何のことやら。
某DMでのやり取りを再構成してエントリにしてみる。某スペース(おもちさんの仕切りとさゆりさんとお話しするもの)でこちらがお話しする際のネタ帳でもあるのだが。
企業内法務*1での「売り」というか、「外」との差別化要素は、事業の理解の度合いにある、というのが、今度出るはずの某書籍でも触れられているところ。
具体的には、自社を含む利害関係人とのかかわりあいの中で、事業がどういう流れで進められるか、そして、自社がその中でどういう状況にあって、どういうところから利益を得るか、を理解することを意味するものと考える。ファイナンス的な見方からすれば、税引後利益の最大化を図ることが企業に求められているはずで、そうであれば、企業としてその目標にどのように近づくか、そしてそのために企業内法務がどのようにかかわるかを考えるうえで、前記の意味での事業の理解は重要となるように思う*2。
そういう理解をすることでいかなる具体的なメリットがあるのか。契約書案の文言だけ読んでいて、抽象的な議論をしていると、その事業特有の事情を踏まえれば、無視できたはずのリスクに過大に反応する危険や、警戒しなければならないはずのリスクを見落としたりする危険を低減させる(ゼロになることは難しいとしても)ことが期待でき、そういう点から、事業部門側から見て、納得感のあるアウトプットができる可能性が高まるだろう。そうしたアウトプットの傾向から、事業部門からの信頼も相対的に得やすくなることが期待できる。特に技術面は理解するのが容易ではないとしても、初歩的なことを理解していることや、理解しようとする姿勢が見えれば、事業部門側との信頼関係醸成にも有用というのが、こちらのこれまでの経験から感じるところである。信頼関係が醸成されれば、諸々の情報の入手が容易かつ迅速になされることも期待され、そういうところから、企業内法務のパフォーマンスの向上にもつながる余地が出てくることになろう。そういうことを考えると、企業内法務の担当者にとっては、事業を理解することにはメリットがあるということになるものと考える。
それでは、具体的にどのような点を理解するのか。事業の理解を深めるための切り口という点で、思いつくのは次のようなあたりだろうか*3。
- スキーム(サプライチェーンの中での立ち位置含む)。要するにモノ・サービス、金、情報のやり取りの流れということになろうか。どこからどこにながれるのか、それらがどういう順序でなされるのかというあたりも含めて話になろう。
- 扱っている有体物・無体物・役務の特性(市場内での位置、内在している危険要素・取り扱いの際の注意点等。)
- 適用される法規制の有無及び内容(規制違反に対する制裁(事実上のものも含め)を含む。)
- 製造開始・サービス開始までの工程及び製造時・サービス提供時の工程
- 当事者の能力・役割分担・力関係(事実上のものも含み、かつ、過去の取引などにおけるトラブルの履歴も含む。)
どのように理解を深めるか、という点については、自分単独で出来ることとしては、まずは自社内の資料を見るということがあるだろうし、その他にもネット上にある情報をうまく駆使することも考えられる。その他にも、事業部門と話をするときに、都度、話の「余白」を広めにとって、話を聞くことを続けることで、理解を深めていくなどのやり方があるだろう*4。
ここで気になるのは、こうした理解の深め方については個人差があるという点。個人的には、この種の理解を深める能力というのは、実は汎用性のあるスキルではないかと感じている。つまり、転職などをしても、次のところで活かせる部分のあるスキルということになると考える。理解した内容が活きるという部分もあるが*5、理解しようとする姿勢、理解する際の方法論が活きるということだろう。少なくともこちらの場合は、現職で培ったそういうスキルが、無意識的に活きていると感じている。ある種のスキルと考えると、個人差があっても不思議はない気がする。とはいっても、最後は個人としての、姿勢の問題ではないかという気がするのだけど。事業に対してどれだけ好奇心を持てるか、というのはそうしたスキルが発揮されるうえでの重要な要素ではないかという気がするが*6。
追記)さゆりさんの今回のスペースについてのエントリが出ていたのでリンクを貼る。事業理解の詳細についての記載が圧巻で、おそれ入りましたと申し上げるしかありません(汗
追記2)上記のエントリが尻切れトンボだったので補足するエントリが出たのでご紹介。上記と併せてさゆり姐御の圧巻のエントリを堪能していただければと思います。
追記3)白石先生からコメントも頂戴した。以下の呟き以下のツリーをご参照ください。
このあいだの #クセ強スナック 勉強になったなと思っていたら強力なブログ記事になっていまして、自分でツリーにしておこうと思いました。
— 白石 忠志 / SHIRAISHI Tadashi (@shiraishijp) 2023年3月8日
追記4)おもちさんのnoteでのエントリ
関連して、ちくわさんのエントリもご紹介
*1:資格の有無は問わない。
*2:なお、本エントリを書く上で、某大先輩にドラフトを見ていただいたところ、事業以前に企業理念の理解が重要ではないかというご指摘をいただいた。確かにそのとおり。企業理念から事業の在り方、あるべき姿を敷衍するという視点も重要である。が、その辺りはおそらく今回の話題からそれるので、脇へ置く。
*3:関連して、過去にこちらの書いたこのエントリもご参照ください。
*4:この辺りの詳細は今度出る予定の某書籍に譲ることにする。一応ステマではないつもりだが...。
*5:ここは進路の取り方で活きる度合いが異なるだろう。
*6:もちろん、好奇心はありつつも、事業部との一定の距離感は必要となることがあるのは言うまでもない。