例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。
- 判例速報。
会社法の関連会社の業務執行に関する外国刑法違反と取締役解任の訴えは、外国の関連会社における当該会社の取締役としての当該国の刑法違反行為を理由に国内会社の取締役としての解任を求めるというのは、国内会社と当該外国会社との関係が遠い本件では無理がある主張ではなかったかと感じた。
労働判例の新型コロナウイルス感染拡大による売上減少に対応する休業中の休業手当請求を認めた事例は、会社側に酷にも見えるけど、会社側で雇用調整助成金とかが使えることを考えると結論は妥当なのかもしれない。
独禁法。消耗品をめぐるプリンタの設計変更を独禁法違反とした民事事例では、判決の論法が世界標準の「形」と異なり、故に抱き合わせに関する一般的な考え方を援用できない点の指摘には納得だけど、裁判所が何故「形」を踏まえなかったのかが気になるところ。もっとも、そもそも裁判所は「形」に従うべき規範の下にないだろうけど。
知財。ハッシュタグと商標権侵害の件は、タグの文字列の後ろに文字を足しても打消し表示とならないことがあるというのは、今回の件の事実関係からすれば納得だけど、後ろにつける文字列次第では打消し表示にならないこともあるのではないかとは思った。そのあたりは今後の裁判例の集積を待つべきなのだろう。
租税。タックス・ヘイブン対策税制の請求権勘案保有株式等の基準時の件は、問題のスキームからしてよくわかってないので、判旨も解説も読むのが辛かった。 - 特集。
まずは座談会。錚々たる面子によるもので*1、個々の指摘には納得のできるところもあるのだけど、全体として違和感が残った。大家の先生方が大所高所からご託宣を述べられているのだけど、この方々の手は「きれい」なのかという疑問(というか違和感)が残った。つまり、この方々は、現状存在する問題点が形成されるに際して、結果的に「加担」していなかったのかという疑問(というか違和感)であり、述べられているご託宣についても、述べられているすべてを実現しようとしたら、スーパーマン以外には対応できないものになる気がする。コンプライアンスの推進という意味では、「できない子」でもできるようにしなければいけないように思うのだが、現状は結果的にそれとは逆方向に行くことにならないか、そして、この方々は、そのような現状の形成に「加担」していないかという違和感があったというところか。
山内先生の原稿は、近時のコンプライアンス関連法制の改正及びその実務運用への影響と題して、公益通報者保護法改正、日本版司法取引の導入、課徴金制度改正について現状を解説したもの。この紙幅でこの3つはちょっと厳しかった気がした。それぞれもう少し突っ込んだ話が読みたかった。特に最後のもののうち、秘匿特権の話は個人的には実際の運用状況が気になっているので。
山口先生の原稿は、ガバナンスと内部統制の視点から現状を解説したもの、というところだろうか。そういう視点からすれば、そうなるだろうなという気はする。不祥事発生時に社内規程を設けてそれに沿った行動をすれば不利益に扱わないという社員の安心感が重要というのは理解可能な指摘だけど、不祥事発生時・発覚時には、その安心感は、社内で崩壊していることの方が多いのではないかという疑問が残った。
AIを活用する(以下略)については、AIをコンプライアンス分野とかで使うというお話。AIがブレのなさと勤勉さで人間より優れているのは、そりゃそうなんだろうけど、そういう使い方ができるということと、目の前の事件で使われるAIが適切に機能しているかということとは等価とは限らないような気がした。AIの適用事例としてのサイバーセキュリティの話は最近の状況の紹介だけど、無間地獄という感じで、コンピューターとかインターネットを使う限りは、キリがなく、ひたすらに不毛という印象。こういうものを使わないという手しかないのではないかという印象を禁じ得ない。
池田先生の原稿は労働法コンプライアンスの現状と課題で、個人的には労働法をコンプライアンスの対象とする認識の定着の遅れが生じた原因についての文責が興味深かった。
個人的には、今回の特集は、地に足がついていない感もあり、手間がかかっていると思われる割に正直読みごたえを感じなかった。 - 海外法律情報。
中国の過程による教育をめぐる規定などについての記事では、反過程暴力法で、未成年者の保護者に対し、家庭暴力を禁じている点が興味深い。違反についてはどうなるのだろうか。全般的に過干渉にも見えるが、そうしないといけない事情があるのだろうか。
イタリアのワクチン接種の義務付け立法は、医療従事者と50歳以上という義務付けの範囲や未接種に対し、罰則に加えて、職場への立ち入り禁止が課せられるというあたりが興味深かった。 - 新連載の新技術と法の未来。また意識高そうな連載が始まる。初回は仮想空間ビジネスの話。個人的には興味ゼロだが目を通す。新し目の話への論点だしという感じか。技術そのものが発展途上なので論点自体も不確定というところがあるのが、面白いと思う人もいるんだろう。萌芽的な話は以前からあったこともあって、これまでの道具立てで、一定程度検討はされているんだな、ということを感じた。勿論今後さらなる分析が必要としても。
- 連載実戦知財法務は映画の著作物。映画の著作物に関するややこしい部分が色々詰まった事案の検討で眩暈がした。とはいえ、実務ではこういう感じで検討が進むのだろうと想像することが出来て興味深かった。
- 時の判例。
刑事施設被収容者の収容中の受診に関する個人情報に関する最判R3.6.15(民集75.7.3064)は、最高裁が自判をせず差し戻しにした理由が個人的には興味深かった。確かに紛争の一回的解決の観点からは差戻が妥当と感じた。
詐欺罪と補助金等不正受交付罪との関係に関する最決R3.6.23(刑集75.7.641)は、両罪の適用関係についての議論があること自体知らなかったけど、解説を見る限り、補助金等適正化法の立法過程での検討が十分でなかったようなので、判旨には納得するところ。 - 判例研究。
経済法の神奈川県LPガス協会事件についてのものは8条3号について、同条の他の号との比較での分析や、本件の事実関係に照らした本件判決の位置づけなど評釈を読んで、8条については個人的にはあまり意識したことがなかったこともあり、なるほどと思うことが多かった。
商事の用水路と自動車転落事故と車両保険における故意免責の成否については、30件余の裁判例の文責が、興味深い。この種の事案に関与した経験がないので、そうなのか、と思いつつ読む。
人身傷害保険における死亡保険金請求権の帰属については、推定される被保険者の意思に基づく評者の判旨批判には納得するところ。
否決の総会決議等に係る一般私法上の無効確認の訴えの適法性の件は、事実自体もなんだそれという感じがするけど、判旨もあまりわかりやすくないし、評釈もイマイチわかりやすくない感じがした。単にこちらの勉強不足なのだろうけど。
労働判例の雇用当初から付されていた5年を超えないとの更新上限条項の効力の件は、判旨については、そりゃそうだろうと感じた。
有期雇用労働者の登用制度・無期転換と不合理な労働条件格差の件は、賃金項目ごとの裁判例を踏まえた分析などはそれぞれ興味深くはあるのだが、それほど労働法への関心が強いわけではないので、どうも頭に残らない(駄目)。
訴外キャストの報酬について(以下略)の件は、「訴外キャスト」とみて、ディ〇二―かと思ってしまったがホステスのことらしい。何だか個性的な評釈だけど、タックスアンサーとかを評釈で引き合いに出すのはアリなのかというところが気になった。
扶養料等の支払いを命じる米国判決の承認執行における間接管轄の件は、国際私法の事件の判断はこういう議論の進め方をするのか、という点で興味深かった。 - 最後に新・改正会社法セミナー。「業務執行」の意義のところは、なかなか截然と整理できない現状の分析が興味深い。こちらも悩むところがないわけではないので、他人事のように見ているわけにも行かないのだが。委託事項の特定についても、同様に感じた。現実が理論に先行して変化していて、それをどう理論的に整理するかは今後の課題という印象を受けた。