inside out, outside in

12月恒例、カレンダー企画の「裏」であります(#裏LegalAC)。本年分の最初のエントリとして何を書こうかと思ったのですが*1、こちら*2のここまでの変遷(流浪というべきかもしれません)を踏まえて、既に呟いたこと等も基にしつつ、いくつかのことをメモさせていただこうかと思った次第*3

 

企業の中から外の事務所、外の事務所から再び企業の中に、という動き方をしたので、企業の中に入った時は、特に2社目以降はB2Bファブレスではないメーカーが続いているので、規模感とかの違いはあれど*4、「戻ってきた」という感じが強い。そういうことや、今回は部署の責任者なので、一定の枠内とはいえ裁量が大きいこともあって、これまでのところは、前職のアソよりも、悩ましいことはあれど、働いていて楽しいという印象がある。

 

それはさておき、「外」と「中」の比較は、以前もしたのだけど、今回再度「中」に入って、しかも、日本の資格持ちのインハウスとして入ったところで、再認識した部分も含めて、感じたことがある*5

 

あるとなしの話

有資格者(インハウス)との比較で、無資格法務(この言い方もどうかと思うが便宜上この言い方をさせてもらう。)の存在意義みたいなことが語られることがあるけれど、そういうことを語るのであれば、有資格者の利点と共に有資格者であることの弊害も語られないと適切ではないと思う。そういうものが語られないというのは、おそらく適切ではないと思う*6。資格に囚われて動きが悪い部分とかないのかというと、ない言い切れないのではないか。中途採用の場合は、外の弁護士と同じことしか言わず評論家になりがちという指摘には接したことが有る。また、資格があると、無資格者よりも流動性が高いので、ちょっと会社に逆風が吹くと、有資格者はすぐ「逃げる」(転職する)という指摘にも接したことがある*7。それとは別に、社内の依頼する側からいると「弁護士先生」として敷居が高いとみられる危険もある。


さらに、企業の法務部門に持ち込まれる相談に対しては、解決するのに法律以外の知識・手段を用いても構わないはずし、そういうアプローチの方が効率的であれば、そちらによるべきという考え方も可能なのだけど、それにも拘わらず、変に法律に拘って、法律以外の知識を考えもしない、当該アプローチを可能ならしめるための関連部署への相談も示唆すらしないとかしたら、それは適切ではなく、そういう硬直的な態度は有資格者の方が示しやすいのではないかという指摘も想定可能であろう。「外」から来て「中」のことをよく知らないとそういう弊害は生じやすいのではないか*8。弁護士資格があることはプラスではあっても、必須ではないことも多い。弁護士資格がないとできないことは、現在のところ、企業内法務においては、それほど多くないと思われることにも留意が必要という気がしている。

 

個人的には、自分の「理想の法務部」を作るとしたら、有資格者だけの部署は作ることはないと考えている。むしろ、資格の有無には関係なく、社内の他の部署の経験者も交えるべきと考える。他部署からどう見えるか、法務の施策(特にコンプラ系のもの)に「穴」がないか、という視点からの検討については、そういう視点を持つ上では必要なことと考えるし*9、企業の「ノリ」というかDNAみたいなものは生え抜き社員でないとわかりにくいことも多いと考えるから*10。また、資格者については、そういう方々との比較にさらすことで一定の緊張感を与えるという意味もあると考える*11

 

You are not alone

何だか良くわからないが、MJの曲が脳裏をよぎった。

 

上記で書いたこともつながる部分があるが、企業内法務自体、企業の大きさがそれなりになれば「一人法務」ではなくなる。一定のチームで対応することになり、自分一人で抱え込む必要はなくなる。一人の視点で考えることには、どうしても限界があり、その点を打破するために、「壁打ち」相手が欲しいことはあるが、小さい事務所とかではそう簡単ではない。安易に相談するのは適切ではないのかもしれないが、安易でない「壁打ち」ができないのもそれはそれで問題と感じる。企業内であれば、「壁打ち」相手の都合のつく範囲内ではあるが、それは比較的容易な印象がある。

 

また、先にも書いたように、そもそも、目の前にある問題については、法律面から解決を考えるのが適切という保証はどこにもない。他のアプローチからの解決が容易なこともある。相談者にしてみれば、欲しいのは「解決」であって、いかなるアプローチからその策が出てきたかが問題になることはほぼないものと考える。

 

そうであれば、法律面以外のアプローチを担当する部署と、必要に応じて連携することは重要である*12。この辺りは、「外」から企業に助言をする際に、どこまで口を出せるのかは悩ましい部分があるが、「中」であれば、そういう悩み方はしないだろう。

 

そういう両面で、「中」の方が、孤立している、という感じが少ないのではないかと感じている。

 

Money talks

見出しに特に意味はないが、下世話かもしれない話もしてみようかと。

 

給料というかもらえる金額、という意味では、現時点では、ここ10年とかで見ると

外資系メーカー(NYの資格)>日本企業(JP+NY)>事務所アソ(JP+NY)

となっている。それはそれで文句はない。


企業では、無資格時代の経験値とか踏まえているのに対して、アソとしてはそこはカウントされなかった。その点に何ら不満はない。とりあえず現時点では、ストレスという意味ではアソの時よりも外資の時よりも減っているから、満足度は高くなった。外資の法務は、結局は体のいい「子守り」でしかないというのがこちらの実感。親会社が言ってくることが、日本での顧客の動向などと整合せず、その点について聴く耳を持ってくれないこともあり、ストレスがたまったのだった。この点は、日本市場の相対的な地位が下がることで、顕著になることはあっても(もっと極端になれば日本からの撤退も出てくる)、減ることはないと考えたので、今回は外資に行くという決断はしなかったのだが。

 

雑駁なメモで恐縮だけど、こちらのエントリはここまでとさせていただきたく。#裏legalAC、次は、たっしー@司法書士受験生(一回休み)さんです。宜しくお願い致します。

*1:よく考えると昨年はトリだったので、自分から自分にバトンが渡った感がある。

*2:こちらのこれまでの経歴は、書ける範囲で書くとこんな感じ。1社目。新卒で入ってまず関西で勤務、5年目から本社法務部門→4.5年国内法務をしたあと海外法務に留学含みで異動→2年東京で海外法務と並行して留学準備(この過程でblogを始めた)→サマースクール込みで1年間ボストン。LLM@Boston U.修了→シンガポールで海外法務を1年して転職→2社目。東京で日系メーカーで法務2.5年、この間にNYBarに合格してNY州弁護士登録→3社目。東京の日系メーカーで法務2年→4社目。東京で米系メーカーで法務5年9か月。働きながら司法試験に合格までこぎつける→退職して司法修習→2019年から東京エリアの弁護士事務所(主に企業法務系の事務所)でイソ弁を2年→2021年4月から日系メーカーの法務部門の責任者(インハウス)

*3:ちなみにタイトルはBeatlesこちらの曲の一節から。森高さんがこの曲をカバーしているのが凄い。

*4:これまでの職歴の中では現職が一番規模が小さい。とはいえ上場企業ではあるのだが

*5:なお、あらかじめ述べておくと、インハウスといっても能力資質は、弁護士となる資格を有するという以外はまちまちである。また、能力資質が有効に発揮されるかどうかは、状況次第というところがあって、しかも、企業における「法務」業務は企業ごとに千差万別ということから、一般論を展開することは、容易ではないし、適切でないことも多いように思う。以下も、こちらの経験した範囲での物言いにしかなっておらず、異論があり得ることはご留意いただければと思う...注釈が長いな。

*6:コスト面では弁護士会費などは通常会社が負担していると思われるが、その分は費用だけ見ればマイナスという見方も可能だろう。

*7:なお、この2つの指摘は転職面談の際に接したものだが、当該指摘をされた方自身がインハウスであるうえ、当該企業は現時点でも存続していることは付言しておく。また、有資格者については、懲戒リスクの影響があることは、認識しておくべきだろう。

*8:もちろん、こういう可能性は無資格者でも想定可能であるし、そういう可能性に対しては「中」に入ったところで、他部署の業務についての説明などを通じて防げるということも同様に想定可能だろう。ただし、知識があることと、その知識をどう使おうと考えるかということは別なので、そういう教育をしてもなお、ここで想定している危険は残るのではないかと考える。

*9:ことメーカー法務に限れば、法令による規制が複雑でないところであれば、ビジネスモデル自体がそれほど複雑でないことも多く、ビジネスの十分な理解を前提に考えると、契約審査とかは、下手なインハウスよりは、適切なコメントができるようになることもあると考える。

*10:インハウスで生え抜きというのも想定可能だが、個人的にはそういうのが良いのかというと疑義が残るように感じる。個人的にはインハウスの資格者については、最初は事務所での経験を積む方が良いと思う。この点については、かつて企業法務戦士さんとやり取りをさせていただいたことがあった。【12/1追記:この点については、今なお最初は事務所(特に訴訟をきちんとやる事務所)が良いのではないかと感じている。ただし理由としては、以前感じていた訴訟についての書面を書く経験を積むということ、に加えて、自営業者としての精神性を養うことにも意味があるのではないかと感じている。】

*11:資格に胡坐をかいている「資格だけの人」と見られないかという緊張感を持つことは、それなりに重要と考える。

*12:これとは異なり、特定のアプローチをとる上で、連携を取ることが必須の場合もあり、そういう場合は、連携しないことは、時として被害をもたらすことになることは言うまでもない。