企業犯罪と経済刑法

一通り目を通したので感想をメモ。

#up後複数回に分けて加筆した。

 

 

手軽な感じで読めそうな経済刑法の入門書というところか。あまり手ごろな本のない分野という気がするので、とりあえず買ってみた。総論的な解説に加えて、各論の代表的と思われる問題行為について解説が付されている。休憩時や通勤通学時に読めるように、という発想から、図表も使い、強調表示もメリハリをつけ、判型も分量もコンパクトにまとめたことで、通読も困難ではないように見える。

 

入門書と言いつつも、読者が読了後に更に内容を深掘りすることを想定するよりも、とりあえずこの辺りの様子を見る層を優先したのか、この先の読書案内はなく、また、条文番号の指摘も少ない。こちらのような企業法務の立場からすれば、そういうものがあった方が望ましいと考えてしまうが、省くことで、より一層のコンパクトさを追究したということなのかもしれない。文章自体は平易で、実際の事件を基にした設例を前提に解説がされていて、読みやすそうにも見えるが、一定の法律知識があることが前提となっているようで、基本的な用語の説明が省略されていることもある。また、特に、総論的な記載についても結構高度なことがさらっと書いてあるので、見た目ほどはハードルが下がっておらず、いうほどとっつき易くないかもしれない*1。これらの点について説明をすることでコンパクトさが阻害される可能性があるも考えると、どういう層を主たる読者と想定するか、という点で判断のしどころだったのだろう。

 

経済刑法は、企業内法務ではコンプライアンス周りの話との関係では意識はすることもあるし、必要に応じて個別法を調べることもあるが、本書のように横断的に見たことはなかったので、なるほどと思いながら主に移動中に通読した。破産犯罪とか、粉飾決算、脱税のように、これまでの企業内法務の中では、勤務先の問題としてかかわりを持ったことのないものもあったので*2*3、たまにはこういう見方をするのも面白いかもしれない。

*1:社内のコンプライアンス研修とかの参考になるかというと、もう少し内容をかみ砕くことを考える必要があるのではないかと感じた。

*2:これらの分野については、当然のことながら、あまり知識もなく、特に興味深く読んだのだった。

*3:逆に、調べるなどした経験のあるものとしては汚職、特に海外公務員贈収賄禁止のところは、対応する社内規程の導入の過程でいろいろ調べるなどしたが、ネタ元の事件として引く事件としては、寧ろ司法取引まで行った別の某事件の方がよかったのではないかという気がしたのだが...。