聞き難い理由(わけ)

何のことやら。お久しぶりの#萌渋スペース 向けのエントリです。

#ネタ切れ気味なのでリクエストカード?を募集中です(謎)。

今回のお題は、擬古文先輩からの「顧問弁護士に聞き難い問題」*1。また難しいことを言うなあ、と頭を抱える日々の末に以下のようなまとめ方をしてみることにしようかと。以下は、依頼者である企業内法務の担当者または管理職*2から見た内容で、こちらの個人としての体感・考えに基づくものなので、異論などが有りうる上*3、事務所の先生方からすれば不躾な物言いになるかもしれないことを予め付言して、お詫びを申し上げておくことにする(汗)。また訊く等する相手は顧問弁護士、つまり一定の顧問契約が予めある相手であり、単発で質問などする相手は一応想定していないことも付言しておく。さらに、こちらの過去のエントリでネタにした話題が繰り返される可能性があることも付言しておく*4

 

とりあえず、聞き難いと感じるであろう理由をぼんやり考えても埒が開かないので、とりあえずいくつかに分別して考えてみることにした。分別していても複数の範疇に含まれるという場合も存在することは言うまでもない。想定に基づくものも含まれていることも付言する。また、以下の内容については、依頼者側のやり方に起因してそういう現象が生じることもあると思うので、一概に先生方だけの問題とは限らないということも留意すべきだろう(一応自戒をこめて、だが)。

  • そもそも何を訊いても役に立たない。役に立たないなら、契約を解消すれば良いのではないかという話があるが、大人の事情(謎)で切れないこともあるのが難しい*5。役に立たないというのもいくつかの分類が可能かもしれない。以下順不同で書いてみる。
    • いずれにしても役に立たない。
      • そもそも相談にも乗ってくれない。理由はさておき、アポがとれないのでは話にならない。
      • 手を動かさない。「大先生」の下にアソ先生がいて、その先生がリサーチなども含めて手を動かして、その内容を精査して返事にしてくれればよいのだが、そもそもアソ先生がいない(諸々の理由で居つかない場合も含む)などの理由により、結果的に手が動いたことにならないと、役に立たない、という話にならざるを得ないだろう。
      • 知識の更新がなされていない。ある時に、あるシニアなセンセイから送られてきた資料が10年前の裁判例で、今更これをみても、というような内容だった、という事例に接したことがあり、僭越ながら、同業者として、こういう風にはなりたくないなと痛感した。年齢を重ねると新しい情報に接するのが億劫になるのは、こちらも50代の時点で既に感じているところだが、ここは踏ん張らないとああいう風になってしまう、と思って、今のところは、微力ながら頑張っている次第。
      • 理解が不十分でピンボケになる。加齢ゆえの現象なのかもともとの問題なのか(前者であってほしいが…。)、事実関係等の理解が不十分で言っていることがピンボケになっていると、やはりどうにもならない気がする。法律面以外の知識の更新がなされていない事例と複合的に発生しているような気がするがどうだろうか。
    • 訊きたい特定の問題については役に立たない。要するに専門性が違うという話になろうか。本人にとっては自身の専門性のうちと思っていたとしても、依頼者側から見たときにはそう見えないということもあり得るだろう。どうしても相対的に強い分野とそうでない分野が出てくるのは個人単位ではやむを得ないのだろう。

  • (おそらく、役に立たないわけではないが)心理的ハードルが高い。これもあり得るだろう。
    • 本題に入るのに手間がかかる。本題に入る前の入り口が長くて、依頼者側が疲弊するということになろうか。ご本人にその時話したいことを話していただかないと、こちらの話を聴いてもらえない、または、仮に聴いてもらえるとしてもずっと不機嫌というような事例は想定可能なのではないか。タイムチャージでこれをやられると殺意を覚えてしまいそうだが...。
    • 余計な事を言う。本題とは関係ない内容とは言い切れないものの、それを言っても目の前の本題の解決には直接資さないというようなことも言う事例もあるだろう。
      • 駄目だしをする。過去の勤務先で生産現場のエンジニアから弁護士になられた方で、現場周りのトラブルの後始末に相談に行くと、元現場の人なので、内容の理解は的確な反面、なまじ自分が優秀なエンジニアだっただけに、現役の現場の人に厳しいコメントをするという事例を聴いたことがある。内容がどんなに的確であっても、相談についてきてもらったエンジニアがダメだしに疲弊してしまってはまずいだろう。
      • 上記以外のハラスメント系の発言をするような場合も問題があるだろう。個人的にはそういう事例には接したことはないが…。
    • 余計なことをする。相談に行ったときの意思疎通以外のところで無用な行為をすることも想定される。
      • 社内に漏らす。とりあえず思いつくのがこれである。会社としてのお付き合いの長い先生だと時として生じかねない。社外に漏らすわけではないとしても*6、社内でもセンシティブな情報を想定外の社内の人間に漏らされるとやはりリスクになる。相手が取締役とか監査役のように、いずれその問題を知るべき立場にある人だと*7、文句も言いづらいので、法務担当者としては、そもそも案件に関わらせないようにする以外の実効性有る防衛策が考えづらいことになる*8
      • むやみに戦闘的。訴訟など戦うことが必要な時に代理人としてきちんと戦っていただくのは極めて重要だが、戦わなくてもいい戦いをするのもちょっと困るかもしれない。たとえ諸般の状況に鑑みて勝てるとわかっていても。
    • 成果がいまいち。ここのカテゴリがある意味で本丸なのかもしれないが、これまでのところ、日本国内の事務所については*9、この範疇に入る体験をしたことはあまりない。そうならないように注意しているからではあるが。
      • 遅い。時間も品質のうちということで。いついつまでにインプットが欲しいという期限が守られないと、依頼者側が鯖を読むなりなんなりしないといけなくなるので困る。間に合いそうにないなら早めに行ってくれればまだ手が打てるかもしれないが...。
        • 遅いという意味では、ややニュアンスが異なるが、最初に依頼のメール等を送ったのに対しての反応が遅いのも正直困る。急ぐ時やコンフリクト上疑義がある可能性のある案件について、そもそも対応してもらえるか分からないと、その次の手を考えないといけないのか自体が分からず、不安になるので*10
      • 質に疑問
        • むやみに保守的。コンサバなだけならだれでも言えるわけで。
        • 自己保身に走りすぎる。以前のスペースでも言及したと思うが、長い言い訳を含む内容のインプットをもらってもね、というところ。
        • 変にリスクを取りに行こうとする。これはこれで困ってしまうのは言うまでもない。
        • 単純に出来が悪い。文章が読みにくい、資料が主たるオーディエンスとの関係で適切ではない*11とかも含めての話だが。
        • 請求書の出来が悪い。計算が間違っているとかは遭遇したことが有る。企業内だと、経理というそのあたりにうるさい(と思われる。)部署があるので、こちらでチェックせずに回すと、法務は何をやっているのかと見られて*12、支払手続に時間を要することにもなり、ストレスが貯まる。請求書の質も含めての質と思っていただくのが良いのではないかと考える。
    • 報酬の割高感が強い。絶対額が高いというだけではなく、成果の割にという場合も含まれるだろう。タイムチャージの時に、余計な作業までチャージされているのではないかという疑念を覚えるような場合もここに含まれるのかもしれない。

 

さて、こうした場合に関係性を「切る」ことはできないという前提で、企業内法務の担当者はとしては、どう対応するべきか。できそうなことをいくつか思いつくままで恐縮だが、順不同で上げてみる。

  • フィードバックをする。問題がある対応と受け取られていることを相手が認識しているとは限らない。そうであれば、問題が有るということを伝えるのが、最初に思いつく対応策だろうし、取るべき対応策でもあろう。相手の先生が大御所過ぎてこうした対応ができない、または、うまく行かない可能性もあるし、フィードバックの仕方については、やり方を考えないと行けないとしても。
  • 情報共有のあり方を見直す。相手の先生が多忙だったり、タイムチャージが膨らむのを懸念して、最小限の情報共有しかしていない場合には、もっと情報共有をすることで、上記の問題のうちのある程度は回避または軽減が可能かもしれない。そういう意味で、情報共有のあり方を見直すというのも、一つの対応策足りうるのではなかろうか。定期的な打ち合わせの場を設けるというのもありうるのかもしれない。
  • 競争環境におく。費用はかかるので、常にできる方法でないが、顧問事務所を増やして、その旨を明らかにすることで、ある種のプレッシャーを与える*13*14、というアプローチも一応想定可能ではあろう。
  • 使い分ける。前記のやり方の裏返しのような側面もあり、常に取れる手段ではないが、複数の顧問事務所があるときには、その事務所の得意・不得意、自社や案件との相性、芸風?の差異を踏まえて、依頼する際にどこに依頼するかを決める、という発想もあり得るだろう。

・・・というところで、今回のお題へのこちらからの回答?とさせていただきたい。これに対するお二方の反応を楽しみにしたいと思う。

 

追記1)ブルペンでの遣取の中で出てきた話題について追記。

  • 顧問弁護士のメリット:コンフリクトの心配から解放され、相談先を悩む手間が省けることと、付き合いが長くなると自社と事業への理解が相対的に増えるところではないかと思う。
  • 依頼者側の担当者、依頼を受ける側の立場による差異は生じるか:依頼する側の担当者が、有資格者か否かで依頼を受ける側の対応は変わるのではないか。有資格者であるということは、外形的に、「プロ」認定がされているので、最低限の「質」の担保がなされているものと受け取られやすいように思われます(反面、資格がないことは外形上「質」を担保するものがない、という以上のものではないということは留意が必要かと。実際の能力の有無は資格の有無とは連動しないというのがこちらの体感するところ)。それとは別に依頼者側が管理職かそうでないかは、発注権限などとの関係で差異を生じさせるのではないかと考えます。
  • 外部弁護士に相談するための手続などを社内で設けることの可否:弁護士費用とかを無駄にしない、安易に弁護士に相談しない(自分で調べる・考える癖をつける)という意味では、いくつかのハードルを設けることに一定の意味はあるのでしょうが、急ぐときとかには足かせになる可能性があると考えます。個人的には変に相談せずに間違う危険を犯すくらいなら、相談したほうがいいと思うところです。
  • 顧問料の課金の仕方が、使い放題のサブスク型か従量課金かで依頼の仕方に差異が生じるか:サブスク型のほうが相談への心理的ハードルが相対的に低くなるとは思うが、有意な差が生じるかは疑問。

追記2)経文緯武先輩のエントリはこちら。

tokyo.way-nifty.com

*1:現代語に表記を修正した

*2:機能としてのそれであって部署の名称は問わない。以下同じ

*3:こちらの匿名性維持の観点から一部の例では事実関係を論旨に影響しないと考える範囲で変えているところがあることを付言しておく。

*4:無駄にエントリの数だけは多いので、いちいち覚えているはずもないし、確認しているのが面倒というだけのことなのだが。

*5:顧問契約の解消、特に、長年の付き合いのある事務所とのそれの解消、というのは、企業内法務における難問の一つといえるかもしれない。これまでの歴史や社内の人間関係など、法律論以外の要素が強くなることがその難問ぶりを加速する気がしている。又、この種の問題にいきあたる頻度が高くなく、方法についての情報があまりないことも難しさを加速しているのだろう。

*6:社外にむやみに漏らすのは論外と思うが、流石にそういう話には僕自身は接したことはない。

*7:仮にそうであっても情報を共有すべきタイミングについて、一定のコントロールをしたいときはあるので、そういうときには困ったことになることは言うまでもない。そういう意味で、外の先生が担当者の頭越しに、その上に対して何かをするのも、非常時(担当者側の対応がアレなときも含むが…)を除けば、避けておいた方が無難なのだろう。

*8:本論点については、ブルペンースペース参加の3名間のDMでのやり取り-でこのエントリの第1稿を共有したところ、外の弁護士からすれば、会社の役員などとやり取りする中で直接訊かれると対応に苦慮することがあるというご指摘をいただいた。確かにそうだろうと思う。企業内法務の担当者目線で言えば、そういう場合は、関係をおかしくしない範囲で最小限の情報開示にとどめていただいたうえで、開示後速やかに、話した内容を法務担当者に情報共有いただくのが良いのだろうと思う。法務担当者からすれば誰が何を知っているのか・いないのかが不明確なのは、対応がややこしくなるし、役員と弁護士さんとの関係がおかしくなるのも避けたいところのはず。そうなるとそういう対応しかないのではないかと感じる。

*9:海外については、言葉の壁もあって、なかなかうまく行かないこともある。

*10:この点については、某大阪の大手事務所は何はともあれ受信した旨のレスだけでも返すよう教育しているという話を聴いたことがあり、なるほどと思ったのを思い出す。

*11:相手が経営層の場合に文字ばかりのワードファイルよりはポイントを絞ったパワーポイントのほうが適切だろう、とかそういうレベルの話を想定している。

*12:気分を害する先生方もおられるかもしれないが、企業から見れば、サプライヤー管理の一つという見方をされるのも否定はできないかと。

*13:こういう物言いでご気分を害する先生方もおられるかもしれないが、企業側から見た話ということで、ご海容を賜れば幸甚です。

*14:プレッシャーをかけるという意味では、タイムチャージの時に、請求書の内訳を細かく見て、疑義のある時は都度質すというのもあり得る手なのかもしれない。