はじめての中国法務Q&A / 経営法友会中国法務研究会 (著)

勤務先が経営法友会会員企業ということで、オフィスに届いていたのに目を通してみたので、感想をメモ。この分野の最初の一冊としては良い本なのではないか。

 

中国は、現状、市場などとしては、日本企業にとっては無視できない地域であり、その状況はおそらくはそうそう変わらないものと考えるが、そういう地域での法律及び周辺事情についての解説をQ&A形式で230頁余とコンパクトな形にまとめたもの。経営法友会の中国法務研究会によるもので、中国人の弁護士さんが監修の下、日本の企業の法務の担当者の方々が原稿を書いている。

 

かの国でのビジネス法務を考える上では、あの国の共産主義国故の特殊性や国民性なども含めて理解していないと、理解がしづらいであろうということは、それほど想像に難くないように思われる。政治体制の違いによる部分は、ある意味で当然のことかもしれないが*1、国民性のようなものが本邦におけるそれとは異なるというのは、こちらのこれまでの乏しい経験*2の中でも感じるところである。

 

本書では、その辺りの法律以前とでもいうべきところから、解説がなされ、法律以前のところで躓くことのないよう配慮がなされていると感じる。第1編でそうした総論的なことが説明されたうえで、第2編で各論として、ビジネス面で重要度が高そうな法律分野について解説がなされている。重要度の高そうな用語については中国語での表記がふされているのも有用ではないかと感じる。

 

全体としての分量の制約からか、それぞれの分野での解説は、それほど突っ込んだものとはなっていない。全体を通読可能な分量に収まっているので、通読して全体を鳥瞰するというのが本書の使い方としては適切なのではないか。他方で、突っ込んだ点を調べるための、文献案内のようなものはないのが残念なところ。中国語のものを紐解くのは無理があるだろうが、日本語で書かれたものも、ゼロではないので、その辺りについての案内があってもよかったのではないか。それともう一点、気になったのは、執筆時点が必ずしも明確でない点。複数人で書いていると思われることもあり、その点は気になった。原稿執筆の基準日のようなものを明示してもらえると良いのではないか。

 

ともあれ、配慮のなされた入門書としては、良い本ではないかと思う。願わくは、今後適宜の時期に内容を更新して、長く読み続けられるになってほしい。

 

*1:党の指導が憲法に優先するというのは、一党独裁下では当然なのかもしれねないが、やや驚く。

*2:これまでの勤務先において業務上で接点があった方々のみならず、LLM留学時に接した方々とのやり取りの中でも感じることがあった。