外と中の役割分担について

何のことやら。例によって脊髄反射的なメモなので、雑駁なものでしかないが、どなたかの参考になればと思う。

 

大要、訴訟対応について外部の事務所に対応をお願いした場合、企業内法務のすることはあまりないのではないか、という呟きをインハウスになられて日の浅い方がされているのに接した*1

 

僕の経験からすれば、そうとも限らない、というのが結論だけど、上記のように考えても、無理からぬところもあるので、その点について若干の説明を試みようと思う。あくまでもこちらの乏しい経験の範囲に基づくものなので、異論などがあり得ることはいうまでもない。誤解などがあれば適宜の手段でご教示いただけるとありがたい。

 

訴訟(ADRなどを含む。以下同じ。)が始まる前

ここでは、そもそも訴訟にならないようにと回避に向けた努力をすることが、企業内法務の一つの働きどころ、になるだろう。ある意味で当然のことだろう。そのために何ができるかは、状況次第だし、本題ではないので略。

それに加えて、この時点から、仮に訴訟になったら、ということも想定して、いくつかの準備をする場合もある。

一つ目は、情報の収集及び保全並びにその整理。この辺りは、紛争の進展とともに新たな情報が提示されることもあるので、紛争が終わるまで続くだろう。紛争予防に注力している時点でも手元にある情報が十分なものとは限らないので、情報を収集することはなお重要でありうるし、そもそも手元にある情報を廃棄しないように保全することも重要である。都合の悪い情報を捨てようとする人間はいるので、注意が必要。時として、PCやサーバーのフォレンジックコピーや紙の資料のスキャンニングなども必要になることもあり、ロジも含めたアレンジも必要になる。
訴訟はある意味で情報戦という側面もあり、自社側が出した情報が手元になく、相手方から出てくるようでは、どう戦うべきかの判断もおぼつかないことが有り得る。その意味で、まずはこれ以上情報を減らさないようにしておくことが重要になり得る*2。また、ここでいう情報の中には、有体物や情報だけではなく、人の記憶も含まれる。事情を知る方(誰が事情を知っているのか、それ自体の究明が必要なこともある。)が退職などされる場合には、早めに話を聞いて置く、等の対応が必要となる場合がある*3

もう一つは、訴訟をにらんで、対応をお願いする弁護士さんを探し始めることも想定される。訴訟前の対応についてアドバイスをもらっている弁護士さんがいればそこに頼むことが多いだろう。場合によっては、利益相反(コンフリクト)の関係で、お願いしようと思っていた先に引き受けてもらえないこともあり得る。そういう事態が判明すると大慌てで、「次の手」を探すことになる。依頼する際には、弁護士費用についてもある程度きちんと「握って」おかないといけないだろう。その種の行動をするにあたっては、予算の手配が必要になることや、事が起きたときに備えて広報部門・IR部門や経営層との調整が必要になることもあるだろう。

 

訴訟になってから

初動段階では、マスコミ対応や、場合によってはその他の利害関係人への対応(総会で質問が出た場合の想定問答なども含む。これは最後まで続くが)が必要になることがある。訴訟が予期できなかった場合は、訴状到達時点で前記の情報の収集・保全が開始されることもあろう。

訴訟対応について外部の弁護士に対応を依頼する場合、初動段階では、のちに変更の可能性があるとしても、経緯の説明を含む情報の共有のみならず、会社の意向とのすり合わせや、予算感のすり合わせが必要になることもある。この辺りで抜け漏れがあると後日のトラブルの種になる。

進行中は、進展に応じて、不足する情報の補充や、進展状況の社内の関係部署との共有(経営層を含むがこれに限られない)、予算管理(タイムチャージの場合には重要)、などは必要だろうし、場合によっては、依頼元が頼りない場合のテコ入れまで検討しないといけないこともあるかもしれない*4

また、証人尋問などで会社側の人間に手続きに出てもらう場合には、人選や*5、そのための環境調整(その人の本来の業務ではない以上、その上職者への説明を要することもあるだろう)や、本人への説明、リハーサルや当日の同行などが必要になることもある。普通の人は裁判所などというところに来るだけで緊張するので、このあたりのサポートは通常は必要となる。

 

訴訟が終わるとき

判決の類が出る場合は、その内容の見立てに応じて、準備が必要となる。決定内容の受領の仕方について担当弁護士とのすり合わせが必要になる場合や、仮執行の可能性への対応(銀行口座に仮差押えがされた場合に解除するための費用の準備とか)が必要になることもあろう。広報・IR対応なども含めて上層部との情報共有が必要になることもあろう。

また、和解の場合には、上記に加えて、機関決定(取締役会決議)が必要になることもあるだろうから、その場合は会議体の日程も踏まえた対応が必要となる。

終わってからは、決定などについては、内容を精査して、上訴などの手段を取ることを検討して、所定の期間内に必要な対応をすることになる。その際に担当弁護士事務所を変えるなどの対応をすることも考えられる。その場合は、情報の受け渡しに遺漏がないかなどをチェックすることが必要になる。

上訴などをしない場合には、決定または合意された内容の履行を行うことが必要となる。その際には別途広報・IR対応が必要となることもあろう。

それらとは別に、終了について社内外でご協力をいただいたところへの報告や、訴訟のために社内外から借り出したものの返却とかも必要になることもある。もちろん、弁護士費用の清算が必要なのは言うまでもない。

 

…ぱっと思いつくところをざっと書き出してみたが、状況次第とはいえ、やるべきことはそれなりにあると思う次第。

*1:その点について文句を言うつもりはないので、余計なトラブルを避けるためにリンクなどはしないでおく

*2:なお、アメリカの訴訟との関係ではlitigation holdがいつからかかるべきかというのは、時としてそれ自体が論点となり得るので、企業内で、その種のアナウンスを出すことについては、対応を依頼している弁護士とも協議のうえ、対応することが必要と考える。さらに、litigation holdについて慣れていない関係部門への説明も必要になることもあろう。

*3:こちらの経験では、訴訟の途中で、一番のキーマンから、オフィスのあった雑居ビルのエレベータの中で「あのさ、早期退職するんだよね。訴訟の件どうしようか」という趣旨のことを言われて、いくつかの意味で慌てたことがある。その際は至急訴訟対応をお願いしていた弁護士さんとのインタビューを設定したのは言うまでもない。

*4:僕自身は直接には経験はないが...

*5:尋問向き出ない人というのもいるので、選択肢のある場合にはそういう人でない人を探すことになる。