雛型を変える。

呟いたことを基に益体もないメモ*1

#up後に加筆あり。

 

きっかけはこちらの呟き。

変えるというのはそれほど簡単ではないし、安易にすべきものではないというのが、こちらの言い分ではあるが*2、もう少し付言してみる。

 

そもそも自社の契約書の雛型は、自社のビジネスモデルや、市場内での立ち位置、過去の教訓*3を踏まえて作られていることが多い。そうであれば、一見したところ、意味が分からないような記載があっても、それだけをもって、当該記載を削除等して良いかというとそうとは限らない。前記の点をよく理解して、もともとの記載に繋がった要請が、時の経過ととともに、現状必要かつ有効な手当かどうか、過剰対応になっていないかどうか、の検討が必要だろう。なので、安易に変えるべきではない。

 

また、仮に、法令改正に対応していないなどの理由により文言だけを見ると民商法等に照らして問題がある文言が自社雛型にあったとして、その問題点が引き起こす可能性のある問題が、正味発現する可能性がどれくらいあるのか、発現した場合のこちらに対する負の影響がどれくらいあるのか、それを克服する手間に見合うのか、というあたりの精査も必要と思われる。


もし、取引で問題が生じても、契約書の文言に立ち返ることなく、契約書以前の取引上の力関係で片がつくなら*4、契約書の文言を変える必要はない、という議論はあり得て、そうした議論に説得力が生じ得る。それを超える何かがあるかという視点がないと、事業部門側がそうした議論を持ち出したときに、雛型を修正すべきという企業内法務の意見に説得力は出ないのではないか*5

 

そうした場合に、企業の外におられる弁護士の先生方からは、そうした、ある意味で、十分更新がなされていない契約書の文言については*6、裁判所の「受け」が悪いのではないかという懸念が呈されることは、それ自体は想像の付くところであるし、もっともなご指摘であろう。

 

ただ、企業内の立場からすれば、そうした懸念に対しては、そもそもその雛型に使って作られた契約書で裁判になるのか、仮になった場合に、そうしたの文言ゆえに不利になるのか、という問いが必要ではないかと考える。具体的にどう不利に作用するか説明できないと、社内での説得力が出ず、変えるのは難しいこともあり得ると考える*7。想定される具体的な弊害についての指摘がないと、「法務の趣味」といわれたときに返す言葉が出ない可能性もある。

 

自社の契約書雛型の文言の改善の要否も、コストと便益との比較で決まる部分があるように思われる。そこでいうコストは、社内調整コストだけとも限らないように思う。すぐに思いつく例としては、同種の取引を繰り返している相手に対して当該取引類型に適用するひな型を変更して渡した場合、相手方から、従前の雛型と比較して変更理由を聞かれる可能性も想定可能なところで、そうした場合の説明コストは社内調整コストとはいえないと考える。さらにいえば、そういう問い合わせを第一義的に受けるのは事業部門で、契約書とかに知見がないことの多いそうした部門にとっては、そうしたやり取りの負担感は、企業内法務部門が感じるより大きいことも忘れてはならないだろう。

また、一度変更すると言い出した場合、相手からも、その機会に自社側で不満に思っているところについて、何らかの要求が出る場合も想定され、それへの対応コストがかかることも想定する必要があるだろう*8

 

そうしたコストが生じる可能性も踏まえても、なお、修正をすべき、という結論が導けるだけの正当化ができないと、事業部門側の抵抗が厳しいときには、対応しきれない可能性が否定できないように思う。その意味では、変更すべき点をまとめておいて、こうした正当化がしやすい変更項目が出た時に、ついでに、まとめて変更する*9、という対応も一理あるところではないだろうか。

*1:一応の前置き:以下はこちらの企業内法務(資格の有無は問わない)の体感に基づくもので、異論などはあり得る。こちらの現在過去未来の行状との整合性はとっていない。

*2:以下に述べるように、変えるにしてもいろいろ知ってからでないと変えることは容易ではないので、半年ROMれ、という物言いも、一定程度様子を見てから手を付けるべき、という限りでは、ここでも妥当する可能性が高いと考える。

*3:契約上で手当てがあれば回避又は軽減可能なリスクが、手当てが不十分であったことで発現等して何らかの「被害」を受けたことへの対応として、記載が追加されることがある。「羹に懲りて膾を吹く」というべき状態になっていることもあるとしても。

*4:その状態が、優越的地位の乱用や下請法違反等の競争法上の疑義を招く場合は別論であることはいうまでもない。

*5:他方で、企業内法務から修正すべきという話が出たら、そのことを一切疑わず唯々諾々と企業内法務の低減に従う事業部があったと、仮にすれば、そうした事業部は、契約書の面倒な話になるとすべて企業内法務に「丸投げ」する、要するにその件に対する主体性(流行り言葉を弄すればオーナーシップというところか。)がない事業部門と大差ない可能性もあり、それはそれで注意が必要ということになるのかもしれない。

*6:個人的には確かにカッコ悪いと思わなくはない。

*7:常にそうなるとは限らないことも付言しておく。

*8:「藪蛇コスト」とでもいうべきか。

*9:もちろん、その間、そうした内容を忘れずに記憶に留めておく必要があるわけだが。