サプライチェーン契約の基本と書式 / 長谷川 俊明 (著, 編集) 前田 智弥(著)

一通り目を通したので感想をメモ。

 

個人的には一連の英文契約書に関する書籍でお世話になった長谷川先生が編著者、アソシエイト(こちらと修習期は同期)の先生が著者として書かれた本。サプライチェーンに着目して、現下の状況を踏まえて、何をなすべきか、というあたりの提言を、関連する契約書類の雛型とともに示すもの、というのが内容と思われる。

 

サプライチェーンの強化が必要となる状況を多面的に拾い上げている点は、情報提供という意味では一定の価値があるということはできるのだろう。

 

しかしながら、書かれていることについて大きな間違いはないとしても、企業の外の視点で語られていて、「中の人」の視点からすると物足りなさを感じるのは否めない。覚えている範囲で気になった点を挙げると次の通り。

  • サプライチェーン全体を通じて一貫したポリシーを貫徹することの重要性は否定しないものの、最終製品のメーカーがそれを言ったとして、それよりも川上のメーカーはそれにどう対応するか、自社のポリシーと整合しない場合に問題となるが、その辺りについての言及がない。読み手としては最終製品のメーカーの法務を対象にしているようにも読めるが、それより川上にいる企業の法務(こちらもそうだ)はどう対応すべきか、必ずしも明らかではない。
  • 自社の販売側(川下に対峙)と調達側(川上に対峙)との間にも相応に溝があることもあるが、そういう場合にどうまとめるのか、その点も明らかではない。通常は分業で、相互にやり取りすることはそう多くないと思われるところでどう統合するのか、は重要(正味のところでできる気が僕はあまりしないが)なはずなのだが、その点についても言及がない。
  • 付されている契約書式*1についても、論点の所在を示すものとして使うことはできるとしても、個々の条項については、阿部井窪片山あたりを片手に個別に精査が必要な印象*2

着眼点自体は面白いのだが、もっと内容を練る必要があったのではないかと感じる。ビッグネーム編者の先生に対して版元がそういうことを言うのは難しいのかもしれないが...。

*1:今時だと書式全体はwebからdownload可能として、その分解説を充実させた方がよかったのではないか。

*2:ぱっと目についた範囲でメモしておくと、外資系の企業がサプライヤーになったときに備えて準拠法条項を入れておくべきと本文に記載があるのに、書式上で記載がないものがあるとか、そもそも秘密保持条項のところで、官庁からの開示要求があった場合の扱いが不明確なものがあるのはいただけないと思う。そこでは、秘密保持義務の例外なのか、秘密情報から外れると解するのか書きぶりからはよくわからない形になっている。公知の事実などと並列になっているので、後者ではないかと思うが、その扱いがダメなのはいうまでもない(官庁Aから開示要請が来たら、その瞬間に秘密情報ではなくなり、誰にでも開示可能となるのは、その情報の持ち主の意図に反し不当だろう。)。