M&Aの契約実務(第2版) /藤原 総一郎 (編著),大久保圭 (著), 大久保涼 (著), 宿利有紀子 (著), 笠原康弘 (著), 粟谷翔 (著)

積読山に詰まれていたが一通り目を通したので感想をメモ。この分野の本としては、まず最初に手に取らなければならないの一つであると思う。

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本書は2010年に出た本の改訂版。初版が出たときに目を通してはいるのだが、ここしばらくM&Aに関わる機会が少なかったこともあり、頭からすっかり抜けている気がしたので、再度一通り目を通した次第。

 

本書の構成自体は改定で変化せず、内容的には、初版が出てから後の変化、その最も大きなものは、債権法改正だろうが、それを反映したものと、というところになろうか。全体で300頁ちょっとなので、通読も十分可能な分量に収まっている。

 

内容的には、まず、M&Aの契約全体に関する総論があり、その後各論として株式譲渡契約についての解説がなされている。

 

総論部分では、個人的にはM&Aの初期に秘密保持義務を交わして、秘密情報を取り交わした後の実務的な処理についての記載が、特に興味深かったし、この部分は、たとえ、M&Aに関与することがなくても*1NDAについての実務に関与するのであれば、読んでおくべきと感じた。

 

各論部分では、もともと英米法的な概念が多く持ち込まれて、条項化されているところ、日本法の下でこうした条項をどのように解釈していくべきかという解釈論、特に、債権法改正後のそれ、が興味深かった。M&Aについての契約条項の解説ではあるが、解説自体が詳細なので、その他の分野の契約においても参考にできるところもあると感じた。個人的には、表明保証やその違反に対する対応についての解説が特に、面白かった.。このあたりは、初版を読んだときと同じことを感じたようだ(ログがエントリの形で残っているとこういう比較も可能となる)。もっとも、初版を読んだときには気づけていなかったいう部分もあるので、それなりにこちらも進歩していると感じられる部分もあるのだが。

 

書かれている内容は、流石四大という検討の緻密さという感じで、これはこれで読むべき内容ではあるが、内容の網羅性という点からすると、株式譲渡以外のスキームについての契約が取り上げられていないため、物足りなく感じる部分があるのは事実。この点は、一定の解説濃度を保ちつつ全体を通読可能な分量に収めることとの兼ね合いもあるので、やむを得ないのかもしれない。浅薄な解説が平坦に網羅されていたのでは、ここまで読み継がれなかっただろうし。

 

いずれにしても、適宜のタイミングで改訂を重ねていただき(今回の会社法改正はどの程度内容に影響するのかも気になるところ)、長く実務の助けとなり続けてくれることを願うばかりである。

*1:昨今の企業をめぐる状況からすれば、M&Aに絡まない法務担当者は少数なのではないかという気もするが...。