わかりやすい 電子提供制度と株主総会の実務 / 三井住友信託銀行ガバナンスコンサルティング部 (編集)

一通り目を通したので感想をメモ。電子提供制度に関する実務に関与するなら必携の一冊というところではないか。

 

本書は、証券代行などもされている三井信託銀行のガバナンスコンサルティング部の方々が、細かく条文等も拾いつつ、かつ、実態については自社で集めたデータなどを示して、電子提供周りの最新の実務について解説しているもの。全体で160頁余なので、通読も容易*1

 

解説は、電子提供制度の概要、制度採用時の話、総会の事務日程、総会招集手続、招集通知と電子提供措置次項記載書面、電子提供措置の中断等、書面交付請求への対応、総会の運営、議決権行使のデジタル化等、総会終了後の対応、という順序で進み、要所で書式例や図解で説明してくれるので、具体的なイメージが湧きやすく、分かりやすいうえ、細かい用語とかの解説もコラムで拾ってくれているので、総会実務の入門書としても利用可能なのではないだろうか*2

 

電子提供制度については、塚本=中川本があったわけだが、あの本は、制度導入前の時点で書かれたもので、制度導入に重点を置いて解説をしたというところがあり、実際の運用が開始されてから見ると、運用してみて気になる点への目配りという点では、心もとなく見えてしまったのも事実*3。機関法務に強い方であれば、商事法務の連載などで適宜補充はされていたと思うが、そこまで機関法務に強くないうえ、そのほかの法務も含めて所管していて、情報のキャッチアップもままならない(現勤務先では商事法務も購読はしていない)立場だと、この手の本でまとめて情報の更新ができるのはありがたい。調べる時間がないとき等には、外の顧問弁護士や証券代行に訊いてしまいがちになるけれども、自分たちで調べられるようにはなっているべきで、そういう意味でも、本書は総会実務に関係する企業内法務の担当者であれば、必携の一冊だと思う。

 

*1:目先の総会対応との関係性がそれほど高くないように見える、第9章を無視するとさらに分量は減る。個人的には、この章の本書における必要性については、疑問が残った。

*2:という割に、細かそうな論点についても相応に言及があるようにも見えるのだが。

*3:例えば、総会参考書類に記載すべき事項のうち、書面交付請求をした株主に対して交付する電子提供措置次項記載書面に記載者とする事項について、取締役会決議を取る際の取締役会議事録にどう記載するのか、というあたりは記載がなかったように思う。