契約法入門─を兼ねた民法案内 / 窪田 充見 (著)

図書館で借りて一通り目を通したので感想をメモしてみる。

 

契約法に重点を置いたコンパクトな最新の民法入門。個人的なエピソードも交えつつ語る口調の文章も読み易い。枝葉に属することをバッサリ切り落していて(担保物権あたりは、ばっさり落しているが、妥当と感じる。)、内容は絞りつつ、項目によっては、ある程度突っ込んで記すなどしていてメリハリもあって、平板になっていない。総じて、民法に最初に接する本としては、悪くないように感じた。

 

こちらの印象に残ったところをいくつかメモしておく(不勉強で知らなかっただけじゃないかという説もあるが...。)。

  • 債権と物権の違いについて、権利実現の仕方に差異があるという指摘。債権は履行によって消えるのが最終的目的であるのに対し、所有権などの物権は、原則として権利が永続することが目的であるとの指摘は、例外(抵当権が指摘されている)はあるけれども、大枠での理解の仕方としては分かりやすいと感じた。
  • 信義誠実の原則と権利濫用の禁止の関係について、後者が前者から独立して機能する場面はそう多くないとの指摘も、納得。
  • 贈与について、書面による贈与が履行完了まで契約解除可能というところから、実質的には要式契約・要物契約としての贈与を理解可能という指摘も、あまり考えたことがなかったが、言われてみると納得。
  • 1000万円の支払いがないときに、利息と共に元本の損害賠償請求をした場合に、損害賠償である以上、元本部分も過失相殺の可能性が出てくるとの指摘。そういう請求を考えたことがなかったが、言われてみるとそうだなと納得。
  • 最後にローマ法以来の歴史を振り返る中で、日本の明治期に不平等条約の締結に至った意味、というか、法典未整備の日本相手だと、列強側からすれば、来日する自国民の法的保護を考えると、条約が不平等にならざるを得ない側面があった(だからこそ日本側は法典整備を急いだ)という指摘は、これまた考えたことのない視点からの指摘で印象に残った。

 

他方で、次の点は問題と考える。改訂時に補充を希望するところ。

  • 入門書なので「この次」の読書案内は欲しかった。この先の学習に委ねている部分もある(それ自体は妥当な判断だろう)のだけど、その先の案内がないのは不親切と感じる。不法行為については著者の本だろうが、それ以外は?というところが気になった。
  • 専門用語を割に躊躇せずに使っていて、それぞれに対して初出のところでは手当てをしている(説明も分かりやすい。)ものの、読み進めるうちに、同じ用語が再度出てきたときにどこで説明がされていたか探しにくい。この点は索引がないのも一因だろう。著者は、気軽に読む本だから索引はつけていないと言うが、は正直言い訳としても適切でない気がする。初めて接する人が疑問に思ったときに、自分で調べるということの助けはあるべきだろう。他に手元に本がない可能性もあるだろうから、この本で完結している方が良いと考える。