業務委託契約書作成のポイント〈第2版〉/近藤圭介 (著, 編集)

ざっと目を通したので感想をメモ。業務委託契約について検討する際に座右にあると有用な一冊、という印象。

 

TMIの先生方の手による本書は、債権法改正などを反映した改訂版だが*1業務委託契約について、総論的な解説の後に、請負型の基本契約のサンプルを逐条で検討し、その後に準委任型の個別契約のサンプルを前記契約と異なる点について検討する、という形になっている。請負型と準委任型、基本契約型と個別契約型というパターンを組み合わせ、さらには、要所の条項では変更案にも言及があって、コンパクトな分量でありながら、契約のパターンについてある程度カバーを出来るようにしようという配慮をしたものと思われる。また、総論部分では、業務委託という鵺的な存在で関係することが想定される法律の概要がまとめられていて、網羅的ではないとしても、どういう法律との関係に注意する必要があるのか、その要所がわかる形になっている。

 

業務委託契約は、実務的には便利に使われるものの、法的な性格付けに不明確なところがあり、簡単には行かないところもあると思われる。その意味では、本書を手元において、検討の際の助けとすることは良いことなのではないかと思われる。契約書の雛型として定評のある阿部井窪片山本でも言及はあるが、広範な契約類型をカバーしている中での記載なので、記載が限られているため、本書も併せて参照するのは有用と感じた。

 

個別の記載について、印象に残った点をいくつかメモしてみる。

  • 全体のバランス上やむを得ないものの、総論の部分は記載があっさりしているので、より詳しい文献へのレファレンスはもっと欲しかった気がした。
  • 雛形類については、できればダウンロード可能な形にしてもらえると、作業を省力化出来て有用さが増すものと考える*2
  • コラムで歩留まり補償条項についての言及があったが、その種の条項を見た記憶がないので、興味深かった。個人的にはepidemic failure条項という形でこの種の問題への対応は出てくるものと思われる。それは、継続的な製造委託となると、発生した品質不良による損害の補償よりも、将来の品質向上という方が買主にとっては重要なのではないかと思うのと、その反面で、売主側としては、買主側が生産プロセスに介入することで秘密情報(他の業者の製品の製造に関する情報等)が洩れる危険などが生じる点が懸念材料になるのではないかと思うからだが。
  • 秘密保持条項について、秘密情報漏洩の事実は立証困難ということから、管理体制の具備や漏洩時の報告を定めておいて、それらの違反という形で、漏洩を問題とするという視点は、なるほどと思った(こちらが不勉強なだけかもしれないが)。
  • 譲渡禁止条項についての注98の記載は、弁済先固定以外の利益が債務者側にある時の議論の紹介を、なるほど、と思いつつ読んだ。メーカーの取引基本契約におけるその種の条項は、弁済先固定以外の利益があるものと理解しているので。

*1:どうでもいいことだが、初版の編者の渕邊先生は、初版刊行後にTMIを去られた関係で、本書では初版の「はしがき」のみに名前が出て来て、末尾の著者紹介でも言及がない形になっている。このあたりの経緯を知らない読者には奇異に映るのではなかろうか。

*2:少なくとも本エントリをupする時点ではlegal libraryには入っていなかった。