株主総会の新機軸 / 倉橋 雄作 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。内容についての賛否はさておき、総会周りの業務に関わるならば目を通しておいて損のない一冊。

 

中村直人先生たちが設立された中村角田松本法律事務所から独立された倉橋先生の単著。株主総会をめぐる昨今の状況を踏まえて、株主総会の「現代化」をゼロベースで再構築するための提言がまとめられている。中村先生の新刊と同時期に出て、いずれも通読可能なコンパクトな分量に収められているものの、中村先生の新刊が役員向けというのとは異なり、総会の実務担当者向けという感があって、条文や判例の引用も盛り込まれていて、読む上での歯ごたえがある感じがした。総会担当者であれば読んでおいて損はないだろう。

 

全体では5章構成で、1章で全体の総論的な位置づけで、昨今の状況を概観している。2章では株主総会での情報発信をプレゼンテーションとして行うことの意義を説く。個人的には監査役員、社外取締役によるプレゼンテーションをすることの意義が説かれているのが個人的には印象的だった。3章では総会進行のシナリオの合理化について、4章では質疑応答の現代化についてそれぞれ説かれている。総会屋を警戒すべき時代ではないということを踏まえ、株主との実質的な対話の促進を重視した内容になっている。総会進行のシナリオでは双日の実例が挙げられているのが有用と感じた*1。5章ではテキストでの質問受付について、バーチャル総会での活用も視野に入れて、積極的に質問に答えて、株主との対話を促進する形で解説がなされている。

 

簡潔な文章で端的に論じているあたりは、中村直人先生の文章に近いものを感じるが、より熱量を感じた。また、ゼロベースで総会を再構築している感があり、従来の延長線上で現代化を図ろうとする感のある中村先生の本とは立ち位置が違っている気がした。

 

内容はなるほど、と思うところが多かったが、では直ちに勤務先の総会に内容を取り入れるかというと、必ずしもそうではない。総会は担当者の私物ではないので、担当者の好みでことを動かすのは、直ちに適切とは言い難い。総会については、議長をはじめとする社内の関係者との間でコンセンサスを作ったうえで、準備を進める必要がある。前例を変えるのには一定の説明と合意形成が必要なうえ、長年慣れている行動様式を変えるのには相応の手間暇がかかる。総会の準備は、時間のない中でやることになり、それでいて、間違いが生じると最悪決議取り消しなどのリスクを負うことになる。そういう負荷の高く、可処分資源の限られたところで*2、やり方を変えるという追加の負荷をかけることが正当化できるのか、そこを慎重に検討したうえでないと、不用意に変えて混乱を引き起こすことになりかねない。そういう意味では時期を見て、徐々に変えていくという対応も一定程度正当化可能なのではないかと感じる。

 

 

 

*1:とはいえ、双日のような諸々の資源に恵まれていると思われる企業の実例がどこまで参考になるのかは、別途検討が必要だろう。

*2:最も希少な資源は議長の時間だろう。