気になった点のメモーKADOKAWAの件第三者委員会報告書

法務クラスタで話題になっていた掲題の報告書にざっと目を通したので、雑駁な感想を手短にメモしてみる。

 

精緻な分析などはきっと別の方がされるだろうから(他力本願)*1、読んだ際に感じたことを箇条書きで数点メモしてみる。

  • この件では、法務の動きについて色々言われていて、確かに書かれている事実を見ると、法務には他に動きようがなかったのかという気もしないではない。しかしながら、本件も、上層部の暴走は、所詮勤め人でしかない管理部門には止めようがないという意味で、内部統制の限界の一例でしかないのかなと感じた*2。今回は法律面での問題が大きくなったから、法務の動き方が問題となっているだけのことで、法務以外の管理部門にも同種の問題がないのかという視点での検討をしないと、別の形で同じところに起因した問題が出る(たとえば税務上の問題とか)のではないかと感じた。
  • 議論がいろいろあった法務の位置づけに関しては、提言で、「法務部門は、とっていいリスクととってはならないリスクをわきまえ、とってはならないリスクに対しては、身を挺してそれを阻止すべき立場にある。」とあるのに対しては、流石に、企業内の法務部門に夢を見すぎていませんか、と言わざるを得ない。報告書を書いている方々に、企業内法務で就業したことがある方がいないようなので、しかたがないのかもしれないが*3、忖度文化のあるところで、経営陣が強くやりたがっていることがあるときに、法務の部長クラスであっても、その身を挺して、それを阻止できると思い難い。忖度した他の人間が、法務のそうした行為を妨害することすら想定可能だろう。そして、仮に阻止しようとしても、誰からも評価されないばかりか、自分に人事上の不利益が生じる可能性が高いと推測されるだけというところでは、そのようなことに実現可能性があろうはずがない。企業法務の担当者にそのようなリスクしかなく、実現可能性の乏しい行動を期待するのは、期待自体失当であろう。企業内法務の担当者にできるのは、一定のことを言ったあとでは、転職活動をして速やかにこの会社から離脱することだけはないだろうか*4
  • 上職者の意向への過度の忖度を打破することが提言されていて、その必要性には争いはないとしても、挙げられてる方法については、これで達成可能なのか疑問を禁じ得ない。ドワンゴとの経営統合後も忖度文化が温存されたことからも、企業文化を変えるというのはそれほど簡単なことではないことが示されていると感じるから、そういう疑問につながるのだろうが。

*1:事実関係を見ると、五輪などのような「カネの臭いのする」スポーツイベントでは、今回問題となった動き方をする人間が出るのが通常なのではないかという疑念をいだいた。そうであれば、そもそもその種のイベントは開催しないほうがよいのではないかと感じた(札幌五輪招致とかも避けた方がいいと考える。)。こちらが今回の五輪でその種のイベントがますますキライになったからそう感じるのかもしれないが。

*2:最初に、週刊誌で疑惑を報じられた時点で、法務に関係する情報が入ってこないのも問題と言えば問題という気もするけど(法務が社内に真偽を確認すべきだったのではないかという気もする。)、仮に情報が入ってきていたとしても前記の限界からすれば、結果を変えられたのかというと、疑問が残る。

*3:だとすると、このメンバーでこの事案における報告書を書いたのが適切だったのか、それ自体疑う余地があるのかもしれない。

*4:法務職種の流動性の高さを考えれば余計にそうなるだろうと思う。