一通り目を通したので感想をメモ。広告周りの法務に関わるなら、手元にあって損のない入門書と感じた。
情報法の分野で著名な松尾先生が何故広告法務の本を?と疑問に思ったが、教鞭をとられた際の教え子が広告会社の法務担当者となり、その方からの質問に答えたことが一つの契機となった模様*1。当の担当者の方*2のコラムも挿入されている。
広告会社向けの本ではあるが、広告に関する法務事項について、個別業界ごとの制約についても広範に取り上げていて、条文やガイドラインの類も丹念に典拠を拾ってくれている。記載の根拠とした文献も丹念に示してくれている。広範に取り上げている割に、全体も300頁以内と通読できるレベルのコンパクトさでまとめられているので、個別の論点についてはその存在のみの指摘になっていることも多い。本書の記載が物足りない場合は、挙げられているガイドラインや個別の文献を紐解くことになるのだろう。
本書を見ればわかるように、広告に関する法務事項という意味は、まずは景表法や著作権法を思いつくが、これらに限られることなく、極めて多岐にわたる。多岐にわたる法務事項の見落としを防ぐ意味で、本書の記載を手掛かりとして、個別の内容をより詳しい文献などで確認する、本書はそういう使い方ができる造りになっている。そういう使い方が出来るので、広告会社に限らず、そういう会社に対する依頼者となる企業側の法務担当者としても、広告法務の入門書として読むのに適しているのではないかと感じた*3。著者による読者案内はそれほど丁寧に付されているわけではないが、企業の法務担当者によるコラムでの言及もあるので、それを参考にするのも一案だろう。
こちらの現勤務先はB2Bビジネスしかしていないし、僕自身はB2Bビジネス企業の法務しか経験していないので、これまでは景表法周りの面倒な話に接することがあまりなかった。とはいえ、現職では、広告周りの質問がそれなりに来るので、本書を紐解いてみたのだった*4。上記のような特徴を持つ本書は、この分野の「最初の一冊」としては適しており、手元にあって損のない一冊と思われる。願わくは、今後も適宜のタイミングで内容を更新していただき、長く読み継がれるようになってほしい。