文にあたる/ 牟田 都子 (著)

図書館で目を通したので感想をメモ。企業内法務で契約を含め文章のチェックにあたるのであれば、読んでおいて損のない一冊と感じた。

 

図書館員から出版社の校閲部に転じ、その後フリーの校正者となられた著者が校正や校正者について書かれた本、というところだろうか。読みやすさも含めて校正の対象になるからか、250ページほどの本でも一気に読むことができた。

 

共著2冊が生まれる過程では、校正というプロセスも経た*1。こちらも共著者の一人として校正の入ったゲラというものにも接する機会があったわけである。2冊どちらにおいても、丁寧に校正をしていただき、校正をされる方のプロフェッショナルぶりを見ることになり、驚いたのを思い出した。

 

本書では、そういう機会でもなければ間近に接するとのない校正の世界の奥の深さ、難しさとそれゆえの醍醐味の一端に接することができた。専門性の高い業務を平易な言葉で説明しているので、読んでいて面白くないわけがない。

 

文字になっているもののチェックという意味では、企業内法務における法務部門の仕事と重なる部分がないわけではなく*2、そういうつもりで本書を手に取ったわけではなかったものの、読みながら仕事のことをあれこれ考えてしまった。例えば、「調べる力」やそれ以上に「疑う力」が求められるという点はまさに同じことがいえるだろう。短い一節であってもその内容に問題ないことを確認するのに四日かかったという著者の体験談も、契約審査で「一枚だからすぐできるでしょ」という呑気な依頼に腹を立てた経験があれば納得できるだろう。また、記載事実に誤りがあっても著者の意向次第ではそのまま残すというのも、リスクがあるように見える契約書の文言もビジネスの状況など次第ではあえて修正を求めずそのまま契約締結に至る*3、というよくある話に通じるものを感じさせるのではないか。そういうことを考えながら読むと、ここまでの誠実さをもって仕事をしているか、ということが気になった。いろいろあってなかなかできてないのだが。

*1:そういうプロセスを経ないで世に出る本があるという指摘もあり、やや驚いた。そういう部分の費用までも省略しないといけないとしたら、何かがおかしいのではないかという気がするのだが。

*2:牽強付会かもしれないが…。

*3:その場合は、リスクを指摘したこと、指摘したリスクについて少なくとも文言上は受け入れる判断をしたこと(その判断が経営判断として正当化可能であることが必要なのもいうまでもないだろうが。)が重要で、その点を記録化しておくことが必要になるのは言うまでもない。