上手い助言の仕方とは

例によって雑駁なメモ。

 

くまった先生とのスペース(#萌渋スペース)では、前回は、擬古文先輩こと、経文緯武先輩をゲストにお迎えした。経文緯武先輩のお話が有益だったこともあり*1、予想以上の人数の方々にお聞きいただいていて、こちらとしては気をよくして(=味を占めて)、次、を考えるに至った。

 

今回は、いただいたリクエストの中から、こちらの呟きを基に考えてみようかと*2。なお、今回もスペースには経文先輩にもご参加いただく予定。

 

以前のスペースの回の話題(その際にこちらの喋ったことの台本?はこちらのエントリを参照。)の延長線上にあるのかなという気もするので、その辺りからつらつらと考えてみる。内容的に重なる点もあるだろうが、ご容赦を。

 

外部の弁護士さんに何らかの助言を求める、ということは、助言を求めた側は、通常、当該助言に基づいて社内外に対して何らかの行動を起こすのが前提となっていると考えた方が良いのだろう。助言だけ求めて、神棚に飾っておくということは、そうそうないと思うので。

 

そう考えると、外部の弁護士さんが返すべき助言は、依頼者にとって、次の行動につなげやすいものであることが望ましいはず、と考える。では、具体的には、それはどういうものなのか、そのような観点からの推奨事項と禁止事項はどういうものであると考えるべきか、というのが次の問いになろう。この点は、社内依頼者と企業内法務との関係においてもあてはまる部分があるだろう。ともあれ、この点は、以下では一旦棚上げする*3。でないと話が進めづらいので。それと、以下ではなぜか、レジュメ風?に、構造化(というほどではないが)して文章を書いてみる。

 

  • 問いを理解する:まず依頼者が何を求めているか、助言する側が十分理解できているのかから確認するべきと考える。問われていることが十分に理解できていないところで、十分な答えができるとは考えにくいからである。そして、これは言うほど簡単ではないように思う。この点は問いを投げかける側としても、難しさを感じるところでもある。適切な助言を得るために、必要な情報のインプットをするのは、問いを投げかける側の責務でもある。分からない点は確認をするのが重要ではあるが、それもいうほど簡単ではないように思う。この点を2つに分けて考えてみる。
    • 前提事実のレベル。時系列に沿って把握すると、次のようになるのではないか。
      • 現時点での話。次の2つは分けて考える必要があるだろう。前者については、自力で到達可能な情報もあるかもしれないが、後者は到達困難だろう。いずれについても、不明点がないようにしておく必要があるだろう。
        • 当事者間の関係・取引スキーム:外形的に理解可能なレベル。こうしたものを把握する際に、特殊用語(業界用語・依頼者の社内用語)も把握しておくべきなのは言うまでもない。一般的な用語と異なる用法の場合は特に。そうしないと、資料を見ても誤解する可能性があるので。
        • 上記の内の正味の関係:当事者以外にはわかりづらいレベル、依頼者の肌感覚でのそれは把握しておかないと、実効性に難のある(と依頼者に思われるような(実際はどうあれ))答えを返すことになりかねない。
      • 過去の歴史的経緯(事案・必要に応じて)。過去の経緯を踏まえないとそもそも現時点の状況が理解できないということも、ままある。現時点で入手可能な情報に限りがある場合もあろうが、それでも把握できるものは把握した方が良いのだろう。もちろん、限界があることは別途認識しておくことが必要だが。
      • 未来・今後(事案・必要に応じて)。ここもさらに2つに分けて考えてみる。
        • 直近の予定。いつまでに答えを返すべきか、返した後、直近では依頼者の中で、どういう動きが予定されているか、ということは、返し方などにも影響するので、把握しておくべきだろう。依頼者の中で役員説明がある場合には、役員説明に使いやすい返し方を考えた方がいいのではなかろうか。
        • 長期的な予定。長期的な展開として想定しうるシナリオを把握して、そういうものに悪影響を及ぼし得る助言には慎重である方が望ましいのではないか。
    • 依頼事項のレベル
      • 実体
        • 依頼前に想定されている「シナリオ」を把握する。依頼者からすれば、一定の想定をして相談に来ていることが多いと思われるが、何の予告もなく、当該想定と異なる回答が出てきた場合には、対処に困ることがある。無駄になる準備も出て来て、面倒が生じることもある。そのような「サプライズ」の可能性があるのであれば、早めに示唆する方が良いのではないかと考える。この辺りは依頼者の「本音」をどう把握するか、依頼者との距離感をどう取るか、ということとも関係するように思われる。
        • それとは別に、依頼者が特に気になっている点については、訊いておいた方がいいのではなかろうか。依頼者の方が事実関係をよく把握しているはずなのだから。
      • 形式
        • 説明の論拠にどこまでの資料(判例や文献が主だろう)を添付することが期待されているのか、ということも把握しておく方が良いのだろう。依頼者側の文献・判例へのアクセス状況次第では、そこからアクセス可能なものは殊更にコピーなどを手間をかけて添付する必要はないかもしれない(その場合はアクセスに必要な情報を示すだけで足りるかもしれない)。この点は依頼者がどこまで拘るというところでもあり、あまりに拘りがないというのも、外部弁護士の意見をロクに吟味せずに丸のみということになりかねず、その結果が悪かったら後でクレームが来るかもしれないという意味で、リスク要因になるかもしれない。
        • 締め切りとかを確認するのはいうまでもない。締め切りの意味として、依頼者側が回答を受け取ったあとどうするのかも確認するのが良いのはいうまでもない。
  • 次の行動につなげやすい答えを考える
    • 調査すべきものを調査する。当たり前に見えるかもしれないが、それほど簡単な話なのかは、疑義があるところ、と感じる。
    • 考慮すべきものを考慮に入れて検討する。
      • 外の弁護士として、判例やそのほかの実務がどうなっているか、「社外」の眼から見たときにどう見えるか、というコメントは、依頼の有無に関係なく、重要と考える。
    • 答えにまとめる。まとめ方については、考えどころという気がする。
      • まずは結論から。知りたいのは、まずは結論のはず。それであれば、結論から示すのが良いのではないか。全体が長くなればエクゼクティブサマリーを冒頭に付すこともあり得るだろう(その中でも結論から示すべきなのは言うまでもない)。そのうえでさらにいくつかのことをメモしてみる。
        • 複数の選択肢があるなら、いかなる基準で選択肢の中から選択すべきかを示すべき。そのうえで、可能であれば、法律面からの「お薦め」も、根拠と共に示した方が良いように思う。とはいえ、それは主に法律面からの「お薦め」でしかないことは留意すべきだけど。
        • リスクは、ある・なしに加えて程度も示すべき。リスクがある、と言うだけなら、誰でもできそうに見えてしまう(実際はさておき。)。どのように「ある」のか示すことが重要。
      • どこまでどう理屈を書くかは考える。依頼者との距離感次第では依頼者に訊いてみるのも一案かもしれない。
        • 噛み砕いた説明の要否及び噛み砕く度合い(粒度、とでもいうのだろうか)も考えどころで、やり過ぎると、莫迦にされていると感じる人が出かねないし、不足だと何を言っているのかわからないという印象を持たれる可能性があるし、そもそも必要な理解をされない可能性がある。わからないと言ってくれない可能性もあるので、その場合は、不十分な理解で走られる危険が残ることになる。この点は、返した答えを誰が見るのかという点とも関係する気がする。答えが依頼者の社内でエライ人まで回覧されるとなると、目の前の法務担当者だけを意識するだけでは不十分かもしれない。
      • 必要な留保(保身)はつける。ただし、つけ方には注意が必要
        • 留保自体はあるのが寧ろ通常だろう。無留保で助言など出来るわけがない。
        • とはいうものの、作成したメモの最初に長々とした留保があって、留保を見ないと結論にたどり着けないようなメモは最悪といってよいだろう。そういう実例を見たこともあるが。
        • 留保は、読みようによっては、依頼者に向かって「あなたを信用していない」とも読めてしまう。従って、そのつけ方には慎重になる方が良いだろうし、ここは事務所の巧拙が出るところだろうと感じる。
      • 実現可能性は重要
        • その依頼者にとって、実現可能性がない、と見える選択肢は存在しないことと等価、助言をしていないと考えた方が無難なのではないか。実現が難しい相談でも、少しでも実現可能性が高い方法を考えるのが重要と思われる。
    • 答えを返す
      • 「サプライズ」を防ぐ。再三述べているが、最優先はこの点と考える。想定外の答えとなることはできるだけ避けるべきだし、そういう可能性が見えた段階で、その可能性を示唆することが望ましいのではないかと考える。
    • 答えを返した後。可能であれば、次の3つに分けて状況を確認した方が良いのではないかと考える。そうしないと助言の質の向上に繋がりにくいように思うので。
      • そもそも返した答えに書かれていることが理解されているのか。これは流石に生じる確率は低いと思うが、噛み砕き方の問題も含めて、文字に書かれた内容として理解されているかどうかは最初に確認すべきだろう。
      • 返した答えが受け入れ可能なものとして理解されたか。仮に前記の点では問題がなかったとしても、何かを読み違えて、受け入れ可能な選択肢を示すことが可能であったにも拘わらず、それを示していないと受け取られたのであれば、それ自体が問題なので(そういうことが続くと継続的な関係も「切られる」かもしれないので)、そういう事態になっていないかの確認はしておくべきだろう。
      • 結局どうなったか。正味どうなったかも把握しておくと、把握した時点で適時に助言することで、更なるトラブルの火種を消すことにつながるかもしれない。

…これでお答えになっているでしょうか>若手弁先生。

 

…ともあれ、引き続きリクエストは募集中です(汗)。ハッシュタグを使って呟いていただければと思います。ではまた(謎)。

 

終了後の追記:経文先輩の老練ぶりに圧倒されて、その呼び水になっただけで終わってしまった感があるので、さらに精進したいと思います(謎)。

 

追記その2:リクエストカード?をくださった若手弁先生が感想を書いていただいたのでご紹介。喜んでいただけたようで何よりです。

wakateben.hatenablog.com

*1:先輩のお言葉については、老獪という表現をされている方が多かったが、かの言葉には消極的な意味も含まれるため、そういうものを含まない表現として、個人的には、老練という表現を使いたいと感じるのだが、ご本人が老獪というハッシュタグを使われているのに接して、これはこれで味わい深いとも感じる。

*2:特にプレゼントなどはありません(謎)。

*3:それと、以下については、こちらがこれまで・今後どれほど実践できているかについても、棚上げしている。特にこちらの元ボスにおかれては(ここを見ることはないだろうが)、その点特にご留意いただきたく。