実務の落とし穴がわかる! 契約書審査のゴールデンルール30 / 松尾 剛行 (著)

著者よりご恵投いただいた一冊。一通り目を通したので感想をメモ。いつ読むのかが難しいものの、契約書の審査をするのであれば目を通して損のない一冊。

なお、前述の経緯により、こちらのモノの見方に一定のゆがみが生じている可能性があることを予め付言しておく。

 

 

多作ぶりを夙に知られており*1、最近では特に情報法周りやキャリア教育について積極的に著書を出されている松尾先生が、ゴールデンルール、シリーズ*2の一冊とはいえ、契約書審査についての本を出されるという報に接してやや驚いた。松尾先生の経験値・能力値的にその種の本を書くことはもちろんできるのだろうが、そういう方向にご本人の興味関心が向くことは想定していなかったので。おそらくキャリア教育の中で必要になったから書かれたのではないかと勝手に拝察しているが、どうだろうか。

 

シリーズ物のフォーマットに従って、契約審査時の「落とし穴」を回避するという観点から注意すべきポイントを30のケーススタディとそこから得られるゴールデンルールの形で記されている。200頁弱のコンパクトな分量にまとめられているので、通読が容易な反面、網羅性のようなものは望むべきもない。この分野で既に優れた本があるからそのような形を取ったと理解可能な記載が「はしがき」にあるが、著者が「優れた本」としてどういう本を想定しているのか、換言すれば、本書と組み合わせて、少なくとも相対的に、より網羅的な契約審査のノウハウをつかむためにどういう本を読むべきかは、本書の記載それ自体からは必ずしも明らかではない。個人的には幅野本と阿部井窪片山本ではないかとは思うのだが、どうだろうか。書籍についても目利きであろう著者から、なにがしかの推薦があってもよかったのではないかと感じた。

 

本書が優れていると思うのは、上記の点とは関係があまりないところである(だからこそ前述のようなことを先に安心して書けるのだが。)。個人的には、企業内法務向けではないものの、そうした立場から見ても「分かってる」感のある記載が随所に見られる点が印象深い。網羅的ではないが、いくか例を挙げてみる。

  • 「ビジネスモデルを疑う」と題したケースで個々の条項以前の、ビジネスのアレンジそれ自体の問題を指摘している点。取締法規抵触の可能性が取り上げられているが、個人的には税務の問題も頻繁にこのレベルで問題になると感じている*3
  • 修正意見に優先順位をつけることの重要性の指摘。交渉である以上当たり前のことではあるとは思うが、指摘されていることが多いとはいいがたいのではないか。
  • 文言の修正の余地のない契約書の審査時の対応についての解説。本書では「リスク告知」という表現が取られている*4

 

最後に、本書で一番難しいと感じた点についてメモしておく。それは、この本をいつ読めばよいのかという点である。本書と共に送られた添え書きには、若手弁護士等に読んでほしいとあるが、経験値が少ないと内容が肚落ちしない、または、仮に肚落ちしても再現できないのではないかと懸念する*5。幅野本や阿部井窪片山本を片手にある程度契約審査をやったうえで、本書を読むのが良いのではないか。

 

いずれにしても、どういう立場であれ、契約審査に関わるのであれば、目を通しておいて損のない一冊と考える。

 

追記)いつもご見解に圧倒されている経文緯武先輩のレビューもご参照有れ。

tokyo.way-nifty.com

*1:凡例で挙げられているご自身の関与された書籍だけからもその点は窺い知れるところであろう。

*2:文章に謎のグルーブ感のあるこちらの一冊が脳裏をよぎる。本書と同時に改訂されたようだが。

*3:企業内においては、仮に法務部門の管轄外であったとしても、その可能性を指摘してしかるべき検討・対応がなされているか、そのうえで最終的な契約締結に至っているか、見届けることも、(実際に貫徹できるかはさておき)重要な任務ではないかと考える。

*4:個人的には、単に伝えるだけでなく、後で文句を言われないようにする意味も込めて「因果を含める」という表現を使っている。

*5:ケーススタディやアドバイスの中で具体的な文言レベルの記載がない点が、余計にそうした懸念に繋がっているが(特にこの本を独力で読むような場合にはそういう懸念を抱いて然るべきだろう。)、全体の分量の制約からすればやむを得ないところだろう。