意味を考える。

何のことやら。雑駁なメモ。自分の頭の整理も兼ねている。過去にエントリにした内容と重なる部分があろうと思うが、そこはご容赦いただければと思う。

 

企業内における契約審査とか稟議にどういう意味があるのか。なぜそれが必要なのか。原理原則からどう敷衍できるのか、ということについて、考えてみたことをメモしてみる。ある種の「素人考え」でしかないのだが*1

 

人が行動をする上では、意思決定なしにはできないはずで、契約に類する行為であれば特にそうだろう。会社についても同様であろう。企業それ自体は、法律上は「人」であっても自然人ではなく、それ自体が意思を持つわけではないから、企業とは異なる自然人が何らかの意思決定をして行動をすることになる。株式会社においては、他の取締役または取締役会の監督下にはあるものの、代表取締役が会社を拘束する権限もあり、代表取締役が意思決定をすれば契約締結が可能なはずである。

しかるに、会社の規模が大きくなれば、代表取締役が全部の意思決定をすることはできないだろう。下にいるであろう人間に意思決定を委任することになろう。さらに規模が大きくなれば、下にいる人間についても、一定の階層構造ができて、特定層(例えば担当役員とか担当部長とか)において一定の意思決定をすることが認められることになり、委任がカスケードダウンしていき、重要度に応じて上の方まで意思決定過程に関与してもらう形が取られるだろう。「稟議」はその形の一つの表れなのだろう。

そうしたルールは、決裁権限規定などの名目で書面化されることになろう。書面化の要請は内部統制システムの構築・維持が要請されるところからくるものと考える。そうすることで意思決定過程の手続的適正さが保たれるものとなるのではないか。

 

意思決定の内容はどうか。経営判断原則の下で保護されるためには、俎上に載せるべきものを載せ、検討すべきを検討し、意思決定の内容自体に不合理なものがないことが必要になろう。それを確認し、前記のプロセスに従い意思決定することが結果として求められるのだろう。その過程では、意思決定の過程にあって、審査をするものは、信頼の原則の利益を享受することになろう。

具体的に何を確認すべきか。法務面では、大きく分けて2つのことがあると考える*2

1つ目は意思決定対象の取引をしてよいかということ。適法性ということになろうか。強行法規に抵触しないかということになろうが、それだけではなく、相手方と取引可能かという意味では、反社チェックなど相手方の素性の確認や、約束しても守るかどうか過去のトラブル履歴の確認も含まれるだろう。約束しても守らない相手と契約しても実効性は期待できないだろうから。

2つ目は、1つ目の点をクリアしたとして、取引自体のリスクの軽減の有無の検討であろう。契約書の案文で不利に作用する可能性のあるものについて、変更を試みることもここに含まれるのだろう。仮に変更ができない場合でも、当該条項で不測の結果を招来しないよう、関係者に周知徹底することも必要になるだろう*3

以上の確認がなされたことを、必要な意思決定過程の上にいる各人が確認することで契約にかかわる企業としての意思決定が適切になされることになるものと考える。

 

…こういう感じになると思うのだがどうだろうか。過不足などあれば適宜の手段でご教示いただければ幸いである。

 

【追記】上記のエントリを上げたところ、数名の方からコメントをいただいた。コメントいただいた方には厚く御礼申し上げる次第。コメントを受けていくつかこちらの考えを補足する。

  • 上記の意味での契約審査の担い手は、機能としての「法務」部門であろうが、その機能を本社機能で担うのか、それとも事業部門内で担うのか、というのは、企業内での機能の割り振りの問題で、どちらもあり得ると考える。実際両方経験したことがある。複数の事業を行っている会社の場合、後者の法務機能では事業部最適を追求することが求められるため、それが全社最適と整合しない場合に、問題が生じる可能性があるかもしれない。
  • また、上記の意味での審査においては、最終的に締結した契約書に従ってビジネスを行う事業部門側が、締結しようとする契約書について、その契約書を締結したことによりいかなる権利義務を負担し、それによりいかなるリスクを負担することについて理解をしているのが理想であり(理想でしかなく、現実的に貫徹できるかは別途問題となる。)、その理解を踏まえて、リスク軽減策としての契約交渉とその前提となる契約修正案の策定をすることになる。そのためには、事業部門側の契約理解を促すために、彼らにわかる言葉で内容を説明する「通訳」的な仕事を法務が行うことも、必要になることがある。そういうやり取りの中から修正案を法務と事業部門とで考えることになるのではないか。
  • 契約書の個別文言について生じるリスクについては、事業に起因するリスクとして最終的には事業部門の責任で甘受してよいといえるものと、それとは別に全社レベルでの検討が必要というもの(こちらについては本社機能側で最終的には判断をするころになろう)とがあるものと考える。とはいえ、両者の線引きは常に一定というよりも個別事案ごとで変わり得ると考える。同じ事案で線引きがぶれるのは良くないとしても。
  • 意思決定プロセスにおける日本と外資企業との差異については、こと契約締結の場面では、実務担当者が意思決定者に承認を求めるという形になる以上それほど大きな差異はないように、こちらの経験した範囲では、感じる。ただし、権限移譲が外資の方が進んでいることが多いと思われるので、締結までに承認を求めるべき人数は外資の方が少ないのではないかと感じる。

*1:これだけ企業内法務で禄を食んでおきながら「素人」というのはどうかとも思うが、「玄人」を名乗るだけの勇気はない。

*2:この2つが截然と区分できるかというと必ずしもそうとは限らない気がする。また、そのほかに税務面などの検討が必要になることは言うまでもない。

*3:この点について、「リスク告知」という表現を松尾先生は取られていたが、個人的には「因果を含める」という言い方の方が良いと感じる。当該条項が発動した場合の結果について、甘受させる意味合いも含める必要があると感じるので。