメモ。

chikuwa-houmu.hatenablog.com

*1:ネタの振り方に、こちらに対する慣れと配慮を感じるところ。ありがとうございます。

*2:この表現は適切とは思わないが便宜上使用することをご容赦願いたい。

*3:こちらのこれまでの経路については、再現性がない部分を多分に含むので、変に言うと誤解を招くと思われる。

*4:法務ということで以下では、法律の知識を念頭においているが、それだけではなく、自社や自社のビジネスに対する知識を深めることも重要と考える。特に会社組織というのは、一定の必然性があって、作られていることから、特定の組織内での組織の「生理」についての知識は、転職などした場合でも、応用が利くということが言えると思う。中途入社だと、新しいところで、その会社独自のそれに慣れるのにはしばらく時間がかかるし、そもそも慣れ切らないこともあるだろう(インハウスで「先生」扱いで終わるなら、敢えて慣れないのも一つの生き方だろう。)。こうしたところは企業外からはわかりづらいし、仮に外の弁護士さんが出向などされるのであれば、これらの点の一端でも感得することが望ましいし、それができずに終わったのであれば、席の物理的な場所を移しただけでしかなく、企業内に来た意味がほぼなかったということになるのではないかと考える。

*5:最近だと紙のものだけではなく、legal libraryなどの文献サブスクリプションにあるものを紐解くこともあるのではないか。

*6:自腹で買っておくことの利点は、転職のときに持って歩けることだろう。こちらのように転職人生を歩んでいるとこの点は無視できない。

*7:某二次妻・無双な方がこの種のことを書かれていたような気がする...が、あの方の真似こそ、「良い子はしてはいけません」なのは言うまでもない。

*8:なお、こちらとしては、転職は安易に薦めるものではない。特にJTCでは、転職が不利になるようにもろもろのシステムはできているように思うし、一つのところにずっと居続けないと経験できないめぐりあわせがあるのも間違いないと思うからである。しかしながら、状況次第では、転職を考えなければならなくなる場合があるのも同様に事実だろうと思う。

*9:既に指摘がなされているように、その点について安心しすぎて研鑽を怠ると、知識などは陳腐化するし、ミスしたとき等は、資格の分だけ他人の見る目が厳しくなることに注意が必要。

*10:TL上でも、擬古文先輩をはじめとして学識・経験共に優れた方々が数多おられることにも注意が必要。

*11:こちらの能力不足ゆえにそう感じるのかもしれない。

*12:そういえば某鯖氏は...。

*13:司法書士は、司法試験とは別の意味で、負荷が高すぎると考えるので、ここでの考慮からは外している。

*14:反面で何でもかんでも振られて、便利屋扱いされる危険もあるのだが(これは寧ろ語学で顕著だが。)。

*15:アメリカの場合、日本人が良く行くような東海岸・西海岸の大都市でどの程度アメリカを理解できるのかというと心もとないところがあることも認識しておくべきと考える。そもそもアメリカなのか、ということも検討に値する。

*16:いずれにしてもLLM1年程度で理解できることは、たかが知れているという現実も理解しておくべきと考える。行くなら最低2年は行きたいところだろう。

*17:留学の隠れた?効用と感じた点が、自社及び業務から、物理的にも、そして、それゆえに精神的にも距離を置いたところで、他社の方などと接して話をすることで、自社及びその中での自分の状況を相対化する視点を得ることがあると思う。その結果として、こちらは転職につながったのだけど...。その過程では、話が噛み合わないときに、その原因が、立ち位置の差異があるがゆえに見え方にも差異が生じていること、それ自体にあることにも気づくことがあると思われる。

*18:過去の職場において、ある複雑訴訟への対応に際して、情報の整理のために、同僚がAccessでDBを組んだことがあり、当該同僚が異動でいなくなった後、その管理者をさせられたことがあった。さらにその前には、初職で、法務に配属される前の部署で、社内でイントラネットが出来たときに、部署のサイトを作れとだけ言われて、適当に素材を集めて、htmlを半ば手打ちする形で、サイトを作ったこともあった。