どこまで前に出るか

昨日のエントリで書いたことの続きでもあるが、呟いたことを基に若干のメモ。

 

企業内法務(以下「法務」とする)が契約交渉にどこまで関与するか、という話だが、この辺りは業種ごと・企業ごとに色々な考え方があり得ることは言うまでもない。なので、以下もこちらの経験した範囲に基づく物言いでしかない。

 

法務の陣容との兼ね合いで、そもそもいちいち付き合ってられないというリソースによる制約はさておき*1、仮に時間面などで交渉の前面に出ることが出来たとして、そこで何をするのか、というところがまず気になる。

 

そもそも大抵の企業において、事業に伴うリスクは事業リスクとして、事業部門が責任と共に負担する整理をしているはず。そうなると契約交渉についても、その結果として引き受けることになるリスクは事業部門が負担することであり、その外にいるはずの法務がとやかく言えることは少ないのではないか*2。もちろん強行法規違反などにより、そのリスク引き受け行為自体が、企業全体として許容できないところについては、何かを言うべきだろうが、そういうことはそれほど多くないと感じる。また、そうしたリスク引き受けを伴う判断について、経営判断の原則の範囲内に収束しているかどうかをその場で判断するために、その場に立ち会うことが必要となることも想定可能ではあるが、そういう必要性が生じることも、そうそうないのではないかと感じる。船頭多くして船山に上るという話もあり、決定権者でないのに立ち会うのが適切なのかというと疑義が残るところ。

 

法務が事業リスクの外にいるとなると、契約交渉後に、締結した契約を履行する段階について、責任を持つのは事業部門という話になる。そうすると、契約交渉も当事者として主体的に対応するべき事業部門が最初から責任をもって対応すべきであり、その主体性を損ねるような行為は差し控えるべきで、仮に契約交渉に法務が立ち会うとしても、サポート役に徹するべきということになろう*3

 

また、法務が出すぎると、ややもすると、事業部門が主体性を欠いた対応をしてきて、結果が悪くなると責任まで押し付けてくる、という現象も想定しうる。責任分担のありようとして適切ではなくなるだろうから、そうした弊害を避ける意味でも、法務としてどこまで前面に立つかは、状況に応じた対応が必要なのではないか、と感じる*4

 

結局、事業部門が事業内容に知悉して、主体性をもって対応するのであれば、殆どの場合で、法務が立ち会う必要はないのではないかと感じる、というところになろう。上記のような弊害も想定されるところでは、なおのこと。

*1:とはいえ、ここの部分は無視できないことが多いような。

*2:ここからすれば事業部門内に法務機能がある場合は別異の議論があり得ることになるのは言うまでもない。

*3:その意味では、従前なサポートとなりうるよう、事前の「すり合わせ」は必須だろう。

*4:そういう弊害を避ける意味では、仮にそういう交渉の場で、法務としての意見を求められても、その意見をどのようにいうかは慎重に考える必要があると感じる。YESといえるかどうかということについて、法務として意見を持つことと、それを企業の意見として表明することとは別異に考えられる。法務としては、根拠に基づき意見を持つべきだろうが、その意見をどこまで、どのように表明するかについては慎重になるべきと感じる。法務の立ち位置からすれば、こういう事実及び考え方に基づき、こういう判断をすることはあり得るのではないか、ということは言えるだろうが、それを超えることには慎重であるべきということになろう。