法学教室2020年10月号

いつものように感想を呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 判例セレクト刑訴。1審無罪判決破棄で有罪自判の時に事実の取り調べはあるべきというのは結論は妥当に見えるけど、他方でそれは訴訟の負担を強いることになるので、常に適用すべき話なのかは疑問が残る気がする。刑法は、犯人隠避教唆の成立を認めた事例だけど、判旨での事実認定を見ると何だか話が微妙過ぎる気が。解説にある理屈はわからないではないが。単にこちらが刑事の事実認定に関する経験値が足らない(普段刑事事件はやっていないので)だけなのかもしれないけど…。民訴は、かの分野(迂闊にコメントするのが危険な予感)に経験がないので何とも言いづらい。商法は、総会招集通知後の開催日時・場所変更の可否だけど、コロナ禍の中での変更なので、支配権争いが仮に背後にあったとしても、相応の手続きを取れば、その種の意図以外からも正当化可能な話だろうから、納得できるところだろう。この判決のような事案でできないとなると総会自体が無理ゲーになりかねないからそういう意味でも結論は妥当という気がする。
  • 演習刑訴。令状と事実との齟齬についての解説が興味深い。有限の人的資源の中で捜査をしている以上、令状発付時点で把握している事実と、令状に基づき捜索などを行う時点における事実との間に齟齬が生じうるのはやむを得ない部分があると考えるべきなのだろう。刑法。CD周りの話は個人的には興味深かった。捜査機関側の作為が関わるので、一筋縄ではいかないところがあるのも当然なのだろう。民訴。証明責任のところの利益衡量説って知らなかった(汗)。指摘されている条文の作りの問題は納得はするけど、とはいえ、事案ごとに立証責任が変わりうるのは流石にちょっと…と思うわけだが。商法。監査等委員会の議事録の閲覧謄写についての解説が興味深い。監査者の被監査者からの独立性の確保の要請からすれば納得しやすいところではあるのだけど。民法。錯誤の要件解説が丁寧だけど、実際に事件で錯誤の議論をしないといけなくなったら大変そうな気がする(今のところそのあたりをきっちり議論する必要が生じたことがない)。行政法。非申請型義務付け訴訟の訴訟要件のハードルはやはり高いと感じる。憲法。25条ベースの議論だとそうなるんだろうなあと。
  • 巻頭言。歴史は当事者の数だけ見方があるということかと。
  •  特集。法学部・法科大学院の先生方の現下の状況下での授業の準備の大変さがわかるのも興味深いが、最後の方できちんと法学教室の話につながっていくまとめ方が秀逸だなと。
  • アントレは、先生の立場の人については、著者のようであってほしいと思ったりする。
  • 講座憲法違憲審査に最高裁を特化させるため、一般の上告審を特別高裁に扱わせるという議論など司法消極主義への対応案が興味深い。行政法は、差止訴訟・公法上の当事者訴訟・仮の救済についての解説。受験生時代に手が回りきらなかった分野だったので、新鮮な印象(汗)。民法。保証周りの規定の解説が丁寧でありがたい。465条の10の事業債務保証以外への類推適用の可能性の指摘は納得。事業債務保証なのかそうでないのか、不明確なものも出るのではないかと思うので、類推適用とかの必要性があるのではないかと思う次第。会社法。総株主通知と個別株主通知のそれぞれの意味の解説がわかりやすいと感じた(最初の頃、よくわからなかったのを覚えているので)。非株券非振替株式の扱いについては、判断が難しいけど、4つ説が出ているなかでは、個人的には、真の権利者保護を優先する観点から3つ目を支持したい気がする。民訴。一部請求後の残部請求の話。審理時に当事者がどうするこうする話しか出てこないけど、裁判所は釈明権を行使することについて言及がないのがやや疑問。裁判所だって疑問に思ったら当事者に訊くのではないかという気がするので。刑法。窃盗罪における不法領得の意思の解説だけど、論文試験で答案書くときに割に適当に書いてしまいがちなところだったので、なるほどと思いながら読んだのだった。刑訴第6講。推認過程の解説が個人的にはわかりやすかった。推認過程をどう設定するかで議論が変わるところは興味深いというか、試験問題の答案とかでは、考えどころと実感する。刑訴第5講補講。まだやるのかとあきれるが、内容的には、犯行再現実況見分調書の実務的な意味合いの解説が丁寧で興味深かったが、長期間にわたり解説を引っ張り過ぎなのは間違いない。
  • (追記)自治体現場で活かす法学は、自治体の中で、どういう形で法律が活かされるのか、知らないので今後に期待。